一気に、脳天から足を振り下ろす。
「ギャアアァァァ――――――ッッ!!」
断末魔の悲鳴をあげて、魔物が倒れていく。
トン、と地面に降り立った小狼めがけて、別の魔物が火を吹いた。
「!!」
すんでの所でかわす。足元を潜り抜け、ついでに足を蹴って薙ぐ。
バランスを崩して倒れこむ所を思いっきり蹴りつけた。
「・・・だめか!」
小さいのは何とか倒せたが、やはり大きくなってくると足技だけでは致命傷にならない。
しかも相手は炎を吹き付けてくる。
だが『緋炎』は使えない――――炎を吹く『緋炎』では、相手にエネルギーを与えるようなものだ。
小狼は唇を噛んだ。
決定打が欲しい。
「小狼、剣を。」
手を差し出されて。
小狼は躊躇いながらリアンに『緋炎』を手渡した。
「私とて、剣はそれほど巧みなわけではない。」
スラ、と抜刀しながら。
「だから、気を逸らせたり、戦気を削いだりした相手で無いと、いささか難しい。」
それは。
共同戦線を張れ、と。
まっすぐな想いは、躊躇いが無い。
「お願いします。」
とだけ。小狼は口に上せて、魔物の群れに再度向かっていく。
足や尾といった、末端部分、それも相手にとって嫌な部分――――自分では守るに難しい所を狙う。
当然魔物は怒り、小狼に向かって炎を吹き、迫ってくる。
ピイィィ・・・・・、と、空気が緊張した。
はっとした小狼が、そして魔物がその中心に目を遣った時。
銀色の光が魔物を一刀両断にしていた。
相も変わらず、『緋炎』は炎を吹かない。
『属性』を消された『炎の剣』は、鋭利な業物としてその威力を遺憾なく発揮している。
この遣い方。
学ばなければ。
足技だけでは戦えない『相手』は、いくらでもいる。
黒鋼は教えてくれるだろうか?
(いや、もしかしたら、黒鋼さんも?)
知らないかもしれない。そうでなければ、『緋炎』が炎を吹くのを、黙っているはずは無い。
『己が斬るべき物のみを斬れる様になるまで、これは鞘から抜くな。』
とまで言い切った黒鋼だ。
炎を吹く=認められていない。
己の持つ剣に認められていないようでは、どうにもならないではないか。
抜刀する以前の問題なのだ。
(・・・『蒼氷』はどうなんだろう?)
同じ時に桜都国で手に入れた、黒鋼の刀。
名前から属性を推察すれば、『蒼氷』は『氷の剣』という事になる。
『属性』の無い、いわゆる『無属性』の刀かもしれないが。
もし、『属性』が存在していたのなら。
(『蒼氷』は黒鋼さんを認めている。)
刀剣屋で購入する前、黒鋼は『蒼氷』を抜刀している。
だが、氷や水などは微塵も感じられなかったし、現れなかった。
黒鋼ほどの力量の持ち主ならば、『向こう』から膝を折ってくるのかも知れなかった。
「まだまだだ、俺は。」
独り言のように呟いて。
小狼は『右』から迫ってきた魔物の足を蹴り上げた。
――――――――――――― * ――――――――――――
「きゃっ!」
足元がぐらりと崩れて。
サクラは何度目かの悲鳴をあげた。
「サクラちゃん、大丈夫?」
ファイが覗き込む。
暗い上に、足元が悪い。慣れないサクラでは、歩くのにも窮するようだ。
「・・・・まったく。」
貧乏くじを引きっぱなしの感がするのは、気のせいではないだろうと思いつつ。
黒鋼はサクラをひょい、と抱え上げた。
「・・・!!く・・黒鋼さん・・!!だ・・大丈夫です!!下ろしてください!!」
「で、あと何回ずっこけるんだ?」
真っ赤になってあげた懇願は、あっさり却下された。
あまりにも恥ずかしくて、手で顔を覆う。
モコナがぴょ―――――ん♪と跳ねてきた。
「サクラ、お姫様抱っこなの―――――♪♪」
「・・・モ・・・モコちゃんっ!!」
「うるせぇぞ、白まんじゅう。」
飛び跳ねる白。
わたわたと恥じらいに頬を染める、朱。
暗がりでよくわからないが、憮然としている黒。
三者三様の色が、妙に面白い。
『もう一人の』白は、喉の奥で、くくっと笑い声を立てた。
「何が可笑しい。」
ギロリと睨まれる。
「耳、いいんだねー♪」
笑いに紛らせて。でも目は笑っていない。
「聞こえた?黒様。」
「あぁ。・・・・ありゃあ、『魔物』だな。」
微かに伝わってきた、魔物の断末魔の悲鳴。
何か、あったのだろう。
「行ってみる価値は、あるかも知れねぇな。」
辺りを見渡して。方向と道を定めると、先導するように歩き始めた。
「あの・・・黒鋼さん・・・・。」
「心配しなくても、魔物の所に出たら嫌でも降りてもらう。」
答は、先に。サクラは少しほっとした。
何時も「先」を見そなわす人。
黒鋼だけではない。
ファイも。
そして小狼も。
『護られている』自分が面映い。
(私にできる事をしなくちゃ。)
その想いが空回りする。
「傍で見ている奴の事も考えてやれ。」
ピッフルワールドで、黒鋼にそう言われた。
最初は何の事かわからなかったが、しかし。
思考はふと、遮られた。
「此処で下ろす。」
黒鋼に言われて。
地面に下ろされた。足場を確かめて、しっかりと立つ。
黒鋼はもう見向きもせず、蒼氷の鍔を外している。
ふと、黒鋼の周りに『気』が立ち上ったような錯覚を覚えた。
『殺気』というよりは、『戦気』とでも言うような。
紅い瞳は、さらに輝きを増している。
『残忍』とでも表現すべきな色に。
「・・・・・。」
時々、『怖い』と思う。小狼には無い『鋭さ』。
一気に奥底まで見透かすような『チカラ』すら感じる時がある。
戦いに明け暮れる『国』だと言っていた。
『必ず帰る』と言い切る、その『故郷』は。
黒鋼ほどの実力を持ってしても、なお『強くなりたい』と願わずにはおれないほどの。
それ故に、『優しい』のだろうか。
無骨で、不器用で。でも安心できる、その『優しさ』。
『護られている』事を甘受してしまう、その大きさ。
玖楼国の『父王』や『兄王』は、やはりこうだったのだろうか。
まだ微かにしか思い出せない『キオク』が心に痛みを走らせる。
(早く全部思い出したい。)
国のこと、兄の事、皆の事、自分の事。
――――――――そして、小狼の事を。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「・・・・・。」
「何か・・・あったんだねー?」
そこにあったのは。
複数と思われる、魔物の『死骸』。
「・・・・太刀筋は、悪くない。」
致命傷が鋭利な刃物での切断と見て取って。切断面からその力量を推し量る。
魔物を一刀両断にしている所を見ると、結構な腕前とも見える。
だが。
「・・・『1人』、じゃねえな。」
魔物の足や胴に残る、打撲のような痕もまた、見逃す黒鋼ではなかった。
何となく、だが。
(小僧・・・・か・・・・?)
しかし、口には上せない。期待させてしまうと厄介だ。
背後の『気配』は、微かに震えている。不安を必死で押し包むかのように。
「・・・黒たん、こっち。」
ファイが手招きをした。指す方を見れば、魔物の後ろ、大きな岩壁に小さな穴が見える。
近づけば、人一人くらいはゆうに通れそうだ。
「この魔物たち、『これ』を塞いでいたりしてー?」
可能性は高い。
この空間は、比較的広い空間だが、出口らしいのは、今自分達が通ってきた所ぐらいだ。
魔物の断末魔の悲鳴を聞いてから、さほど時間が経ってはいない。
『出会っていない』のならば。
『魔物を倒した者達』は、この穴から移動したと考えるのが妥当だろう。
「・・・行くぞ。」
背後の空間に『敵』の気配が無いのを何度も確認して。
今度は黒鋼を先頭に進み始めた。
――――――――――――― * ――――――――――――
(直径は・・・3メートルくらいか・・・・・。)
魔物の後ろにあった『穴』を潜り抜けて。
少し歩いた先に広がったのは、大きなドーム状の空間だった。
中央に『柱』が1本。
天上を支えているのは、それ1本。
「壊せないな。」
それは呟くように。
「無理ですね。」
簡単に応じて。小狼は柱の大きさを手で測った。
目算で直径約3メートルと推算する。
「・・・!もうちょっとなのに・・・!」
柱に網の目のように走る亀裂。腕だけなら何とか入るが、しかし。
『柱の中』の『サクラの羽』には、僅かに届かない。
「くっ・・・・・。」
何とか僅かでも手を伸ばそうとしてみるが、どうしても。
「柱が壊せれば問題ないのだが、こればかりはな・・・・。」
リアンもいささか考えあぐねた様子で。二人してう――ん?と考え込む。
「・・・・小狼。」
その目は、後方を見て。
「何か来る。」
「!・・・魔物ですか?!」
「いや・・・これは・・・・。」
声を遮るように。絶叫に近い声が響き渡った。
「あ―――――――――っ!!小狼―――――――――――っ!!!」
声と同時に白い物体が飛んでくる。モコナは殆ど頭突き状態で小狼の懐に飛び込んだ。
「小狼君っ!!」
「やっほ〜〜〜!!」
顔を輝かせたサクラを認めて、小狼はほっと息を吐いた。
(よかった・・・・。)
「『旅の仲間』か。」
「はい。」
それだけ答えて。小狼はもう一度穴に腕を突っ込んだ。
サクラがここに居る。
尚の事、『羽』を手に入れなければ。
顔をゆがめて必死な様子に、黒鋼が歩み寄る。
「どうした。」
「この中に姫の羽が・・・でも届かなくて・・・・。」
「・・・どいてろ。」
黒鋼の方が腕は長い。交代してみれば、確かに網目状の亀裂の向こうに『羽』が見える。
比較的大きそうな亀裂から腕を差し込む。
「・・・・もう少し右です、黒鋼さん。」
小狼も別の穴から覗き込みながら指示を出す。
少しく苦労して。
ようやく『羽』が手に触れた。
「・・・ここか・・・・。」
手繰るようにたどり、手に掴む。そのままそっと引き抜いた。
「・・・ありがとうございます!」
小狼が顔を輝かせて礼を言った。黒鋼は無言で『羽』を手渡す。
「姫。」
微笑んで。
小狼は『羽』をサクラに差し出した。
泣き出しそうな、でも笑顔のサクラに『羽』はすぅ・・・と吸い込まれていく。
サクラからカクンと力が抜け、小狼の腕の中にぽすっと納まった。
ズズゥ――――――――ンン・・・・。
天井からバラバラと瓦礫が降る。地鳴りと共に、唯一の柱にさらに亀裂が走る。
「ヤバいんでないかな。」
言ってる事に比して声音に緊張感がないと思いつつ。
「出た方が良いみたいだな。」
黒鋼の言葉に、皆は踵を返した。サクラは小狼が抱える。
穴を通っていく背後の方で、柱が崩れ、空間が崩壊していった。
――――――――――――― * ――――――――――――
黒鋼の先導で走りぬいて。
何処かの誰かが派手な事をして開けた地面の穴から、皆は『外』に飛び出した。
「・・・小狼君・・・・。」
「姫。お怪我はありませんか?」
にっこり笑って。
サクラはまだ少しぼんやりしているものの、小狼が傍に居る事に安堵したようだった。
そのままリアンに視線を移す。
それと見て。
「俺を助けてくれた、この国の人です。リアンさん、っていいます。」
「助けてくれた・・・?」
「はい。・・・あ、済みません、紹介します。」
小狼はリアンに向き直った。
「こちらがサクラ姫。・・・それからファイさん。こちらが黒鋼さん。」
「どうも〜〜〜・・・。」
へにゃりと微笑んであいさつ?をするファイに視線を滑らせ。
黒鋼にはもう少し時間をかけて視線を留まらせていた。
(・・・・?)
疑問を浮かべる前に、視線は移ったが。サクラの上にも視線が滑る。
「こちらが『モコナ』です。」
「モコナ=モドキ!モコナって呼んで!!」
あいもかわらずのハイテンションで、モコナがシュタッ!と挨拶をする。
だが。
見返す視線に『感情』が見えない。
(『表情』が読めねぇ奴だな。)
その感想は間違いではない。さすがのファイも、笑顔を消している。
対処に困っている、という事だ。
そして、モコナも。
「・・・あの――――?」
「モコナ・・・・モドキ?」
「そうなの!モコナは『モコナ』っていう神様をモデルに『作られた』の!」
ちょっと威張った風で。
「だから『モコナ=モドキ』なの!」
「・・・・・そう。」
無表情のまま。
小狼の方を見た。
「質問をしてもいいものかな?」
「?・・・あ、どうぞ。」
リアンはモコナに向き直った。
一瞬、何か不可解な物が心を走った気がしたが。
それは皆も同様に。
それは『恐れ』。
それは『怯え』。
『畏怖させる』何かを、気配に感じる。
そして。
紡ぎだされた言葉が、空気を、そして世界を、凍りつかせるに足る物と、誰が予想しただろうか。
その『言葉』は。
「・・・ソエル。ラーグはどうした?」
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