終 焉 へ の 前 奏 曲プレリュード 




「・・・うん、言われた。・・・『この国で、最後だ。』って。」


それはモコナにとって。
とてもつらい『宣告』だったのだろう。
自分は『伝えなければならない』。
でも、それは―――――――――。


「・・・なんで言わなかった。」
黒鋼の声は、低い。
「・・・皆が悲しむと思ったの・・・特にサクラが・・・・この国は『楽しかった』から・・・・。」
確かに、此処はかつての『桜都国』にも似て。
『羽』の在り処を掴むのに苦労する事以外は、とても穏やかで過ごしやすかった。
気候も、心も。
「・・・・姫にも、『心の準備』ってモンがあるだろうがよ・・・・。」
その視線の先のサクラは、手を握り合わせて、肩を震わせている。
小狼が、そっと寄り添った。
「てめぇも気付いてたんなら、何で言わねぇんだよ。・・・『あと3回』なんて条件出したのはてめぇじゃねえか。」
この場合、ファイは非難されても文句は言えない。
もちろん、それは解っているようで。
「・・・オレも、『言いたくなかった』。・・・やっぱり『お別れ』はつらいしね・・・。」
半分以上の本音と共に、紡がれた言葉。金色の風が、逡巡の色を見せる。


バチン!!


耳障りな音がした。
はっとして見れば、『五芒星』を構成する、『羽根』の1つが歪み始めていた。
『黒い空間』―――――『異世界への入り口』を維持する事が出来なくなりつつある。
リアンは入り口に向かって再び歩き始めた。―――――振り返ることもなく。
ファイの言葉に『応える』こともなく。
「―――――――おい。」
それは、とどめる意思を持たぬが故に。
リアンは歩みを止めた。
「・・・・『必ず』、帰ってこい。」
「・・・・『必ず』、サクラ姫の『羽』は手に入れる。」


そうじゃない。
『羽』もそうだが、それよりも。
何よりも。
――――――『お前』が。


その言葉が、『何故』言えなかったのだろうか。
それは未だに解らない。
だが。


『心』は通じたのだろう。
軽く片手を上げて。
リアンは『闇』に消えた。
そして。
僅かの『時』を隔てて、『羽根』は砕け、『異世界への入り口』は目の前から消滅した。




―――――――――――――― * ―――――――――――――



風が、さやさやと吹く。
その場から、離れられなくて。
でも。
「―――――行こうよ。」
ファイは皆を促した。
「『此処』で待っていてもしょうがない。もうすぐ朝になるし・・・・。それに。」
「それに?」
「『帰ってくる場所』は此処じゃない。・・・・『宿の庭』だよ。」
「・・・・『もう1つの術式』か。」
「うん。」
皆は顔を見合わせた。
だったら。
小狼は、決然と言った。まっすぐに、黒鋼を見て。
「俺たちは、『俺たちにできる事』をやらなきゃいけないですよね。」
「・・・・そうだな。」
自分たちがしなければならない事を。


自分たちの『状態』を万全にし。
『宿』で『待つ』。


『羽』を持って、『あの人』が『帰って』くるのを。


それでも重い足取りを、何とか運んで、皆は宿に帰りついた。
時間はもうすぐ夜明けの時を迎えようとしていた。
「温かい物を用意するよ。それ飲んだら、とりあえず寝よう。」
『帰ってくるまで』まだ時間はあるから、と。
ホットミルクに砂糖をたっぷり入れたのを作る。
さすがに黒鋼には遠慮したのか、ウィスキーのお湯割りを差し出して。
温かさが眠気を呼ぶ。サクラとモコナは、ふわぁ、と欠伸をした。
「眠くなったね。もうお休み。」
優しく微笑んで。ファイは二人(正確には1人と1匹)を見送った。
「俺も寝ます。」
「はぁい、お休みー。」
「お休みなさい。」
相変わらず、きちんと礼をして。小狼も自室へ戻っていく。
リビングにはファイと黒鋼が残された。
「黒たんはまだ寝ないのー?」
「てめぇはどうなんだよ。」
「んー・・・。」
お互いに微かな躊躇いがある。
ため息を1つ、ついて。
結局切り込むのは自分なのだ、と思いながら。
黒鋼はまっすぐにファイを見た。


「・・・『何』を言われた?『てめぇの国の言葉』で。」


ファイは目を見開いて。
頭の中で思考を急速に走らせた。


(黒たんには、『話の内容』は伝わっていない・・・?)
(『セレスの言葉』で話した・・・・?)


改めて、感謝した。
今までモコナが自動的に翻訳するのに慣れていて、相手が何語を喋っているかなんて考えなかったが。
リアンは、『あの時』、『セレスの言葉』で話したのだ。
『自分にだけ聞かせる』ために。
『音声』だけが他に伝わったらしい、という事は、翻訳機能を遮断したのだろう。
確かに、黒鋼たちには『聞かれたくない』内容だった。
皆の態度が大して変わっていなかったのは、『その内容』が伝わっていなかったからだ。
さすがに『あれ』を『聞かれた』ら―――――――。
皆との良好な関係は瞬時に崩れ去るだろう。
自分への『打撃』を怨みつつ。
皆への『配慮』に感謝した。


「んー・・・・ちょっと、悪口・・・・っていうか・・・・罵詈雑言、っていうかー・・・・。」
黒鋼の視線は、『信用していない』。
(あいつがそんな事言う訳ねぇだろ。)
視線は、そう言っている。
ファイも、ごまかせたとは思っていない。
だが、今は。
「オレももう寝るよー・・・黒様はー?」
「・・・・俺ももう寝る。」
「そうだねー・・・・。」
洗い物してから寝るよ、と言うと。黒鋼は黙ってコップを置いて立ち上がった。
今は、何を言ってもファイは口を割らないだろう。
確信していると言ってもいい。
相当ショックを受けること―――――それは。
(おそらく、こいつの『過去』に関すること。)
ある意味、『叩きつけられた』のだろう。『現実』を。
逃れ得る事の無い、『真実』を。
その人の『深奥』に肉薄する事は、時として必要なのかもしれないが。
(今は、待つ。)
ファイが自らの口で、それを語るのを。
それでも。
「・・・1つだけ、教えてくれるか。」
階段に向かう前に。
少し振り向いて黒鋼は問うた。
「・・・何?」
「あの『異世界』・・・どんな所なんだ?」
人間が赴けば、瞬時に魂が消し飛ぶとまで言い切った『世界』。
一体、そこは。
「ああ・・・あそこはね。」
悪魔の囁きとは、かくなるものかは。


「あの先は『人外魔境』・・・・『魔界』だよ。」




―――――――――――――― * ―――――――――――――



「あーら、とっても、すてき―――。」
思いっきり棒読みの感想が口から出る。
(予想以上ねぇ、ここは。)
『魔界』に足を踏み入れるのは実は初めてなのだが。
足元にはなにやら蠢く物。
奇っ怪な木に、ポルターガイストらしき騒々しさが満ちる。
ため息の1つも出ようというもの。
「んでー。『羽』は何処かいなっと。」
ひょいっと飛んで。
目指すところは、ただ1つ。
少しく行けば、すぐに『羽』は見つかった。
しかし。
「こりゃまた厳重な事で・・・・。」
幾重にも張り巡らされた『シールド』。
確かに、『魔界』の者にとっても、『羽』は実に『美味しい』物であろうが。
「さて、どうやって『手に入れます』かねえ?」
少し、う―――ん?と考える。
結論をつけて。
その手に『チカラ』を紡いだ時。


《 何をするつもりだ? 》


「・・・いらっしゃいませー・・・・。」
それは、予想された『者』の声と。
その目に、妖しいまでの炎が宿る。
今までの『軽い』口調の独り言が、全てを隠していたと知る。
その纏う『気』が、ふと変わった。


「私はこの『羽』が欲しいだけ。貰っていくよ。」


《 『叶う』事、と思っているのか? 》


「それは、もう、しっかりと。」


《 何時からそんなに『愚か』になったのだ?この『私』に歯向かうとは。 》


それには応えず。
『魔女』の笑みが口元に浮かんだ。
「『愚か』か。そうかも知れぬな。だが、私は『私の信じる道』を行くだけなのだ。」
そして。
ゆっくりと歩き始めた。
『羽』に向かって。
『シールド』の前で、立ち止まる。
その微笑みは、自嘲気味なものに変わって。


「『こんな姿』・・・・見せられないな。」


『羽』の周りに、無数の『黒い羽根』が舞った。




―――――――――――――― * ―――――――――――――



カシャン、と。
軽くコップが触れ合って。
響いた音が『心』に突き刺さる。
(知っている、とは思ってたけど。)
『自分の事』を。
でも。
(『そこまで』知ってるのは・・・・反則だよぅ・・・・・。)
文句の持って行き所が、無い。


お前なら、『この先』が『どんな世界』かわかるだろう?
そう、お前なら『わかる』――――――いや、『知っている』はずだ。
そうだろう?


セレスの言葉で紡がれた、『あの言葉』が甦る。
(うん、知っているよ。)
黒鋼にも話した。
『人外魔境』だと。
『魔界』なのだと。
でも。
『何故』知っているのかを。
知られていたとは。
(さすがは、『魔女』。)
その二つ名は伊達ではない、と思わず身震いした。
『あちら』と接点を持つ者ならではの、『記憶』。
(そう―――――――オレは。)
「君の言った事・・・・当たってるよ。」
その双眸に宿る昏い影は。


――――――『闇の御子みこ』、よ。




―――――――――――――― * ―――――――――――――



ベッドに横になっても。
頭が冴えて、眠れない。
『強制的』に眠る事は出来るが。
気配を探れば、小狼もサクラもモコナも眠っている。
ファイもどうやら部屋に戻ったようだ。
『宿の庭』に埋め込まれた『最後の術式』は、発動した様子は無い。
半覚醒状態のまま、とりあえず『眠り』をとることにする。
忍者であれば、当たり前の『眠り方』だ。
(『人外魔境』・・・・・。)
『あの先』は大変な所だと思ってはいたが。
まさか、『魔界』とは。
確かに『人間』が赴く所ではない。
『魔女』であるリアンにしか『行けない』場所だ。
(『最後』に『一番厄介な国』を選んだ・・・・。)
ファイははっきりとそう言った。
そう―――――――『最後』。


帰って来て欲しい。
無事に、一刻も早く。
だが。
『帰って』くれば、それは『別れ』の時。
今更『別れ』たくは無い。
『旅の仲間』なのだ、今は、もう。
しかし。
(いつかそれぞれに『旅』は終わる。)
自分は日本国に帰ったら。
小狼とサクラは、記憶の羽が揃ったら。
ファイは?・・・彼の旅は一番長く続くだろうが、しかし。
(それでも、いつかは終わるだろう。)
『終わり』は『別れ』。
何時の日か、『それ』は必ずやって来る。
解ってはいるが。
ふと、あの『面差し』がよぎって。


「――――――――――――――。」


目を閉じた。
(今は、祈ろう。)
『その人』の無事を。
眠りに入ろうとして。
ふと、気が付いた。
「・・・・?!」
ガバッと身を起こす。
(・・・・・え?!)
自分でも信じられなくて。
思わず、口に手を当てた。
(・・・俺は・・・一体・・・・?)
何故なのか。
もちろん理由など解るはずもない。
自分で自分のした事が理解できない。
「・・・何で・・・・・・。」
『日本国』でも、めったにしない。
本当に『限られた者』にしか、『しなかった』のに。
実に十数分も固まっていた事には。


自分が。
如何に『幻』に対してであったとしても。


その人を、『名前』で呼びかけた事を。




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・・・・めっちゃ中途半端や・・・・・。
いや、この後一気に書き進む予定だったんですが。
3分の1ほど書いたところで、異様に長い事に気が付きまして。(早く気付け)
さすがにこれはヤバいと思って。
でも、いざ『切る』段になったら『何処で』切ろうかと。
前章でも切る所に苦労したんですが。

さーて、どう料理しようかなー?(オイ)

裏話、小ネタはこちらから。

               作者・シュウ    2006.05.09UP

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