それは、とっても小さくて。
よくよく見ないと見落とすのは当たり前であるほどに。
でもサクラは、『それ』に目を留めた。
雨の降る、ある日の午後。
濡れそぼれた葉の上で。
小さな、小さな。
かたつむりを。
まだ卵から孵って、あまり経っていないのだろう。
それは本当に小さかった。
それでも形はちゃんと『カタツムリ』で。
糸のような目が2本、ちょん、と立っている。
それだけなら、『赤ちゃんのかたつむりだね。』で終わっただろうけど。
それは『違って』いた。
そう。
そのかたつむりの殻は、
『透明』、だった。
いわゆる突然変異。
アルビノ、なのだろう。
その巻いている渦の模様もかなり薄い。
ただ、それだけなのに。
サクラは胸が締め付けられるような気がした。
そのかたつむりは、他の仲間とは違う『葉』の上にいたから。
一人ぼっち。
仲間はずれ。
そんな言葉が頭に浮かぶ。
そうかもしれない。
そうでないかもしれない。
でも現実に。
このかたつむりは、独り。
そして、あの女性も。
「『人』に対する感情は、時の彼方に置いてきた。」
次元の魔女さんに。
この女性はどんな想いで告げたのだろう。
何もかも失った絶望と。
ただ独り、時の流れに取り残された哀しみと。
そして誰にも、それは理解してもらえない。
『時を永遠に渡り続ける』なんて事は、誰にも出来ないから・・・。
私だったら。
桃矢兄様や、雪兎さんや。
ファイさんや、黒鋼さんや。
モコちゃんや、・・・・小狼君に。
『忘れられてしまう』のは。『自分だけが覚えている』のは。
きっと、耐えられない。
「サクラ姫。」
呼びかけられて。
振り向けば、何の感情も宿さない瞳が見下ろしている。
この女性は。
心の全てを封印して。
何もかもを、その不思議な色の瞳の中に内包して。
皆の事は呼び捨てだけど。
『小狼』
『黒鋼』
『ファイ』
『ソエル』
と。
でも私にだけ、『サクラ姫』、と称号付きで呼んでくれる。
別格扱い?
それがどこか嬉しいのは、何故?
「何か御用ですか?リアンさん?」
「雨が吹き込んでる。・・・風邪を引く。」
そう言って窓を閉める。
わかる。
たとえ、他の誰がわからなくても、私には。
この女性は、『優しい』女性。
|