次元転送―――――――。
何度やっても、『慣れる』程度で、『平気』にはなれない、移動。
目くるめく光から抜け出せば、そこは『異世界』。
見慣れない風景が迎えてくれる。
「新しい『国』に到着ぅ―――――!」
今日もまた。
次元を越えて、新しい『国』にやってきた。
「・・・・・ふわぁ・・・・。」
思わず上げた、ファイの声は、感嘆。
そこは、一面の『砂漠』。
「玖楼国って、確か砂漠の国だったよね―――?」
「あ・・・はい・・・。」
それは、懐かしさすら感じさせて。
「でも、此処の砂漠のほうがもっと広い気がします・・・ね?小狼君?」
振り返って。
サクラの顔が、表情を失った。
「・・小狼君?!・・・何処?!」
「!!」
『傍に居るのが当たり前』の。
小狼が『居なかった』。
「白まんじゅう!てめぇっ、またドジ踏みやがったな?!」
黒鋼がモコナを鷲掴みにして食って掛かる。
「そんな事言ったって、モコナのせいじゃないよ〜〜!」
実際そうなのだが。
それっきり、皆黙り込んでしまう。
以前の経験から、移動の際にはできるだけ手を繋いだり、そばに近づいたりするようにしてはきたのだが。
今まで別れた事はあったが、『一人で』別れた事は無かった。
紗羅ノ国で別れた時は、小狼・サクラ組と、黒鋼・ファイ組だった。
しかし、今度は。
小狼『だけ』が別れてしまった。
しかも。
「時間に差がついてなければいいけど・・・・。」
ファイの危惧はもっともだ。
『場所』が離れただけなら、探せば会える。
しかし、『時間』に差があったなら。
実際、夜魔ノ国に落ちた時、半年の誤差が生じている。
自分たちが先なら待てばいいが――――――。
小狼が先か?
自分たちが先か?
「・・・小僧なら、大丈夫だろう。」
旅慣れた小狼だから。
『やると決めた事はやる』小狼だから。
黒鋼の言葉は、『信頼』と。
だとすれば。
「オレ達ができる事・・・やらなきゃ、ね?」
サクラの顔を覗き込んで、言う。
今にも泣き出しそうになっていたサクラは、ぎゅっと手を握りしめて。
「・・・はい!!」
その目に宿るのは、決意の光。
それを確認して、ファイはふわりと笑った。
「―――――で〜〜?とりあえず、どうしよう〜〜黒様ぁ〜〜?」
「俺に振るな。」
と言いつつ。
少し歩いた先にあった枯れ木の傍に、蒼氷をグイ、と突っ立てた。
「?」
何をするのかと見ている2人(と1匹)の前で、自分のマントを取り、枯れ木と蒼氷の間に渡して掛ける。
「この下に座ってろ。」
サクラとファイに言う。
「え?」
「移動は夜だ。水も無さそうだから、こんな炎天下に移動するのは危険だ。」
それは確かに言えている。水源らしいものは何も無い。
暑い『昼』よりは、寒い『夜』のほうが、体力の消耗度は低いだろう。
即席のテントの下に2人と1匹が潜り込んだのを見て、黒鋼は砂丘の稜線に駆け上がってみた。
「・・・・・・・・・。」
見渡す限りの砂漠、だが。
降りてきて、自分も『陰』の端に座りながら言った。
「・・・向こうのほうに山らしきものが見える。」
「蜃気楼、じゃなく?」
「たぶんな。・・・それほど遠くはない、とは思うが。」
「じゃあ、夜になったら行ってみようね。」
サクラに言い聞かせるように。
「・・・はい。」
本当は不安でたまらないのだけれど。
「モコナ。この世界に『羽』はあるの?」
ファイの問いにモコナは、ん――?と念を凝らしてみて。
「うん!ある!確かに感じるよ!!」
「じゃあ〜『そっち』もがんばらないといけないねぇ〜〜?」
サクラの肩を、ポン、と叩く。振り仰げば、いつもの優しい微笑みで。
「・・・がんばります!」
言ってはみせるけど。
心の不安は拭いきれない。
(・・小狼君・・・何処・・・・?)
それでも今は。
『自分にできる事』を。
――――――――――――――― * ―――――――――――――――
風上に背を向けて、少しうとうととして。
周りがだいぶ暮れなずんできた所で、黒鋼は立ち上がった。
「そろそろ動くか。」
ファイとサクラも立ち上がり、パンパンと砂を払う。
マントを肩に止め、蒼氷を腰に差して、歩き始めた。
空気は急速にその熱を散らせていく。
夜の帳はあっという間に落ちてきた。
この世界に『月』は無いのか、あたりは一面の闇―――――。
いや。
「・・・・すごい・・・・!」
サクラが感嘆の声を上げたことには。
空一杯に煌く、満天の星。
遮る物も、妨げとなる光も無い世界で、星々の煌きは、天上の篝火の如くに煌いている。
空の雲は、地上の光を映さぬが故に、『黒く』あり。
流れる光の帯は、天河となって流れ行く。
しばし、呆然と見とれていたが。
「・・・行くぞ。」
無粋とも言える声が現実に引き戻す。
「黒たん〜〜もうちょっと『情緒』ってモノを理解しようよぉ〜〜。」
「そんなヒマあるならさっさと歩け。」
「けちー。」
だが『歩かなければならない』のは、事実。
ファイを先頭に、サクラ、黒鋼と続いて歩き出した。
だが。
(そろそろ寝ちまいそうだな。)
さっきからサクラの頭がふらふらしている。まっすぐに歩いていない。
まだ大して歩いてもいないが。
と思う間もなく、サクラはふらぁ〜っと横に傾いでいく。
「・・・やれやれ。」
まさに爆睡、である。
「あらら〜〜・・・寝ちゃったねえ・・・?」
ファイが覗き込む。だからと言って。
「よっと・・・・。」
結局運ぶのは黒鋼の仕事だ。さすがにお姫様抱っこではいざという時に対応が出来ないので肩に担ぐ。
とにもかくにも、夜のうちに目的地に着かぬ事には、どうにもならない。
ひたすらに歩みを進める。
「黒たん〜〜〜待ってよぉ〜〜・・・。」
さすがにへばってきたのか、ファイが情けない声を上げる。振り向いて、ため息混じりに。
「さっさと歩け。てめぇまで担ぐ気はねぇからな。」
「黒ぴー冷た〜〜い・・・・。」
実際無理であろうから、ファイとしては歩くしかない。
ただ、ひたすらに。
一晩中歩き続けて、空が白む頃、ようやく『山らしき所』に着いた。
「着いた・・・・よくやったよ〜〜オレ・・・・。」
自画自賛のファイを尻目に、黒鋼はサクラを地面に下ろす。
そして地面を少し掘ってみる。
「ん〜?何してんの〜?」
「・・・此処には『水』はねぇようだな・・・。」
ファイの疑問に飛び越して答えて。黒鋼はそのまま、『水を探してくる』と言って山の中に入っていった。
「今は・・・『生きてなきゃ』、ね・・・・。」
小狼に会うまでは。
地平線の彼方に、朝日が昇ってくる。それはそれで荘厳な眺めなのだけど。
『今の自分たち』にとっては、『苛酷な太陽』。
体力を奪い尽くされる前に、何とか『生きる』手段を講じなければならない。
「・・・水・・・探してみようっかなー・・・・・?」
かなり逡巡した後、魔力を練ろうとして。
足音に気が付いて、その手を止めた。
「お帰りー・・・どうだった?」
黒鋼が『わざと』足音を立てていたと、気付いているかどうか。
「ああ、小さい湧き水があった。とりあえずそこに移動だ。」
「!!やったあぁ!」
思わずモコナと一緒になって小躍りする。やはり『水』は『命』を繋ぐ重要アイテムだ。
「早く行こ!!」
早く早く、と急きたてる。現金なものだ、と呆れ顔でため息一つ。
やれやれとばかりにサクラを抱え(今度はお姫様抱っこだった)黒鋼は先に立って歩き始めた。
『湧き水』は、本当に小さかった。
でも今の皆にとっては、広大無辺の大海にも等しい存在感を持つ。
ファイも、ちょうど目覚めたサクラも、モコナも、手ですくっては飲み、を繰り返した。
途端に感じた空腹も、かろうじて水でごまかす。
黒鋼は見つけたときに飲んだのだろう。今は何やら木を削っている。
刀子で細かく、穴を開けたり、くり抜いたり、削ったり。
ようやく人心地ついて、2人と1匹は黒鋼の手の中の『モノ』をまじまじと見つめた。
「黒鋼さん・・・それって・・・・。」
「取りあえずのしのぎにゃなるだろう。」
出来上がったのは木で出来た『水筒』だった。
「『竹』がありゃあ、もっと簡単なんだがな。」
無いものは、仕方が無い。中を濯いで水を入れると、ピッタリと蓋も納まって良い具合だ。
「黒たんって、意外と器用なんだね〜〜?」
「『意外』だけ余分だ!!」
素材が『木』だから、『竹』で作ったのとあまり大きさは変わらないが、重さは格段に違う。
それでも、もしもう一度砂漠を渡る事になっても大きな助けになってくれる。
各自水筒を持つと、今度は食べ物を探しに、山に探索に行く事になった。
今は。
生きなければ。
小狼を探さなくては。
そして。
サクラの『羽』を見つけなければ。
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