廊下でふと、すれ違った。
「?」
はっと振り向く。相手は気づかない。
「あの!もし!」
声をかけるとようよう振り向いた。
「・・・ネコ様?何か御用でございますか?」
呼び止められたのは公達の一人。内務省に勤める者だったはずだ。
「あ、えーと、あのですね・・・・。」
「?」
「ちょっとお尋ねしたい事がありますので、お時間いただけますか?」
「はぁ・・・・そういう事でしたら、今なら時間はございますが。」
「じゃあこちらへー。」
そう言って案内したのは、天照の執務室近く、普段控えに使う部屋だ。
ここなら密室であって密室ではない。想像たくましい者たちの目も緩むところだ。
「今お茶淹れますね〜。」
手早く淹れた茶をどうぞ、と差し出す。公達はぺこりとお辞儀をした。
「頂戴いたします。・・・で、何のご用件で?」
少しだけ、言葉を探した。
「単刀直入にズバッと聞いちゃいますけど・・・・『逢引き』なさってますね?」
公達の頬がぱっと染まり、続いて狼狽した声がほとばしり出た。
「な・・・何を!第一それがネコ様に何の関係が?!」
「まあ直接関係はないんですけどー・・・・・。」
ぽりぽりと頬を掻き。手を止めて見る目はもう笑っていなかった。
「お相手の方ね、幽霊なんですよ。・・・・あなた、とり憑かれちゃってるんです。」
公達は目を真丸にした。いやそれは当然の反応だろう。
何処の世界に、『貴方のデートのお相手は幽霊ですよ』なんて言われて驚かない者がいるだろうか?
「・・・ネコ様。お言葉ですが、あの人は――――――――――生きております。」
半ば苦笑いしながら公達は言った。
(もしやネコ様があの人に懸想を?)
的外れではあったが、普通なら考えてもおかしくはない。
「○○家の姫君でしょ。確かに『生きて』いらっしゃいますよね。」
ファイはまた頭をかいた。これはどうやって説明したらいいのだろう?
「まあなんというか・・・貴方への想いが強すぎたんですよねえ。」
「はぁ。」
「好きすぎて、魂が身体を離れてしまってる。うーん、『生霊』っていうのが近いかな?」
「まさか、そんな事が・・・・!」
「このままだと、本当に姫君は死んでしまうし、あなたにも危害が及びます。」
ファイの目は真剣だった。公達も思わず背筋を正す。
「では・・・・では・・・・・・一体どうしたら?」
「んー、じゃあねえ。」
小引き出しをごそごそ捜して、そうそうこれこれ、と引っ張り出してきた。
「これね、姫君がいつも持ってくる灯りと取り替えてください。」
渡したのは、何の変哲もない提灯。
そこに先ほど引っ張り出したろうそくを立てる。
「貴女との愛の証が欲しいから、とか何とか、そこは口うまく言って、ね。」
「・・・・・はあ。」
これが一体なんの役に立つのかと。
公達は首を傾げつつ、受け取って部屋を辞していった。
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翌朝。
「取り替えました。」
そう言って公達が件の提灯を持ってきた。
あでやかな牡丹の絵が描かれている、風雅な提灯だ。
受け取り、静かに床に置く。
そして低く、しかし確実に呪文を唱え始めた。
「――――――――――あ!」
思わず公達は声を上げた。
描かれた牡丹の色が異様な変化を見せている。
あえやかな桃色であったものが、どす黒い闇の色に変わっていき――――――――。
バン!と激しい音を立てて真っ二つに割れ、炎が立ち上った。
一瞬火事だ、と叫ぼうとしたが、炎は急速に収束していく。
目を瞠る公達の前で、提灯はその姿を完全に『消した』。
「・・・ネコ様、これは一体・・・・・?」
「姫君の想いの深さが付喪神となって提灯に宿り、姫を逆に取り殺そうとしていたんです。」
でもこれでもう大丈夫ですよー、と。
安心したかのように何度も礼を述べて退出していくその後ろ姿を見ながら、ファイはボソリと呟いた。
「でも、結婚はしないほうがいいだろうなあ。」
誰か他の侍女あたりと話をするだけでも呪い殺されてしまいそうだ。
恋する女の一念たるや、恐ろしいの一言に尽きる。
彼の将来を思うと、この結婚はやめたほうがいい――――――――。
「余計なおせっかいかなー。」
あとは二人と、周りがどうにかするだろう、と。
金髪をひょい、と揺らし、一仕事終わったあとのお茶は格別だ、と一人悦に入るのだった。
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