「『風魔』と『雷帝』?!」
「『バハムート』と『サンダーギル』?!」
黒鋼とファイの叫びは、同時に発せられた。お互いにはっと顔を見合わせる。
それは、『同じモノ』に対する呼称であると。
言葉を交わす暇もなく、すさまじいまでの光芒と、荒れ狂う風が辺りを奔る。
無数に舞う『羽根』は白く光を放ち、やがてそれぞれに雷光を帯び始めた。
空気が大きな波動と共に震え、リアンの足元に、光り輝く魔法陣が出現する。
それは『次元移動』の時に現れたのと同じように。
あまりにも唐突で、予告無しの出現。
「大いなる二つの力もて、我にその力を示せ!」
指先に集められた光は、大きな光球となって膨張していく。
―――――――『魔法』に縁の無い者にも解る。
一瞬にして練り上げられた、その『チカラ』の大きさが。
「破魔・風雷陣!・・・『サンダーストーム』!!」
光芒一閃!!
無数の羽根から雷撃が発せられ、それは嵐に乗って大地を奔り―――――――。
白くまばゆい光芒が視界を埋め尽くし、皆は思わず目を背けた。
「・・・何が・・・・?!」
小狼は必死で、何が起こったのかを見ようとした。
しかし、光に遮られて、何も見えない。
それでも次第に光が薄れていくのを感じて、何とかして見ようと目を凝らす。
やがて、少しずつ視界が戻ってきた。
「・・・あ・・・・。」
それ以上の言葉が出ない。
黒鋼も、ファイも、そしてサクラもモコナも、ただ呆然と視線を漂わせている。
あれほどの。
眼下を埋め尽くしていた無数の魔物たちが。
「・・・全部・・・吹っ飛んだ・・・・・。」
そう、『1体残らず』。
何処をどう探っても、魔物の『気配』がしない。
だが。
視線は、自らが『羽』があると示した方を向いたまま。
相も変わらず表情は『無い』のだが。
だがしかし、警戒を解いていない事は確かだった。
―――――魔物を『一掃した』のに?
「・・・・・・。」
すう、と、左手を伸ばし。
そこに現れた、光り輝く棒状のモノを掴み取る。
そして。
右手は静かに、光の棒から『弦』を、そして『矢』を引き出した。
光の『弓』は、キリキリと引き絞られる。
「・・・この魔法!!」
「?!ファイさん、知ってるんですか?!」
「・・使ったことないけど・・・知ってる!!・・・・これは・・・・!」
その蒼き瞳が驚愕に見開かれて。
「対『ドラゴン』用―――――『竜の眷属』専用の『消滅魔法』!!」
再び魔法陣が、先ほどとは異なる光を放って現れる。
巻き起こる風は、今度はその人を囲むように、円を描いて奔る。
そして。
「『ドラゴン・ウェイヴ』!!」
ファイが『その名』を告げるのと。
光の弓から矢が放たれるのと。
そして、彼方の大地を割って、ドラゴン―――――『竜の眷属』が天に向かって出現するのと。
まさに刹那の時も隔てずに、それは同時に起こった。
放たれた矢は、一直線に空を裂いて飛び。
自分たちの存在を認めて、その殺気をこちらに向けた、ドラゴンの額のど真ん中を、狙い過たず貫いた。
「・・・・・・・・!!!」
声にならない声、とでも言おうか。
まさに断末魔の悲鳴を飲み込んで。
ドラゴンは硬直し、次の瞬間、白骨と化し。
それは砕けて塵となり、吹きぬける風にその姿を溶かし去った。
「・・・ドラゴンを・・・・一撃で・・・・・そんなの・・・不可能だ・・・。」
その言葉の意味を知るのは、ファイより他にはいないだろう。
あのドラゴンの『大きさ』から考えれば、相手のレベルは『かなり上位』の物だった。
それを『一撃』で。
遙かに上回る力で持って対さねば、為し得ぬ事。
黒鋼ですら、『竜の眷属』と戦った事は数えるほどしかなかった。
ましてや、『一撃』で倒すなど。
ありえない。
しかし、現に、今。
自分たちが見たのは、『夢』だとでもいうのか。
これは―――――『現実』。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「・・・えーと・・・・少し、時間貰えますかー?」
ハーイ、と挙手をしながら。
それは、自分を落ち着かせるためでもあり。
「皆、事の重大さ解ってないみたいなんでー、少し説明する時間を下さいー。」
挙げた手が、震えを止めない。隠せない。
それでも、今は、この事を皆に伝えておかなければ。
申し出を受けた当事者は、無表情のまま白き魔術師を見つめて。
返事の代わりに、目を閉じ、腕を組んで近くの木に凭れかかる。
その口は、如何なる言葉をも上せない。
それを了解と受け取って、ファイは皆に向き直った。
――――――――――――― * ――――――――――――
「皆さー。『魔法』っていうのに対する知識って、きっと薄いと思うんだよねー。」
「・・・使った事なんざ、ねぇからな。」
「んー。オレも実際使わなかったしねー。だもんで、ちょっと説明しまーす。」
その笑顔ほど、声が笑っていないのは。
どういう『説明の仕方』をすれば、事の重大さが解ってもらえるだろうか。
頭の中で事細かに計算して。
「まず、『魔法』っていうのはねー、大なり小なり、呪文っていう物を唱えます。」
さすがにこれは知っている。
「ちょっと火を点すくらいの魔法なら簡単だけどー、威力が大きいほど、呪文は比例して長くなりまーす。」
それも理屈としては理解できる。
「さっきリアンさんが使った、『サンダーストーム』と『ドラゴンウェイヴ』は、両方とも『上級魔法』。」
「『上級魔法』?」
「『サンダーストーム』はオレの『知らない』魔法なんで、『推測』なんだけど。」
そこで言葉を切った。
「『上級』とは、すなわち『威力が上がる』という事。必然的に呪文は『長い』。」
小狼の喉が、ゴクリ、と音を立てた。
「『ドラゴンウェイヴ』はオレも使えるから知ってる。呪文の長さはハンパじゃない。・・・つまり、『強力』。」
だが。
あの時、リアンは呪文を『唱えていない』。
ファイの視線が凄みを見せた。
「術者が持つ『魔力』が高いほど、魔法の方が歩み寄ってくる・・・つまり『呪文の省略』が可能になるんだ。」
「手段を飛ばして結果に至ると?」
「小狼君、良い事言うね〜〜そのとおりだよ。」
ファイはにっこり笑って凄みを消した。サクラがふっと緊張を解く。
知らず知らずのうちに『気』で圧していたようだ。
自分らしくない、と自嘲する。
「もっと魔力が高くなると、『魔法の隷属』が可能になる。呪文の『詠唱破棄』と呼ばれるんだけどね。」
「『省略』と『破棄』は違うんですか?」
「『省略』はあくまでも一部のみ。『破棄』は場合によっては、『完全に』詠唱せずに魔法を発動させる事が可能。」
「・・・・・・。」
「あの『サンダーストーム』も『ドラゴンウェイヴ』も、そして『次元移動』も、ほぼ『詠唱破棄』されていた。」
再び視線に凄みが増したのは。
「モコナは『専門的に』次元移動するから、詠唱破棄したとしても、まだ理解できる。・・・でも。」
その視線のまま、彼方の人を見遣る。
「あれほどの『対価』を必要とし、一生のうち、1回が限度の次元移動を『詠唱破棄』して発動させる。」
言葉に表されて初めて、その意味の大きさに気付く。
「さらに。」
「まだあるのか?」
「うん。魔法の発動には、まず魔法陣を展開するんだ。」
少し微笑みが戻って。
「魔法を紡ぐための『フィールド』を・・・って、黒たん、解る?」
「解らん。」
「えーと・・・・『魔法』という野菜を育てるための『畑』を耕す、といえば?」
「・・・・まぁ、解る。」
「魔法をより『正確』に『強く』発動させるための『場所』を作る。魔法陣は見た事有るよね?」
「モコちゃんが出す、『あれ』ですか?」
「そう。そしてそれは各人によって違う物でね。例えばオレと次元の魔女さんの魔法陣は違う物なんだ。」
「使う魔法が同じでもですか?」
「そう。」
「だが確か知世姫は魔法陣、と呼べる物は使ってねぇはずだが?」
「じゃあ代わりに『印』を使ってるんじゃないかな?どちらも魔力を紡ぐために必要な物だよ。」
「・・・・・。」
「まあ、どっちにせよ、その『場』を安定させる為に魔法陣を『展開』し、『維持』しなけりゃならない。」
「・・・どうやって?」
「その人の持つ『魔力』によって。」
「魔力・・・・。」
「・・・そして、使う魔法の『大きさ』に比例して、魔法陣もまた強固な物を必要とする。」
「それって・・・・。」
小狼は少し、言葉を選んだ。
「『強い』魔法を使うには、『大きな』魔法陣を展開し、維持するための『魔力』も必要・・・・?」
「そう!」
解ってもらえた喜びに笑顔が輝く。
「ついでにもう一つね。」
いつもの調子を、少しだけ取り戻して。
「リアンさん、『バハムート』と『サンダーギル』を呼び出したでしょう。」
「『風魔』と『雷帝』か。」
「黒たん所ではそう呼ぶんだー?」
「・・・・・『風魔』と『雷帝』は。」
それは、少し思い起こすかのように。
「『陰陽寮』の術師たちが使う『呪符』にその名前が書いてあったのを見た事がある。」
「まあ結局はやってる事同じなんだけどね。」
意外なところで共通点があった、とファイとしては嬉しくもあり。
「魔法ってのは、炎にせよ水にせよ、それぞれを司る『モノ』の力を借りるんだ。」
「『モノ』・・・ですか?」
「そう。『呪文』は、力を借りるための『手段』なんだよ。」
「手段、なんですか・・・・。」
「もちろん使う『チカラ』が大きいほど、より高度な『モノ』を呼び出す必要がでてくる。」
それは、理屈として理解できる。
だから、強い『チカラ』を使うときは呪文が長いのだと。
「『風魔』―――『バハムート』は『風』。『雷帝』―――『サンダーギル』は『雷』。それぞれの『最高の』存在だよ。」
「『最高』・・・・・。」
「問題は、それだけじゃないんだ。」
「なんか問題あるのか。」
「『呼び出し方』なんだ。普通は『お願いしてチカラを借りる』んだけどね。」
それは、この世ならぬ物を見たような。
「リアンさんのやったのはね。」
ファイの声が『震えて』いるのは、やむを得ぬ事と。皆は続いてそれを知る事となる。
「・・・『従わせ』、『チカラ』を我が物として『使う』っていうレベルなんだ。」
「それって・・・・。」
「――――――『最高の存在』の『完全なる服従と隷属』。」
こともなげに、さらりと言ったその言葉の『重さ』。
そして、それを為す、『その人』は。
「オレ達、『とんでもない人』と一緒にいるって事だね。」
その声の持つ『凄み』は、今まで感じた事すらないほどの物だった。
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