コトン。
「ルークでポーンを取る。」
コトン。
「こっちはナイトでルークを貰うよ。」
コト。
「チェック。」
「・・・・・ちょい待ち――――――――っ!!」
「待ったなし。」
「ひのっ!!」
「何やってんだ?ありゃあ?」
さっきからテーブルの盤を挟んで何やらやっている二人を見て。
黒鋼は小狼に訊ねた。
「あれは『チェス』というゲームなんだそうです。」
「『ちぇす』?」
「あの『駒』で相手の陣地に攻め入っていくゲームなんだそうです。」
「・・・・『将棋』みたいなもんか・・・・・。」
そっと傍によって見てみれば。
黒と白に塗り分けられた盤上に、人形のような駒が並べられている。
ふと、(市松模様のようだ)と思った。
人形のような駒を持って、盤上を移動する。
「?」
「『将棋』にも『駒』があるだろう。『飛車』とか『桂馬』とか。・・・それと同じだよ。」
振り向く余裕があるのは、優勢だからか。
実際ファイは、如何考えても『あがいている』としか思えない様子だ。
「で、ヘライのが『負けてる』と。」
「そう。」
「まだ負けてない――――――っ!!」
ムキー!と反論するが、それが無駄な抵抗である事はファイ自身が一番良く解っている。
「ここでこうやって、こう行って、こう!!」
が―――――っ!と駒を動かす。3手ほど勝手に相手の駒まで動かした。
「おい、いいのか?」
普通に考えれば『良くない』のは火を見るよりも明らかだ。
だが。
「構わない。」
全く意に介さず。
ぜいぜいと肩で息を継ぐファイにふっと笑いかけた。
「・・・・?!」
「『チェックメイト』。」
「・・・やめて――――――――っ!!」
があぁぁっ!とテーブルに突っ伏した白猫一匹。
そのあまりの反応に、さすがに疑問が湧く。
「・・・・もしかして、何か『賭けて』いたのか?」
「買出し当番。」
「はぁ?!」
思わず声を上げてしまった。たかが買出しごときでここまでやるか?と。
「黒たん知らないからそんな事言うんだ・・・・・。」
えぐぅ〜〜と半泣きになりながらファイがぼやく。
「何なんだよ、訳わかんねぇぞ?!」
「此処の『通貨』が問題でな。」
「・・・・『通貨』?」
「あれだ。」
指差す方を見れば。
「・・・・・・・・・・・マジか。」
さすがの黒鋼も呆れた。
そこにあったのは、銀色に輝く、大きな『タマゴ』。
それもダチョウの卵サイズだ。
もちろん本物の卵ではないが、かなりの重量があると見て取れた。
ぐすん、と鼻をすすりつつ。
よいせよいせ、とリュックに入れた。
「・・・・・はぁ〜〜〜〜〜すぅ〜〜〜・・・・。」
大きく深呼吸をして。
「せぇのぉっ!!」
気合いを入れてそれを背負った。
途端によろよろとよろめく。
「ファイさん、手伝います!」
「いいの!これはオレの仕事!!」
半分据わった目で。
「行ってきます!!」
「『帰り』はもう少し軽いはずだ。」
「うが――――――っ!!」
拳を突き上げて。
振り返りもせずファイは買い出しに出て行った。
「あの・・・リアンさん・・・・・。」
「何か?」
「その・・・・魔法で『軽く』してあげないんですか・・・・?」
「やってもいいがな。」
ペシペシと『タマゴ』を叩いて。
「『重さ』で換算されるのでな。商う時に『軽い』と、価値が下がってしまう。」
ファイが魔法を使わない以上、いざ取引する段になって魔法の解除ができないという事になる。
行商人には何時何処で出会うか解らない。
だったら最初から魔法は『かけられない』のだと。
「・・・ファイさん・・・無事に帰ってくるでしょうか・・・・?」
「大丈夫だとは思うがな。・・・・・ある意味、自業自得だが。」
「え?」
「最初は『2人』で行こう、と言っていたのだよ。」
何を思ったのか、『チェスで負けた方が1人で行く!』と言い出したのだという。
「何故だろうね?」
「・・・・さぁ・・・・・・?」
小狼も黒鋼も、首を傾げた。
結局結論は、『ワケ解んねぇヤツの頭の中身なんざ、俺達に解る訳がねぇ!』の一言で終わった。
*****************************************
結局ファイが戻ってきたのは、もう真夜中に近かった。
「・・・大漁、だな。」
半ば呆れて。
鬱憤晴らしのように買い込んできている。
ぐったりとして、食事も風呂もパスして部屋で沈没した。
もちろん翌朝は筋肉痛がプラスされて動く事も出来ない。
うつ伏せになったままで、ピクリとも動かない魔術師に、小狼が恐る恐る声をかける。
「・・・ファイさん・・・何か食べます・・・・?」
「・・・・何も・・・食べたくない・・・・・。」
「・・・・・でも・・・・・。」
「『痛い』のは背中か?」
痛みの、遠いとはいえ『原因』でもある人を恨みがましそうに見つめて。
はあ・・・・、とため息をついた。
その『背中』に。
ペタリ、と手が当てられた。
(・・・・・・・・?)
疑問符を浮かべる前に、その『手』の温かさにふと意識が浮遊する。
(・・・・・あったかー・・・・・・・い・・・・。)
そこから、温かな波動が背中全体に伝わってくる。
それは四肢の隅々にまで行き渡って。
体のこわばりが解けていく。
リアンが手を離したとき、ファイは安らかな寝息をたてていた。
「あ・・・・寝ちゃいましたね・・・・・。」
「目覚めたら、もう動ける。食事の方は用意しておこう。」
そう言って小狼を促す。合点して、2人は部屋をそっと出た。
戸口の所の廊下に腕組みをして壁に凭れて立っていた黒鋼に、『眠ったよ。』と声をかけて。
階下に下りて行くその背なを見つめて、小狼は言った。
「あぁいうのを、『手当て』って言うんですよね?」
「・・・・あぁ。」
柔らかな『気』で癒された魔術師は、目覚めたら、『いつもの』魔術師に戻っているだろう。
どこかで羨ましさすら覚えて。
振り切るように黒鋼は声をかけた。
「小僧。鍛錬の時間だ。」
「はい。お願いします。」
二人は宿の庭に続く扉に向かって歩き始めた。
|