再 会 




「とりあえず、行きますか。」
ファイに促されて。
皆は歩き始めた。
――――――彼方、『羽』がある、と指し示された方へ。
黒鋼を先頭に、小狼、サクラ、ファイと続く。
モコナはサクラがその腕の中に抱いている。
リアンは少し遅れて、最後尾に付いた。

魔物が居た『はず』の、見渡す限りの大平原。
しかし今は動く物とて無く、茫漠とした大地に、ただ風が吹きぬけていくのみ。
此処を魔物が埋め尽くしていたなどとは、到底信じられない程の静けさ。
『死』の気配さえ絶たれた凄絶な世界を、言葉も無く、ただ歩みを進める。
「サクラ・・・・怖いの?」
モコナの問いに、微かに微笑んで首を振る。
それが嘘であると、そして皆が同じであると、既に知れているのに。
その原因を作った人は、何も語らない。


『羽』は、地割れの中にあった。入り口から覗き込んで、ファイが呟く。
「コレって、あのドラゴンが出てきた穴だよね?」
「そうだな。・・・あの『竜の眷属』が持っていたと考えるべきのようだが。」
黒鋼もそれと認める。
「『羽』を守るために、魔物を無限に『増殖』させていた―――――?」
小狼の推測は。
「当たり、じゃ無いかな?」
ファイが力なく笑って。小狼は地割れの中に入り、『羽』を手に入れて戻ってきた。
簡単に手に入った。それはそれで安堵させられる。
小狼の手から、『羽』はすう、とサクラの中に溶け込んでいった。
カクン、と力が抜けて倒れこむ、その身体をふわりと受け止めて。
思わず、ほぅっとため息が漏れる。
ファイからも。
そして黒鋼からも。
それは大きな疲労感を伴って。


「『次』はもう少し『まとも』な国を選んだ方がいいか?」


その声音に『感情』が見えないのに。
しかしそれは『気遣い』であると知って、小狼は思わずその人を見た。
ファイも、黒鋼も。
返事に困る3人に、勝手に『是』と解釈したか。
目を閉じて。
すっと腕を払った瞬間、魔法陣が現れて。
「!!」
またしても予告無しの、突然の次元移動の風が皆を包んで運び去った。




―――――――――――――― * ―――――――――――――


「・・・なんか、すごく疲れた気がするよ・・・・。」
次に訪れた『国』で、早々に宿を取り。
男組と女組に分かれて2部屋を借りた。
コロンとベッドの上で転がって。
ファイの言葉は、そのまま皆の『本音』だった。
「なんと言ったらいいんでしょうか・・・『あの人』は・・・・。?」
小狼にしても、今までに出会ったことの無いパターンの人間だ。
黒鋼にいたっては、もはや宇宙人でも見るような感じである。
「『魔物』の方がよっぽど解りやすい。」
恐ろしく率直な感想を、しかし笑えない。
「・・・大丈夫か?・・・姫をあいつと一緒にしておいて。」
この問いは、小狼に。
小狼は困ったような表情を見せた。
「・・・大丈夫だ、と思います・・・・。」
リアンと同室になりたいといったのは、サクラなのだ。
意外だった。
シングルを2部屋取ろうとしていたファイも手を止めて、まじまじとサクラを見たほどに。
「『何か』感じたのかもしれないね、サクラちゃん。・・・あの人、に。」


その時。


「小狼君!!」
サクラが飛び込んできた。
「?!どうしたんですか、姫?!」
そのただならぬ、まさに『血相を変えた』表情に小狼も気配を硬くする。
「いいから、来て!!早く!!黒鋼さんも、ファイさんも来てください!!」
手を引っ張って。自分たちの泊まっている部屋に連れて行く。
何事かと、ファイも続く。黒鋼は小狼が手から離していた緋炎をも手にして、後に続いた。


『 あら、久しぶりね、皆? 』


モコナの額から伸びた光の中に浮かんでいたのは―――――『次元の魔女』。
げっとなった顔の黒鋼は別として、その部屋には何の異常も無い事を、小狼は見て取った。
「モコナ、通信できたんだね〜良かった〜〜。」
ファイの言葉にはっとする。
『 そうなのよ。こっちもおかしくなったから心配したわ。 』
次元の魔女―――――侑子が光の中で微笑む。モコナは小さな『羽根』を手にしながら、ちょっと笑った。
『 一体何があったの?サクラ姫は答えてくれないのよ。 』
「・・・・?」
小狼は奇妙な事に気が付いた。


次元の魔女を映し出す『光』は、リアンの『目の前』に展開されている。
だが、魔女はリアンを『見ていない』。


「・・・姫・・・?」
軽く指差しながら、サクラに目を向ける。サクラは、怯えを含んだ目で見返す。


「次元の魔女さん・・・・『私しか、そこに居ない』って・・・・。」


そこに居るはずの、リアンが、次元の魔女には『見えない』。
その『意味』は。


「・・・此処にいる、『この人』は見えていないんですね・・・?」
『 小狼・・・?そこに「誰かいる」の・・・? 』
侑子の視線が険しくなった。
『次元の魔女』である『自分』に『見えない』『誰か』がいる。
それは、認められない事。
信じられない事。
『 誰が居るの?! 』

誰が答えるよりも早く。
その当事者が動いた。
静かに、1枚の羽根を飛ばす。
ふわり、と。


がたん、と光の中で次元の魔女が立ち上がった。
驚愕に満ちた顔で。


「・・・久しぶりだな、侑子。元気なようで何よりだ。」


感情の無い、平らかな声は、何故か魂をえぐるような。
『 ・・・何で・・・・貴女がそこに居るのよ、リアン!! 』
その叫びは。
どこか怒りすら感じさせて。


「私が『ソエル』と呼びかけたら調子がおかしくなった。今のソエルに『次元移動』は出来ない。」
『 ・・・・何ですって?! 』
「『回復するまで』限定で、代わりに『次元移動』と『羽探し』をしている。」
それが、此処に居る理由、と。
『 ・・・それって、「お礼」を言うべきなのかしら? 』
「必要ない。」
あっさりといなされて。光の中で次元の魔女が唇を噛む。


『 まさか貴女だとはね。相変わらずね・・・貴女って本当に「見えない」から。 』


「『見えない』ってー?」
ファイは疑問をそのまま口にした。
『 「見えない」のよ、リアンは。 』
「・・・それってどういう・・・?」
『 彼女はね。 』
語るその顔が、どこか悔しそうなのは。


『 どんな「予見さきみ」にも「水鏡」にも、「映らない」のよ、彼女自身が「映そう」としない限りね。 』


だから、『羽根』を飛ばしたのか。
その意味は解ったが、だがしかし。


『 違う「時間」の体系の中に居るから―――――だったわよね?確か。 』
沈黙のいらえは、『是』と。
『 だから、彼女リアンはこう呼ばれるのよ。 』
次元の魔女の、眼差しは、凄みを帯びて。


『 ――――――――「時の魔女」、ってね。』


「『時の魔女』・・・・。」
呆然とその名を口に上せる小狼を見るでもなしに。
リアンはドアのほうに向かって歩き始めた。
『 何処に行くの? 』
それは、詰問に近くて。
「私は居ない方がいいだろう。」
いらえには、相変わらず感情が無くて。
「私は貴女とは違う。本物の『魔女』だ。・・・人間じゃない。」
答も聞かずに部屋から出て行った。光の中で次元の魔女がため息をつく。
「人間じゃないって、どういうことなんですか?」
小狼の問いに、次元の魔女は据わった目を向けた。
『 言葉どおりよ。彼女は「人間」じゃない。・・・・自己申告によれば、ね。 』
「自己申告?」
『 私たちとは「異なる」世界の住人だって事。 』
「だから、『見えない』んですかー?」
「『違う時間の体系』って何だよ?」
ファイと黒鋼の質問はほぼ同時で。次元の魔女は、どちらから先に答えようかと迷った風だったが。


『 いいわ。説明してあげる。でも理解できるかどうかなんて、私に求めないでよ。私にだって解らないんだから。 』
「は――い、贅沢言いませ――ん。」
相変わらず、へにゃっとして。ファイに促されて、次元の魔女は話し始めた。


『 彼女は―――――ずっと生き続けてるのよ。 』
「・・・・・はい?」
答がどこか間抜けなのは、致し方の無い事と。次元の魔女も、その件には突っ込まない。
『 普通、「人間」は、死んだら魂がめぐめぐって、 時の流れの果てに再び転生するものなの。 』
「・・・はい。」
『 だから一度しかない命を大切にしろ・・・と、聞いた事、あるでしょう? 』
それは、父・藤隆からも。
そして阿修羅王からも。
この世を司る、厳然たることわりだと。
『 彼女はね、それから外れているのよ。 』
「それって・・・・?」
『それ』を聞いた時の、魂の奥底に走った衝撃の、意味は。


『 彼女は「死ぬ」と、刹那の時も隔てずに「転生」する―――――「前世の記憶」を完全に持ったままで、ね。 』


「・・・『転生』・・・・?それも、すぐに・・・・・?」
有り得ない。
『この世界』に住まう者の出来ることではない。
『 だから、「人間」じゃない――――――ということらしい、わね。 』
「・・・・・・・・・。」
『 もちろん、それが「幸せ」かどうかは解らないけどね。 』
「・・・?」
『 訊ねた事があるのよ。・・・「長い時間を生きているって事は幸せなのか?」ってね。 』
「リアンさん、どう答えたんですー?」
半分は興味で。
『 答えなかったわ。・・・その代わりに、「人」に対する感情は、時の彼方に置いてきた、って言ってたわ。 』
「・・・・それ、どういう意味なんですか?」
次元の魔女はサクラを見て。その目に優しくも哀しい光があると見えたのは、気のせいだったのだろうか。


『 どれほど想っても、何時かは別れる。相手が先か、自分が先かは別として。 』
それは、当たり前の事だ。
『 そして「相手」は忘れるわよね。・・・いつかは。 』
「・・・・・。」
『 でも自分は記憶をそのまま持っているから、忘れる事はできない。・・・永遠に、ね。 』
「・・・あ・・・・。」
『 まあこういうのを「愛別離苦」って言うらしいけど・・・・。 』
「愛する者との別れの苦しみ・・・って事だよねー?」
『 そう。・・・・だったら、苦しいのは自分だけなんだから、逆に「想わなければ」いいって事よね。 』
「・・・それって、極端すぎじゃねぇのか?」
『 私に文句言われてもねぇ。 』
苦笑いをして。
『 解らないわけでもないのよ。私たち魔術師ウィザードは、長い時間を「生きる」から。 』
比較対照にならない事ぐらいは承知の上で。
自分が生きてきた時間など、リアンにとっては瞬きほどの時間でしかない、と。
『 だから、解ったのよ。 』
それは、諦めと、もどかしさと。『何も』出来ない自分への。


『 彼女・・・誰にも「想い」をかけないわ。誰も愛さない。・・・・自分さえも、ね。 』


それは、『人間』ならば、寂しくて。
つらくて。
哀しくて。
およそ耐えられないであろうほどの物なのに。
『あの人』は、そこに『存在』している。
『無表情』なままで。
『声音』に何の『感情』も見せず。
だから『人間』ではない、というのか。
その『心』が、『魂』が、流す涙の色が、血の色が見えるようですらあるのに。
長い『時』を生き続けるための、己の鎧い方なのだろうか。
『存在』し続けるための。
―――――それは、『心』の『在り方』。


「・・・・・・・。」
次元の魔女は、目を閉じた。
思い起こすように。
かつて見た、初めて会った時の『彼女』の姿を。
満開の、風に散り急ぐ桜の樹の下で、佇んでいた、『彼女』と。
そして、『彼女』をそこへ案内してきた、『彼』を。
――――――『不世出の魔術師ウィザード』の姿を。


小狼は、唇を噛んで、ぐっと胸を押さえた。
さっきからキリキリと胸が痛んでいる。
何故なのかが解らない。
この『痛み』は。
―――――――まるで、『自分の事』であるような?
かつて自分も、感情を表現できなかった。
解らなかった。
『心』という物が。


『失った』または『持っていなかった』物を手に入れるのと。
『持っていた』物を封印してしまうのと。
どちらが苦しいのか。
哀しいのか。
答は火を見るよりも明らかだ。
あの人は。
自分なんかよりも―――――――。


そして。
『 意外だったわ。 』
その言葉の『意味』と『重さ』を。
『 他人の事なんかに介入しないはずの彼女が、貴方達の為に行動を共にしているって事がね。 』
「白まんじゅうが移動出来なくなった、原因を作ったからだろう?」
『 違うわね。 』
予想をあっさり否定して。
『 彼女・・・・「自分の意思」でやっているわよ。私と知り合いだからとか、そんな事じゃなく、ね。 』


もしそれが。
『封印された想い』があふれ出した物ならば。
――――――――あの人の、『心』は。


「俺、リアンさんを探してきます。」
黒鋼から緋炎を受け取って。
小狼は町へ飛び出した。


『時の魔女』という二つ名を持つ、一人の『人間』を探しに。




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目茶苦茶長くなりました。おや?今回は小狼が主役?(違)
久しぶりです、侑子さん。
出来ればラーグも出したかったんですが、通信中なので、それも出来ず。
四月一日君?・・・今学校です。(苦笑)もしくはお料理中とか。
先生業に疲れたファイさん(笑)、今回はお役御免です。
その代わりに侑子先生の出番になりました。
本当はもっと長くして1つに納めたかったんですが(えー)力尽きたので(笑)
『4』を書くことにしました。(予定は『3』まで)
・・・こうやって、どんどん増えていく、と。(自爆)

そうそう、モコナ(ソエル)が通信できたのは、リアンが『羽根』を持たせて補助をしたからです。
そうでなきゃ、現状ではさすがにムリです。
ラーグのほうは、ソエルから通信が来たので受信した、といった感じ。
ラーグも、本調子じゃありません。
ソエルとラーグ、二人が回復するのは、もう少し後になります。

裏話、小ネタはこちらから。

               作者・シュウ    2006.04.12UP

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