「・・・・マ――――ジ――――で――――す――――か――――ぁ?」
およそ緊迫感の無い声で。
次の国にやってきて。
ファイはずっと、この一言だけを言い続けていた。
「―――――やっかましいっ!!」
黒鋼でなくても、ブチ切れそうな。
「あの・・・何がそんなに?」
小狼が恐る恐る聞く。
「ここが・・・『こんな国』だからですか・・・・・?」
この国の。
唯一の岩山のような所に、彼らは居た。
そして。
眼下に広がる大平原は、無数の魔物で埋め尽くされていた。
久しぶりに暴れられる。
最初は嬉々として魔物の群れに挑んだ黒鋼だったが、ある事に気が付いて取って返してきた。
「あれ――――?黒たん、どうしたのー?」
まだ緊迫感の無い声で。
一瞬沸騰しそうになったが、何とか苛立ちを押さえつつ、ぶっきらぼうに答えた。
「増えるだけだ。」
「はい?」
「斬ったら斬っただけ数が倍になるんだよ!!」
「・・・あらー・・・・。」
それはあまり良い傾向とはいえない。ただの『消耗戦』ほど、無能な戦い方は無い。
一度「破魔・龍王陣」を試してみたが、結局数が増えただけで、根本的解決にはならなかった。
しかし。
この魔物の群れをどうにかせぬ事には。
「『羽』のチカラは、向こうにある。」
魔物の向こう、彼方を指差された日には。
魔物の群れを飛び越えていくのか。
しかしそれは叶わぬ事。
ならば。
この魔物の群れを一掃するより他に道はない。
「・・・問題は、その『方法』なんだがなぁ・・・・。」
斬ったらその数は倍になる。
おそらく眼下の魔物たちは、そうやって無限に増殖を繰り返しているのだろう。
それを止めなければ。そして『消さなくては』。
その為には。
「・・・結局、まとめて『吹っ飛ばす』しかねぇがなぁ。」
黒鋼としても、『解って』いるのだが。
「いくら『地竜・陣円舞』でも、これだけを『一度』に吹っ飛ばすのは、さすがに無理だ。」
と、皆を見遣る。
これで自分は打つ手無しなのだ、と。
小狼はファイに訊ねた。
「ファイさんなら・・・・『みーんなまとめて吹っ飛ばす』のは、可能なんですか?」
「・・・・・・。」
(あの魔法とー、あの魔法を組み合わせてー、そしてあれ足してー・・・・。)
頭の中で急速に考えを走らせる。
そして。
「無理。」
その答は、拍子抜けするほど簡単で。
「・・・やっぱり無理ですか・・・・。」
「うん。たぶん『1体』でも残すといけないと思うんだよね。『完全』に消滅させるのは、結構難しいんだ。」
半分は、真実。そして半分は、『本音』。
『完全に消滅させる』為には、その規模を遙かに上回る力で臨まなくてはならない。
―――――――今、それほどの『チカラ』を使うのは。
(出来れば避けたいですー・・・。)
心でそっと独りごちて。
そんなファイに、抑揚のない、無機質な声が投げられる。
「為さぬのか。」
と。
基本的に関わりの無いその身なれば、為すのはお前たち、と。
そして、言外に『ファイの魔力なら可能だ』、と言ってもいる。
自分は『魔力』を感じ『させない』が、ファイは隠してはいない。
『読める』者ならば、その魔力の大きさを推し量る事は十分に可能だ。
現に桜都国でも、星史郎にその持てる魔力の大きさを指摘されている。
それは―――――『出来るであろう事』は、解ってはいるのだが。
出来れば、今は『チカラ』を使いたくない。
見つめ合う二人の魔術師。
交錯する視線はファイの方から外した。へにゃりと笑いに紛らせて。
「結構規模大きいしー。」
それに。
此処は、半分正直な所を言うべきかも知れない。
「オレ、対価に『刺青』渡しちゃっててー、あれが無いと、ちょっと困った事になるんですー。」
「・・・・・。」
しばし、見つめて。
視線を外しながら、微かに言葉を紡いだ。
「気付かれるのか。」
と。
「・・・ファイさん?」
サクラがそっと訊ねる。
ファイは目を見開き、完全に凍り付いていた。唇がガタガタと震える。
「・・・・なんで・・・・・。」
知っているのか。
いや、解ったのか。
目の前の、この人は。
(恐ろしい。)
心底、そう思った。他人に対して、そう、初めて。
魔力をカケラも『感じさせない』。
それ故に、その魔力の大きさが読みきれない。
(こんな事は初めてだ。)
今まで多くの魔術師と接触する機会はあったが、これほどの『恐怖』を感じた事は無かった。
だが。
(この人は、『何か』が違う。)
頭の中で、警鐘が鳴り響く。
『何』が違うのかは解らない。
だが、確かに『何か』が違う。
それはとても『危険なモノ』だという、確信にも満ちた直感。
そして、そんな思惑など既にお見通しであるのだと。
そんな物に頓着はせぬ、と。
表情の読めない、謎に満ちた魔術師は。
「時が惜しい。ファイが為さぬのなら、やむをえぬ。」
ふわりと前に出て。
小狼は目の前を横切ったモノを認めて、目をしばたかせた。
「・・・・・『羽根』・・・?」
いつの間にか、無数の羽根が辺りを乱舞していた。
眼下の魔物達にざわめきが起こる。
それは、これから起こる事を、予感しての物なのか。
すうっと腕を伸ばして。
天を指した指先に、光芒が宿って満ちる。
そして。
その口から紡がれた『言の葉』は。
「我は呼ぶ、汝は応えよ!」
『呼ばれたモノの名』に、反応し、驚愕したのは、ファイと―――――。
――――――黒鋼、だった。
「『風魔』招来、バハムート!『雷帝』招来、サンダーギル!」
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