魔 力 を いと う 国




門をくぐれば。
分かたれて、人は。
運命の歯車も、道を分かつ。
赤と、青の、光もて。





そこは、他にも多くの人がいた。
「ん―――?此処って、『観光地』なのかなー?」
「雰囲気的に・・・そうみたいですね・・・。」
何やらゲートのようなものがあり。案内所らしき所もある。
「『桜都国』もこんな感じでしたね―――?」
サクラもきょろきょろしている。何処か、懐かしさすら覚えて。
「『羽』の力は、この先に有る。」
「じゃあやっぱり、行かなくちゃ・・・ね?」
ファイは皆を振り返った。


「・・・ソエル。」
皆に少し遅れて歩きながら、リアンは問いかけた。その声音に、相も変わらず『感情』は見えぬまま。
黒鋼の肩に乗っていたモコナは、びくん、として振り返った。
「・・・何・・?」
「『戻った』か?」
「・・・うん・・・だいぶ、戻った、と思う・・・・。」
「そうか。」
後は独り言のように、微かに。
「もういい、かな。」
黒鋼だけは、その言葉を耳に止めた。
「もういい」――――それはモコナの代わりに次元転送するのを止める、という事。
『旅の仲間』から『外れる』という事。
既にいくつかの『国』をめぐり、ある意味『効率的に』羽を見つけてきた。
この人は。
彼方の次元にある『羽』を見つけられるようで。
『便利』といえば便利、なのだが。
元々一緒に旅を始めたわけではなかったが、この人の存在は、『何か』がひっかっかって。
その『何か』が、『何であるか』はわからないのだけれど。


「とりあえず、説明を聞こうよ。」
向かったのは、案内所らしき所。がやがやとざわめきに満ちている。
かつて訪れた『桜都国』の市役所もこんな所だったな、と小狼は懐かしくなった。
『そこ』と同じように。
やはりカウンターらしき所があって、受付のような事をしているようだ。

「いらっしゃいませ。『エステリアランド』へようこそ。」
「此処の名前は『エステリアランド』って言うんですか?」
「?・・・・はい。」
受付嬢の返事は当たり前の反応だ―――名前を知らずに此処を訪れるものなど居ないであろうに。
「えっと、此処って『観光地』でいいんですよねー?」
ファイがにっこりして訊ねれば。
「はい。様々な歴史的建造物や美術館系の文物が多い国です。」
受付嬢もまた、にっこりと、『営業用スマイル』を絶やさずに。
小狼は思わず身を乗り出した。
「歴史系?!」
「『観光』のみならず、『勉強』に来られる方も大勢いらっしゃいます。」
「小狼君が好きそうな国だねー・・・。」
ファイが笑いながら見れば、実際、小狼の目はキラキラと輝いている。
と、そこへ。
「お連れの皆様は、『魔力』はお持ちですか?」
唐突な質問に、皆は『へ?』となった。
「『魔力』がどうかしたんですか?」
「大変申し訳ありませんが、この国では、『魔力を持つ者』と『そうでない者』とでエリアが区切られております。」
「それってどういうことなんですか?」
「お話しすると長くなるので、各自お調べ頂く事になりますが。」
と前置きして。もちろん『営業用スマイル』は絶やすことなく。
「過去にこの国では『魔力を持つ者』と『そうでない者』との間に争いがありました。」
「・・・『戦争』、ですか・・・?」
「はい。それ以降、この国では『魔力』の有る無しでその居住圏を完全に区切っております。」
「それって、例えば・・・。」
「はい。お連れ様同士で『魔力』が有るか無いかで分かれた時、別々に入国していただく事になります。」
「絶対に?」
「もちろん、それが『恋人同士』であっても、です。」
「・・・厳しいんですね。」
「歴史の上に培われた、我々なりの知恵、とお汲み取り下さい。」
言葉こそは丁寧だが、それは『絶対的命令』。
小狼はふと、思い出した。


何故『魔力』を隠すのか。
疑問に思い続けてきたことを、訊ねた事がある。
それは皆も同じであったようで。
ファイが『魔力』を『隠していない』以上、リアンが『隠す』理由がわからない。
小狼の問いに、リアンはじっと、その目を見て。
静かに視線を外し、呟くように答えた。
「――――『国』によっては、『魔力をいとう』国も有る。」
だから、わざわざひけらかさないのだと。
『魔力』を容認している国なら、逆に『魔力』を感じない、『魔力』を持たない、とされても問題はないだろう。
『魔力』が理解されない国なら、おそらく『魔力』そのものが感知されまい。
だが。
『魔力』を『いとう』国なら、『魔力』を見せることは、自殺行為にも等しくなる。
ならば。
『最初』から、『魔力』を感じさせなければいいのだ、と。

――――――では。
此処は、まさにその『国』ではないのか?


「う――――ん、困ったねぇ・・・・。」
あまり困っていない様子でファイが呟く。
実際問題として、これは『困った問題』ではない。
『魔力の有無』によって分けられるなら。
(此処は当然―――――。)
『魔力有り組』には、リアン、モコナ、そして自分。
『魔力無し組』は黒鋼、小狼。
問題はサクラだが、彼女はどちらでもいい。どちらの組にも『戦闘要員』と『探索担当』は居る。
(サクラちゃんはちゃんと守れるねー・・・。)
『サクラを守る』ということを第一義に考えた自分に気づく。
(オレって・・・やっぱり『変わった』のかな?)
ピッフル国で黒鋼が言った言葉が思い出される。


「お前も変わったんだろ――――。」


サクラの持つ天性の力。
『人を変える力』は、確かに自分にも作用しているようだ。
それに気づいて、ファイはちょっと自嘲気味に口元を綻ばせた。


「で?どうやって『魔力』の有る無しを判別するんだ?」
黒鋼の疑問は、これは当然であって。中には知らずに魔力を有する者も居るだろうし。
もちろんそういう疑問にはマニュアルすら有る様で。
「そちらのゲートをお通りいただきます。」
指し示す方を見れば、なるほど次々と人々が通っていく。
「ゲートにはセンサーが取り付けられておりますので、そこで判別させていただきます。」
人が通るたびに、赤や青のランプが点る。
「『赤』が魔力がある方、『青』が無い方を示します。」
説明は、淀みなく。
「ゲートの先は仕切られておりますので、出国なさるまでは会う事が出来ません。何卒ご了承くださいませ。」
「中で連絡を取ることは出来ますか?」
万が一のための手段は講じておかなくてはならない。
そういう所にいち早く気が付く所は、さすが旅慣れた小狼だけの事はある。
「申し訳ありませんが、基本的にそれは出来ません。」
「基本的に?」
「もし命に関わるような事件などが発生したりした場合は、別、というだけです。」
「・・・・わかりました。」
小狼は考え込んだ。これは結構難しい。
「魔力の有る方から『念』を飛ばしても、おそらくブロックされちゃうんだろうねー・・・。」
ファイとしても。ちょっと考え込まざるを得なくなった。
「『機械』があればまだ良かったかもしれませんが・・・。」
「『電話』みたいなもの?」
「はい。」
「・・・ごめんなさい・・・・。」
全く唐突に謝られても、その意味が解らない。
「モコナ?」
「・・・もしね・・・モコナが『元気』だったら、侑子に頼んで、『無線機』を送ってもらえたと思うの。」
「『無線機』?」
「移動してても話せる『機械』なの。・・・でも、まだモコナ、上手く通信できないの・・・。」
大きな耳が、シュンと垂れて。モコナなりに考えていてくれるのだ。サクラはモコナをぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫よ、モコちゃん。きっと何とかなるから。」
「・・・サクラ・・・・。」
モコナにとって、サクラの『笑顔』は、小狼と同じく、とても素晴らしい『ご馳走』なのだ―――。
お互いに頬ずりしながら、温もりが周りに広がっていくのを感じる。
それは。
陽だまりのような、暖かさ。


「さし当たっての問題は、『モコナが離れてしまう事』なんだけど。」
ファイが注意をうながす。
「あ!」
サクラが思わず声を上げた。『モコナが離れる』―――それは、『言葉が通じなくなる』という事。
黒鋼は一気に苦虫をつぶしたような顔になる。夜魔ノ国で苦労させられたのを、思い出したのか。
「あ・・・それは・・・。」
「ん?小狼君、何?」
「たぶんですが・・・大丈夫なんじゃないかと思います。」
小狼は、最初に出会った時、リアンが自分の『言語体系』を読み取ったのを思い出していた。
その時、自分の額に、『羽根』を当てた事も。
あれで、『モコナが居なくても話が通じる』状態に持っていけるのではないか?
それを説明すると、ファイは納得して頷いた。
「ん―――問題ナシ、って事で・・・じゃあ行こうか?」
「連絡は・・・・?」
「それ、リアンさんに考えてもらう事にするよ〜〜。」
本当は考えあぐねているのだけど。この場合丸投げしてしまうのもいいかもしれない。
それに。
(小狼君は、「やると決めたことはやる人」だからー・・・。)
任せてもいいかな、とも思う。『信頼』することを躊躇わなくなった自分が、何だか可笑しい。
(セレス国に居たままだったら絶対こんな事思わないよね――――・・・。)
自分の変化が、何故か嬉しくて。


ゲートは、何の変哲もない、石で作られた『門』だった。
「こちらへどうぞ。順番にお一人ずつお通り下さい。」
職員の若い女性がにこやかに手招きする。
「じゃあ、とにかく行こうかー・・・まずはオレから行くねー?」
そう言って、ファイはゲートをくぐった。パッとランプが点る。――――もちろん、『赤』。
「じゃ、次〜〜。」
促されて、小狼が通る。――――――『赤』。
「!!」
「・・ええっ?!」
誰よりも、本人が驚いて。
「お・・・・・俺に・・・魔力が・・・?」
「う〜〜〜ん、ちょっと意外だったね〜〜〜・・・。」
(これって・・・ヤバいんじゃ・・・?)
ファイはそっと独りごちた。『魔力の無い』方に行くのが『黒鋼一人』という事になる。
(黒たん、情報収集できるのかなあ??)
相手が現役の『忍者』である事はきれいさっぱり忘れている。
例え不得手であるとしても、『それなりに』できるはずなのに。
続いてくぐった、モコナも、『赤』。サクラも―――――『赤』だった。
「私に・・・魔力が?」
サクラに自覚は無い。だが、『声無き者の声を聞く』事を知っている皆にとっては、さして驚くに値しない。
小狼としては、サクラと離れずに済んでほっとしているようだった。


そして。
「・・・面倒くせぇなぁ・・・・。」
相変わらずぼやきながら、黒鋼がゲートをくぐった。
パッとランプが点る。


『赤』、に。


「・・・・・何――――――――――――っ?!」

本人以上に皆が驚いた。
「黒たんに『魔力』?!」
「黒鋼、嘘つき――――!!」
「嘘なんかついてねぇよ!!壊れてるんじゃねぇのか?!これ!!」
「・・・・・・・あ!!」
ポン!と手を叩いた小狼に、皆の視線が集中する。
「黒鋼さん、『剣技』を使いますよね?もしかして、それが『魔力』と判断されたのかも!」
「あ!な―――る――・・・・。」
「・・・・ありかよ?!」
「だって、それしか考えられないです。」
小狼の言う通りかもしれない。実際、それ以外に思い当たる節は無い。
(『洞察力』もすごいけどね―――・・・・。)
時々内面の、奥底深くまで見抜かれるような、あの『チカラ』には、ファイ自身少し恐れる所ではあるのだけれど。
「・・・リアンさ――――ん!もう皆通りましたよ――――――!!」
小狼が叫ぶ。見れば、リアンはまだ受付で、何か話している所だった。
「遅ぇ。」
黒鋼がぼやく。思わぬ判断をされて、気が苛立っているのか。
それを知ってか知らずか。表情が変わらないので何を考えているかは皆目見当が付かない。
カウンターで地図らしき物を貰ってそれを広げて眺めながら、ようやくこちらに向かってきた。
「遅ぇぞ。さっさと通りやがれ。」
口調が剣呑な物になっている。もっとも、そんなものに動ずる相手ではないが。
「・・・・・。」
皆が1箇所に――――『魔力の有る側』に集中しているのを見て、すっと目が細められた。
その視線が、係員の一人の上を滑ったのを、ファイは見逃さなかった。
(・・・・・・・・?)
無表情のまま、歩みを進める。手にした地図を眺めながら。

そして、ゲートをくぐり。

小狼に、ひょい、と地図を渡した。
「『向こう』の地図だから。」

そして、歩き出した。


『魔力の無い者』の方へ。


かなり遅れて、いや実際はそれほどでもなかったのだが。
ランプが点った。


『青』、に。


「・・・ちょっと待て――――――――――――っっ!」

黒鋼の叫びを、しかし誰も責められない。
『誰よりも大きい』魔力を持つ者が、『魔力が無い』と判断された。
これは『見事』だと賞賛されてしかるべきだろう。
「マジで壊れてんじゃねぇのか?!俺や小僧に魔力が有るわけねぇぞ!!」
詰め寄られて、係員はオタオタと点検を始めた。
(そうだよねー・・・。)
ファイは一人合点する。
二手に『分かれなければならない』のだ、此処は。
だが『一つにまとめられ』た。
そこには『誰か』の作為が感じられる。
(『行かせたくない』・・・?)
『魔力の無い者の方』へ。だったら皆を『集めた』のも説明が付く。
理由なんてどうとでもこじつけられる。黒鋼ですら、『理由』が存在した。
でも『誰か』行かなくてはならない。――――――『危険』を承知で。
だったら。
リアンは最適なのかもしれない。
『魔力が無い』者の世界で『魔力を実は持っている』事を知られずに『行動』する。
『魔力を感じさせない』というのは、こういう事か、と改めて認識する。
『魔力をいとう国』――――――『魔力を持っている者』にとっては、命の危険すら有る『国』。
ここは。
そういう『国』であるのだという事を。


「・・・やっぱりな。」
点検が終わり、もう一度くぐったゲートは、黒鋼に『青』のランプを点した。
しかし小狼は、『赤』。
「自分でもわからない所に有るんだろうね、小狼君の『魔力』は。」
「・・・そんなもん、要らねえだろうけどな。」
ファイの言葉に、黒鋼が呟くように言う。
実際そうだ。『剣』や『足技』を使う小狼には、『魔力』は大して魅力の無いものなのだから。
「どっちにしても、俺は行くぞ。」
「黒様〜〜、リアンさんを困らせちゃ駄目だよ〜〜?」
「どういう意味だ!!」
最後に漫才を残しつつ、黒鋼は仕切られた「向こう側」へ歩み去った。
「・・・さて、俺たちも、いこ?」
ファイは視界の片隅に、係員の一人をしっかりと捉えていた。
それは、リアンが視線を滑らせた、あの。
その『係員』は、こちらを見てはいなかったが、明らかに動揺の色が見えた。
(上手くいかなくて、焦ってる?)
ファイはこっそりと、しかし確かに笑った。
魔性の、凄みすら垣間見せて。




第2章ー4に戻ります 第3章ー2へ 『時の翼』目次へ




やっと・・・・!(笑)
一番書きたかった『国』に来ました。
『起承転結』の『承』、『エステリアランド篇』です。
今までのメインメンバーでの主役は、第1章が小狼(+黒鋼)、第2章はファイ(+小狼)。
そして、この第3章は黒鋼(+ファイ)です。・・・カップリング、という意味じゃないので、念の為。^^;
『3』、『5』がまだ中途なので、気合い入れて書かせていただきます!!(『2』、『4』、『6』は完成済)
・・・ハイ、つまりこの第3章は、1から6まで有ります。(長っ!!)

えー。(笑)
小狼の『魔力』は何処にあるんでしょうかー?(オイ)
実は未定だったりします。^^;
シャオランと絡ませようかなー・・・うーん。

裏話、小ネタはこちらから。

               作者・シュウ    2006.04.17UP

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