魔 術 師ウィザード の 想 い 出




二人の王子の心を継いで
『羽』を守るのは姉姫様
『魔力の無い街』に『魔力』でその術を封印した
「『仕掛け』を見破るのにはもっと大きな『チカラ』が必要
でも『こちら』には『チカラ』を持つ者は入れない
これなら誰にもわからない
大切な『羽』は未来永劫守られる」
ありえない組み合わせ
魔力のある街に魔力の無い者が
魔力の無い街に魔力のある者が
同時に動いて仕掛けを消す
それがだめなら この国は
滅びの道を 歩むだけ・・・・・。




「・・・・・『魔道宮』・・・?」
記憶をたどっても。
それに該当する『国』は無い。
「小狼君、聞いた事ある?」
各地を遍歴した小狼なら、と。
しかし首を横に振る。
「・・・聞いた事、無いです。」
「それに・・・『宮』だな。『国』じゃねぇぞ。」
「『小国』ってコトかな?」
疑惑の波が押し寄せる。
玄関先では、会話が続いていた。
「大きな店はありませんか?・・・メンバーが『増えた』ので。」
「ああそれなら、ご案内しましょう。業務系の店が近くにあります。」
不動産屋のスタッフと共にリアンの気配が消えた。


階段の所で。
皆は動けないでいた。

聞いた事の無い『国』。
それは、もしかしたら―――――――いや、たぶん。


「時の流れの中に・・・『既に消えた』国・・・・・。」


あの人は。
『故郷』にすら、置いていかれたのだ、と。


「・・・・ねぇ、黒たん。」
ファイは、『訊ねたかった事』を口にした。
その目に、氷の如き光を宿して。



「『向こう側』・・・『魔力のある者』に対してかなりキツかったんじゃない・・・?」



「『キツい』なんてもんじゃねぇ。」
元よりそんな視線ごときに揺らぎはしない。黒鋼の眉間の皺が深くなった。
「『あっち』は『魔力のある者』には容赦なく攻撃する。『厭う』なんてもんじゃねぇ・・・あれは『憎んで』いる。」
「・・・やっぱりね。」
実際。
ちょっとした弾みでリアンが魔力を『外』に漏らした事があり、殆ど間をおかずに、警官達に囲まれる羽目になったのだ。
もちろん、彼らには自分たちは『違う存在』にしか認識されないようになっていたので、逮捕されずには済んだのだが。
その時の、警官たちの『目』は、憎しみに満ちていた。
実際に何人かは発砲すらしていたのだ。―――――『何も見えない』空間に向かって。
「仕掛けを破るために、ゲートに回っている暇が無くてな、『そっち』に『飛ばして』もらった。」
「じゃあ、『その時』に・・・『バレた』ね?」
「おそらくな。」
虚空を見上げる、その顔は、とても険しくて。
「次元転送のために『こちら』に帰ってこられないほど・・・・。」
「たぶん『攻撃』を受けたんだろう。・・・かなりやられたんだろうな。」
「・・!それって・・・リアンさん、怪我してたって事ですか?!」
小狼とサクラの声は見事にハモって。ファイの顔も、やるせない色に染まって。
「そうでなきゃ、まだ不安定なモコナに転送させるわけないし・・・オレたちの到着を『1週間』も先に『ずらす』必要も無い。」


思い当たれば。
『羽根』を通して聞こえてきた『声』は、僅かに『遅れて』反応していた。


「・・・『魔法』ってのは『こういう時』には『便利』なものなんだけどね・・・。」
―――――――だからといって。
「・・・だから、『傷を消す』事も、『血の痕を消す』事も、簡単に出来るよ。・・・ただし。」
「ただし?何だ。」
ファイの目が、悲しそうな光を帯びたのは。
「『傷』そのものの回復は出来ても、消耗した『体力』や『魔力』の回復は不可能。」
「・・・やはりそうか。」
黒鋼も、思わず顔を伏せた。
「あいつは・・・・俺たちを『違った存在』に認識『させ続けなければならなかった』から・・・・。」
それは、自分たちが『殺された』から。
「ずっと魔力を『使い続けなければならなかった』・・・・マジで限界ギリギリだった。」
その『魔力』すら。
『使っていることを感知させるわけにはいかなかった』のだ。
際限なき魔力の使用。
その『負担』は想像を遙かに超える。
それでも。
何も言わずに、やってくれたのだ。
―――――――危険を、承知で。


『1週間』というのは、この『レントハウス』のシステム上、最低限必要な『時間』だったのだろう。
中途半端では、『分かって』しまうから。
だから。
時間を稼いで。
『宿』を確保して自らの傷を癒し、魔力と体力を回復し。
皆を迎え、その回復のための準備を整える。
何も、語らずに。
もし自分が倒れたり、傷ついた姿を見せたら、それは『迷惑』になる、と。


「・・オレ達って・・・・『頼って』もらえないんだねー・・・・。」
ファイの呟きは、皆の心そのままに。
重い沈黙。
「・・・俺たちにできる事をするしかねぇじゃねぇか。」
ぼそり、と。
黒鋼の言葉以外に、『道』が見えない。
「・・・寝ます、か。」
自分たちには。
『身体を回復させる事』しか出来ないのだ――――――今は。




―――――――――――――― * ―――――――――――――



それぞれに部屋に引き取った。
気配を探れば、『こちら組』は爆睡、と言ってもいい状態のようだ。
無理もない、と思う。身も心も疲れきったのだろうから。

(帰ってきたか。)
階下に気配がする。『大きな店』に行ってきたのだろう。
(・・・酒でも買いに行くか・・・・。)
もしかしたら調達してくれているかもしれないが、やはり自分で選んで買い求めた方がいいだろう。
そう考えて。
ドアを開けて階段を見遣って。
(・・・白まんじゅう?)
ぴょーん、と白い物体が跳ねていく。そのまま階段を下りていった。
(あいつの事だから。)
おそらくは腹が減ったなどと訴えに行ったのだろう。
だから。
何も考えずに階段を下りて。
ダイニングへの扉に手を掛けて―――――停まった。


「・・・リアン、聞いていい?」


その声に。
微かな不安と逡巡を感じた。
(・・・・?)
聞くともなしに、耳を澄ます。もちろん気配は消して。


「さっきの『お粥』・・・・『広東かんとん粥』だよね?」
返事がない。
「『広東かんとん』は・・・『李家』のある香港の『隣』だよね。」
どうやら『地名』の事らしい。
「本当は『貝』とか『刺身』とかを入れるけど・・・それはファイが食べられないから抜いたんだよね?」
それはそれで贅沢な感じがするが。
「モコナ、あれのレシピ、知ってるよ。」
何故、応えないのか。


「あの『広東かんとん粥』―――――『レシピより生姜が多い』よね?」


黒鋼は、目が離せなくなった。
『その人』は。
少し、首を傾げた。―――――ゆっくりと。


「『懐かしかった』だろう?・・・・・・・・『直伝』だよ。」


モコナは、悲鳴を飲み込んだ。
「・・・・『直伝』・・・・・。」
伏せられた、『その人』の目が、ゆっくりと、少し開いた時。


「――――――――――!!」


今まで『表情』と呼べるものを、まったくと言っていいほど浮かべなかっただけに。
――――――――――その『表情かお』は。


(・・・・・『反則』、だ・・・・。)


いつもなら、『何が?!』とでも突っ込みたくなるような事を、心に浮かばせてしまった。
それほど、あの――――――――――『表情かお』は。


「――――――『あれ』は・・・私の『弟子』だった。」
静かに、紡ぐように。
「・・・『弟子』・・・?『何時』・・・・?」
「お前たちが『作られる』ずっと以前・・・・そう、今の小狼ぐらいの年だった。」
重ねていたのか、『小僧』と『弟子』を。
かなりの確率で『小僧』を『見ていた』理由がそこにあるのか。
「『弟子』であった期間も短い・・・・半年と少しぐらいしかなかった。」
それでも、『弟子』と『師匠』である事に変わりはない。
「まこと類稀たぐいまれな『魔力』を持っていた・・・『不世出の魔術師ウィザード』の二つ名にふさわしい。」
その声が、どこか誇らしげなのは。
「侑子も皆も『陰険メガネ』だと言うが・・・・私にとってはそんなことは決してなかったよ。」
ぽふ、とモコナの頭に手を置いて。
「一途で、真面目で、一生懸命で・・・小狼に・・・よく似ていた。」
目に浮かぶ、その光は。


「いつまでも―――そう、『最期』まで、私の事を『先生』と呼んでくれたよ。――――『クロウ=リード』は。」




泣き出したモコナをそっと抱き締めて。
柔らかな『気』が満ちる。
いたたまれなくなって、その場を離れた。
(俺は『何』を見た。)
自分が『見た』物が信じられない。
(あいつが――――――――。)
あんな『表情かお』をするなんて。


それは、とても『優しく』て。
慈しみに満ちていて。
そしてどこか似ていた――――――母の、微笑みに。


あんな『表情かお』が出来るなんて。

あんな『表情かお』を見せるなんて。


とてもじゃないが、素面では居れない。やはり酒を買いに行こう、として――――――。
ぐらり、とした。
「?!」
体に力が入らない。
ドタン!と音を立てて、自分の身体が床に崩れ落ちたのが解る。
だが、思考と身体は完全に遊離していた。
「黒鋼ーッ?!どうしたのーっ?!」
「どうした?!」
(白まんじゅうと・・・あいつ・・・か・・・・)
頭のどこかで、それは認識されていた。




―――――――――――――― * ―――――――――――――



閑話休題。



「・・・まあ、『鬼の霍乱』とは、よく言ったものだ。けだし名言、というべきだな。」
「・・・・うるせぇ・・・・。」
思いっきり不機嫌な声は、どこか弱々しい。
「以前、『自分はぜっってぇ風邪なんざひかねぇ』と言っていたようにも思うが?」
『声』がどこか『楽しそう』なのは。
舌打ちして、天井を向いたまま、ぼそりと呟く。
「・・・皆は、どうしてる。」
ふと、見下ろすその目が『優しげ』に細められた。
「サクラ姫は、熱こそ高いが落ち着いている。ファイは・・・完全ダウンだな。」
「あいつは『熱』とかには弱そうだからな。」
「小狼は眠っている。まぁ、一番軽症なようだ。回復は早いだろう。」
「・・・そうか・・・・・。」
この国の『風土病』―――――『旅行者』がよくかかるのだという。
到着早々にダウンするのだ、と。
罹患したのが自分だけではなく、リアンとモコナを除いた全員、という所がまだ救われると言えば救われるのだが。
しかし。
皆も倒れたと知った時、つい八つ当たりのように言ってしまった自分の言葉を、今更ながらに後悔する。


「白まんじゅうとてめぇだけ、『特別』かよ!!」


深くは考えていなかった。
返ってくるとは、思っていなかったから。
―――――――――氷のような呟きが。


「そう、『特別』だ。―――――『人間』じゃない、『魔女』なのだからな。」


『魔女』である事を忌み嫌っているようなのに。
あえて自分から『魔女』と言った。
―――――――――突き放すかのように。


「まぁ、良い骨休めだろう。しっかり治すのだな。・・・あ、そうそう。」
部屋を出て行きざまに。
「治るまではアルコールの摂取は厳禁。薬の『効き』がおかしくなるのでな。」
「・・・・てめぇ―――――っ!!」
「おぉ、元気な事だな。これならば回復も早いだろう。じゃあお休み。」
ひらひらと振る手だけが見えて、扉はパタンと閉じられた。
(誰のせいだと思ってやがる!!)
あの『表情かお』のせいだ。
あれを見たから―――――――。
「・・・・・・。」
天井を振り仰ぐ。
額に当てた腕が熱い。
(ぜっってぇ白まんじゅうから聞き出してやる。)
妙に固い決心を他の誰も知ることは無く。
しかも、本人に聞かない所が姑息な気もするが。
取りあえずは、知りたいだけなのだ――――――自分にそう言い聞かせて。
(・・・クロウ=リード・・・・。)
遙かな『過去』に出会ったという『弟子』。
『不世出の魔術師ウィザード』と掛け値なしに賞賛する、その魔力の高さ。
『あの表情かお』をさせる―――――『男』。


「―――――――――・・・!」
急に痛みが走って。
思わず胸を押さえた。
(何なんだ?!一体?!)


あの時の。
あの表情かおは。
天上と、地上の『優しさ』を一点に集めたような、そんな気さえして。


そして――――。
その『心』の中に占める大きさが、何故か腹立たしくて。
会った事もない、『不世出の魔術師クロウ=リード』の、その存在が。


時の彼方で。
自分の知らない『時の中』で。
出会った二人は。
何を語り合ったのだろう。


自分の知らない『何か』を。
自分にわからない『言葉』で。


そして、あの『表情ほほえみ』を。
見せたのだろうか―――――『クロウ』に。


何かが胸の奥で、ちりちりと。
焼け付くような痛みが走る。
自分の心を騒がせている、『何か』が、『何であるか』を知らなくて。



『それ』が何という名で呼ばれるものであるかも知らぬままに。




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うーわ・・・・。(笑)
完璧な別人だ。(オイ)
誰やねん、コレ。
まあ『こっち』方面にカンペキに疎い『若様』ですから・・・・。(言い訳)

先に言い訳しておきますが、クロウさんとリアンは『師弟関係』であって、『恋愛感情』はありません。
これだけははっきりしてますので、ハイ。

あ、『広東粥』、結構おいしいです。時間かかるけど。
ホタテとか刺身とかを入れて食べるとグー♪なんですが、生もの駄目な方がメンバーに(笑)
ベースは鶏肉です。


裏話、小ネタはこちらから。

               作者・シュウ    2006.04.26UP

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