冬の雪、秋の月、春の花。
四季それぞれの趣きある風情を譬えた言葉。
だが。
「どうして『夏』には何もないわけ?」
至極当然の問いだといえば、きっとそうだろう。
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えこひいきではないのか。
夏があって初めて『四季』といえるのに。
これでは夏の立場ってものがない。
それこそ拳を振り上げんばかりにまくし立てる氷雪の魔術師。
『俺は何も知らん』とばかりに早々に逃げ出した忍者はむしろ賢明だ。
もちろん去った黒影にひとしきり悪態をついてからもその勢いは止まらない。
「たまたま四季の中で殊に趣き深い物を選み出したらそうなった、という事だろう。」
「夏だっていいのがあるよ!花火でしょ、蛍でしょ、蚊遣りだって可愛いし!」
「蚊遣りが趣き深いかどうかについては議論の余地があるな。」
女官長が『一息お入れくださいまし』と淹れてくれた茶をゆっくりと飲む。
その仕草すらどこかふてぶてしく感じられて。
「あの豚さんのぶっくりした所が可愛いの!」
それは『趣き』とは少し違う、という呟きは華麗にスルーした。
「まぁ、あれだ、ファイがそこまで理解を深めてくれている事は喜ばしい事だな。」
これまた他人事のように天照が扇の影に笑みを零した。
「本当に。迎えた私共も嬉しい事限り無しですわ。」
ニコニコとして言われると、どうにも何か裏があるように思えてしまうのは。
「オレ・・・・何か悪い事しました・・・・?」
「いいえ?別に何も?」
「そうですかー・・・・・。」
心なしか勢いをそがれて。
ファイはすとん、と椅子に座った。
落ち着いたと見て、天照が声をかける。
「一服所望じゃ。ちょうどよい。『雪月花』で参ろう。」
「?」
きょとんとした表情のファイに、『略式で。』と知世姫が裏向けにした札を示す。
「お好きなものをお引きなさいな。人数も足りませんからちょうど半分で。」
ますます解らないといった顔でファイは一枚引き、裏返す。
「あ、花の絵だ。」
「ではファイが点前ですわね。もう点て方は解りましたか?」
「えっと・・・・つまりオレがお茶を点てるんですか?」
「ええ。ファイが『花』の札を引きましたでしょう?」
「はい。」
「『花』の札を引いた者が手前を。『雪』はお菓子をいただき、『月』は茶を飲む。」
「わあ!『花』の札引いたオレって一番悲惨!」
ホホホ、と知世姫は袖に笑いを零した。
「もちろん交代でいたしましょう。一番手、という事で務めてくださいな。」
「うへ・・・・はいー・・・・。」
それでも、貧乏くじだー、などと言いながら点前の仕度をする。
「『花』が一番華やかなのにー。」
「だから点前をするのだろう。一番の立役者だからな。」
「納得できないー。」
ぶうぶう言いながら、それでも鮮やかな手つきで茶を点てた。
「うむ、見事な点前じゃ。まこと上手になったな。」
一服飲み、天照が賞賛の声をかけた。確かにファイはよく修養を修めている。
半分は自分自身の興味もあろうが、殊に力を入れているようだ。
へへ、と笑いを浮かべるあたり、本当に照れているのだろう。
「『夕さりの時鳥』も加える事もあるそうだが、四よりは三の方がいいのかもな。」
自分もまたこくりと飲みながら、呟くようにいう。
「どうして?」
「『四』では安定し、完成してしまう。『三』なら安定もするが、まだ加え所がある。」
静かに飲み口をぬぐって懐紙に手を添えた。
「言葉に、形にせぬ奥深いものの融通が効く場所を残す意味やもな。」
「想像し、慮れって事かな?」
「そんな所かな。」
「奥深いねえ。」
「人の内面世界を重んじる国だ。」
氷雪の国、セレス。
ここまで人の内面に向き合う事があっただろうか?
「オレはこの日本国に来たこと、きっといつまでも誇りに思うよ。」
気の早い蛍がふわりと梢に流れていった。
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