しんしんと一晩中降った雪。
朝には太陽こそ顔を見せないものの、ようやく雪そのものは降り止んだ。
「最高の雪見酒日和ねえ〜〜♪」
窓辺にコタツを引き寄せて。
トクトクと猪口に冷酒を注ぐ。
「・・・・くは―――――――っ!!」
満足しきった声を上げる。
「四月一日ー!ワ・タ・ヌ・キ―――――――っ!!」
「喧しいですよ、侑子さん!!朝っぱらから!!」
「おつまみー!今度は燗でつけてー!♪」
「いーかげんにしてください!!」
割烹着に三角巾の少年が、があぁぁぁっ!と吼える。
それを一切スルーして。
「おつまみ何かなー♪ね〜モコナー♪」
『次元の魔女』のテンションは朝から高い。
文句を言いながら少年が作ったおつまみを堪能しつつ、ふと思う。
(あちらのモコナも元気でやってるかしら?)
目の前の『黒い』モコナはもぐもぐとチーズを食べている。
(この子が元気なら、あっちも元気、と。)
対で作られたモコナ=モドキ。
相互に通信・物質転送が出来る。当然お互いの体調もお互いに作用する。
白モコナがお腹が空けば黒モコナも空腹を感じる。
黒モコナがお腹を壊せば、白モコナも不調になる。
『向こう』を知るには、黒モコナを見れば良い。
黒モコナが、カクン、と箸を取り落とした。
「あら、どうしたの?」
見遣って愕然とする。
黒モコナががくがく震えている。
「どうしたの、モコナ?!」
思わず声を上げる。黒モコナは、震えながら顔を上げた。
「あっちの・・・モコナが・・・おかしくなってる・・・・・。」
「!!通信できる?!」
フルフルと首を横に振る。
(何があった?!)
『あの男』の思うようにはさせないために時間軸などをずらし、干渉を極力排除した。
それ故に、旅の危険性もまた高まった。
何か、危険な目に?
可能性はある。
でも、水鏡に『向こう』が映らない。
白モコナがどうなってしまったのかが掴めない。
そして、小狼たちも。
次元の魔女もまた、手を出せる値が限られている。
今は、その限界。
次元の魔女は唇を噛んだ。
どうか、無事でいて。
震え続ける、黒モコナ。
愛らしい、この存在が哀しむのは見たくない。
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「モコナ、気分はどうだい?」
四月一日はそろっと部屋を覗いた。
ストーブで温められた部屋。やかんがシュンシュンと音を立て、部屋の湿度を保っている。
小さなベビー布団に包まって、黒モコナは寝ていた。
「・・・・。」
もそもそと布団にもぐりこむ。具合が悪いのだろう。四月一日はお盆をそっと置いた。
「お粥作ったけど・・・食べられるかい?」
かすかに首を横に振る。
「・・・じゃあ、一応置いておくよ。」
枕元に粥を置き、そっと部屋を出た。
「モコナは、どう?」
「食欲、全然無いみたいです・・・。大丈夫でしょうか?」
『あれ』がいわゆる『魔法生物』であるからにして、通常の常識は通用しない。
製作者の『次元の魔女』にしか、それはわからない。
「・・・大丈夫よ、きっと。」
それは自分に言い聞かせるかのように。
しばらくして。
四月一日が庭で何かしているな、とぼんやり見ていたが。
じゃあ俺学校行ってきます、と言って、四月一日が出て行った。
モコナの様子を見に行こうとして。
「あ・・・・。」
モコナの部屋の、縁側に置かれた小さな盆。
そこにはかわいらしい『雪うさぎ』がちょこんと乗っていた。
南天の目に、笹の耳。
作ったのは四月一日だろう。
ふっと顔が綻ぶ。
「モコナ、気分はどう?」
障子を開ければ、モコナがこっちを見た。
「・・・・。」
返事が無い。
「これね、四月一日が作ってくれたわよ。」
その部屋に置いたら溶けちゃうから、とそのまま廊下に置く。
雪うさぎは、白モコナに見えた。
「大丈夫よ。」
それと知って。次元の魔女は雪うさぎを見つめたままで、呟くように。
「あの子は、大丈夫よ。・・・そして、皆も、ね。」
ここに置いておくわね、と、モコナから見える位置に置き、雪見障子にした。
「あ。」
しんしんと、また雪が降り始めた。
近年に無い降雪量かもしれない。
降り積もる雪を見つめながら、次元の魔女は静かに呟いた。
「今日だけ・・・・『ラーグ』って呼んで良いかしら?」
黒モコナ――――『ラーグ』は、黙って頷いた。
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