「どうぞ。」
声と共に、目の前にコーヒーが差し出された。
「・・・・・姫・・・?」
「黒鋼さん、ずっと難しい顔をしてますから。」
サクラが小首を傾げて言う。
この『姫』に、心配の種を増やしていたのだと知って、思わず苦笑がもれた。
「姫は気にしなくていい。」
「・・・そういう訳にはいかないです。」
何故なら。
『難しい顔』の原因を知っているから。
「・・・・『何時』帰ってこられるんでしょうか・・・・?」
「・・・・わからねぇ。」
「・・・・無事、だといいんですが・・・・・。」
「・・・・そうだな・・・・・。」
『赴いた先』が、ひどすぎる。
『人外魔境』――――――『魔界』だとは。
『無事』を祈る事しか出来ない―――――――しかも。
その『無事』すらも。
下手をすれば、望むべくも無い事やも知れぬ。
眉間の皺も深くなろうというものだ。
黒鋼は静かにコーヒーに口をつけた。
奥の深いその香りに、少しでも心の平穏が保たれる事を願って。
だが。
どれほど『願って』も、なお。
あの『面差し』は、手が届かない。
しかも。
『帰って』くれば、そこで『道が分かれる』と知れば、尚の事。
(・・・まだ、『訊いていねぇ』。)
『答』を。
『諏倭の若』の事を。
『何故』諏倭を『知っているか』を。
そして―――――『弟子』―――――クロウ=リードの事を。
「お前には関係がない。気にするな。」
その答に満足してはいない。
(絶対に『何か』を隠している。)
それは、確信。
『忍』であるなら、『待つ』事は当たり前のことなのに。
修行が足りない、とかそういう問題ではない、と思う。
こんなにも『待つ』のがつらいとは。
その『時間』が『長い』とは。
為す術がない。
その『無力感』。
自分は。
(まだ――――――『弱い』。)
―――――――――――――― * ―――――――――――――
小狼は、ファイと一緒に庭の『掃除』をしていた。
「意外とあるもんだねえ・・・。」
角ばった石をつまみながらファイが呟く。
「『宿』ですから、こんな所にまで気を使わないのかもしれませんね。」
小狼の言葉は当たっているだろう。実際意外なほどに『荒い』庭だ。
以前、『庭』で魔法を使ってリアンが吹っ飛ばされた事があった。
その時は、思いっきり花壇に叩きつけられた。
本来の『あの人』であれば、そんな『ヘマ』はしなかっただろうが、その時は。
『反撃の一手』――――――『仕掛けのための羽根』を飛ばさなければならなくて。
必然的に『自分へのガード』がおろそかになっていた。
あの時に白い服に咲いた『赤い花』を忘れる事ができない。
眉の上、額の傷というものは、浅くてもかなりの出血を伴う。
(ましてや、女の人が、顔に傷を負うなんて。)
リアンはあまり頓着していないようではあったが、やはり気になる。
実はサクラも、先日この庭で派手にずっこけた。
何やら走ってきて小石と木の根に躓いたのだが、思いっきり鼻をすりむいている。
此処は庭の小石などを取ってしまおう、と小狼は考えたのだった。
(・・・どうせ、やる事なんてないし・・・・。)
そう、『やる事』は、無い。
『待つ』だけだ。
「この『花壇』はどうしましょう?」
「んー取っちゃうわけにはいかないんだろうねえ・・・。」
せめて、と。
花壇の『前』に、草花を移植した。
もし『ぶつかったり』した時に。
少しでも衝撃を和らげる事が出来たなら、儲けものだ、と。
何とかして、『時間』を過ごそうと。
皆、それぞれに。
『早く』帰ってきて欲しい。
どうか、無事で。
でも。
『ゆっくり』帰ってきて欲しい。
『その時』が来るのが怖いから。
『帰って』きたら、『お別れ』だから。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
『宿の庭』に埋め込まれた『最後の術式』は、未だに発動しない。
リアンが『魔界』に向かってから、既に1週間が過ぎようとしていた。
時々ファイが、その術式にチェックを入れてはいるが、その度に首を横に振る。
(もしかしたら、街の『違う場所』に?)
街中に気配を追ってみるが、それらしき反応は無い。
それでも。
黒鋼はほぼ1日中、気配の探査を続けていた。眠っている時も、半覚醒状態だから対応可能だ。
(『何処』に?)
『帰って』くるのか。
全く解らない。
いい加減疲れてはくるが、しかし。
(あいつはもっと大変だった。)
そう、エステリアランドで。
『自分達を違った者に認識させ続ける』ために、休み無く『魔力』を使い続けていた。
その苦労に比べれば。
あの『浅い』寝息は―――――忘れられない。
ピイィィ・・・・・・・・ッ・・・・。
それは、微かな。
しかし、確実に『空』を裂いて。
「―――――――――?!」
皆は思わず立ち上がった。
夕闇迫る、まさに『逢魔ヶ刻』。
庭に埋め込まれた『最後の術式』が、ついに発動した。
庭へ駆け出した皆の目の前に。
光り輝く魔法陣が展開していた。
そして。
『その人』の姿が、その中心に形を成した。
「―――――――リアンさん・・・!」
感極まったように、サクラは涙を浮かべた。
「良かった・・・・・!」
ファイも。サクラの肩を抱いて、にっこりと微笑みあう。
しかし、小狼は、声を上げた。
「・・・あ・・・・?!」
「・・・・『折れて』やがる・・・・。」
リアンの左腕は、だらりと下がっている。背を丸め、顔を伏せたままだ。
思わず小狼は駆け寄ろうとした。
「――――――――来るな!!」
激しい声に、思わず足が止まる。
「で・・・でも!!」
早く手当てをしなければ。
骨折は、最初の手当てが肝心だ。
なのに、何故?
「・・・・まだ、『浄化』しきれていない・・・・今、近寄れば、『瘴気』にやられる・・・。」
かろうじて聞こえてきた声は、確かにそう言った。
見れば、なにやら禍々しい『気』が纏わり付いている。
立ちすくむ皆の前で。
『魔法陣』がその光の『色』を変えた。
「!!」
おそらく、それは。
『こうなる事』を見越して、『二重』に埋め込んでおかれた物なのだろう。
『新たに』魔法陣を展開する『チカラ』は無い、と予想して。
『光』は涼やかな風を呼び、辺りの空気が清浄な物になっていくのが皆にもわかった。
「――――――――あ!!」
思わずサクラが声を上げた事には。
(初めて見た。)
小狼が思ったことは、少なくともファイ以外の皆に共通していただろう。
『魔法』で傷が治っていく、その様を。
それは、まるで『手品』のようで。
ただ驚くしかなかった。
服や身体に付いていた『血』はパラパラと砕けて散り。
『折れて』いた左腕は、その指先にまで確かな『力』の伝達を見せ。
服の破れまで修復されていく。
「これが『魔法』・・・・・。」
サクラにとっても。
『不思議』以外の何物でもなかった。
何時しか『光』は消え。
風が『この世界』の空気を運んできた。
「・・・・・・小狼・・・・・・。」
小さく、呼ばれて。
小狼ははっとして、駆け寄った。
「はい!ここにいます!」
「・・・・・・。」
少し顔を上げて。
乱れた髪に纏わりつかれた、その顔は、青白い。
それは、その人の『体力』と『魔力』の極度の消耗を如実に示している。
「・・・・『羽』を・・・・・。」
懐から、『羽』を取り出した。
それを静かに小狼に差し出す。
「・・・ありがとうございます・・・。」
それは。
本来なら。
『自分』が取りに行かねばならないはずの物だったのだから。
小狼は、しっかりと『羽』を受け取った。
それを見て。
ようやく安心したのだろうか。リアンの身体は、ぐらり、と前にのめった。
「・・・!!リアンさん!!」
慌てて受け止めて―――――――――――。
小狼の、動きが止まった。
『時間』すらも。
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
呆然と、目を見開いている。
傍目には、『大人の女性に抱きつかれてドギマギして固まっている少年』の姿なのだが。
実際そう思って、眉間に皺を増やした黒鋼だったが。
(・・・・・?)
何かが、違う。
小狼の顔は、『ポカン』としていた。
完全に思考が止まっている、といった顔で。
これが。
『あの言葉』の意味なのか。
小狼は、そっとリアンの背に手を回した。
そのまま、ストン、と尻餅をつく。
肩にもたれるように気を失っているリアンを、背に回した手で支えながら。
小狼は。
泣いていた。
「・・・・姫。『羽』を戻すのは、少し待ってくれるか。」
低い声でそう言われて。サクラは驚いたように黒鋼を見た。
「え?」
「その・・・服を緩めたりとかして貰わなきゃならねぇからな。」
『男』の自分には出来ないから、と。
サクラは頷いた。
「部屋の仕度をしてきます!」
パタパタと。駆けて行くその足音を背に、黒鋼は小狼に歩み寄った。
「・・・・何をぼけっと泣いてやがる。」
感情を、押し殺して。
小狼は、のろのろと顔を上げた。
「『休ませねぇ』とだめだろうが!」
見上げたその泣き顔―――――『ただ』泣いている、その顔に苛立って声を荒げて。
引き剥がすように『その人』の肩に手を掛け、横抱きに抱き上げて―――――――。
「・・・・・・・。」
黒鋼も、また、驚愕の表情で、動きを止めた。
(・・・何・・・・・?)
思わず腕の中の人を見た。
青白い顔の『その人』を。
『驚愕』の表情が『猜疑』に変わる。
肩に掛けた手に、指に、ぐっと力を込めた。
「・・・仕度できました!」
サクラが駆けてくる。
はっと我に帰り。
「・・・・・・ちっ!」
自らに舌打ちして。
抱き上げて、黒鋼は走った。サクラも後に続く。
(何だ・・・・何なんだ?!これは?!)
解らない。
理解できない。
今、この腕の中に居る、『この人』の――――――。
バタン、とドアを開けて。
ずかずかとベッドに歩み寄る。
横たえようとした時、微かに呻いて、身じろぎをした。
「!!」
目の前で、夕闇色の瞳が開く。
自分の眉間に皺が寄ったのを感じながら、とっさに呟いた。――――――サクラに、『聞こえないように』。
「姫には―――――気取らせるな。」
そのまま横たえる。
微かに頷いたようだ。
(理解したな。)
ならば、『サクラは知らずに済む』だろう。
「姫、頼む。」
「はい!」
『何も知らない』サクラは、リアンの傍に駆け寄った。
背を向けて、部屋を出ようとした黒鋼の耳に、微かな声が伝わってきた。
「『羽』は・・・・?」
「まだです。リアンさんのほうが先です。今、服を緩めますから、ゆっくり休んで下さい。」
「・・・早く返してもらうといい・・・・あれは・・・。」
「あれは?」
「・・・とても優しい『キオク』だった・・・・。」
後ろ手にドアを閉めた。見れば、小狼は廊下に座り込んでいる。
もう涙は流れてはいないが。
だが瞳に宿る『哀しい』色は変わらない。
一瞥して。
何かを言おうとした時に、ドアが開いた。
「どうだ。」
「もうお寝みになりました。」
「そうか。済まなかったな。」
「いえ・・・・。」
「小僧。」
黒鋼が呼びかければ、小狼は、ようようにして立ち上がり、サクラの『羽』を取り出した。
「小狼君・・・・。」
それ以上の言葉は続かず。
『羽』はサクラに吸い込まれていった。
カクン、と力が抜けて。
黒鋼はサクラを受け止めた。
「・・・・・・。」
そのまま小狼を見る。哀しそうな瞳が、さらに哀しみ色を増したのを見て、ため息を1つ、ついた。
「・・・下で、待ってろ。」
言い置いて、黒鋼はサクラの部屋のドアを開けた。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
コトン、とホットミルクのカップを置いた。
「ハイ、小狼君。」
黙って礼をする。
『小狼らしからぬ』、その仕草に、ファイの顔も曇る。
黒鋼がリビングに入ってきた。
「サクラちゃん、寝た?」
「あぁ。」
「ん、じゃ、黒たんには、コレ。」
琥珀色のウィスキーを差し出して。
黒鋼はそれを一気に飲み干した。
テーブルにダン!と置く。
その双眸は、まっすぐに小狼を捉えた。
「小僧。・・・・『何時から』知っていた?」
ゆっくりと。
小狼は顔を上げた。
「・・・・『川縁』で話した時に、教えてもらいました。」
(『あの国』か・・・・。)
『魔物の国』から逃れて、『次元の魔女』がリアンの事を『時の魔女』だと教えた。あの『国』。
街に出たリアンを追って宿を出た小狼は、川縁で話をしていた。
「『あれ』は・・・どういうことだ?」
小狼は答えない。
「小僧。・・・・・答えろ。」
威圧と、絶対的な『優位』を持って。
「あいつは・・・・何故あんなに『軽い』?」
「?!」
事情が飲み込めないファイは驚くばかりだ。
モコナも同様で、黒鋼と小狼の顔を交互に見遣る。
小狼は、言葉を選びながら話し始めた。
「あの人は・・・リアンさんは、『此処に存在していない』んです。」
「・・・何?!」
「『時間の体系が違う』為に、『この世界で確固たる存在になれない』と言っていました。」
「・・・・・。」
「『存在していない』から、どんな予見にも水鏡にも『映らない』。」
小狼の声が、遠い世界の言葉のように流れていく。
「あの人は『影』のような物。だから、あの時夕日を浴びていたのに、あの人には『影』がありませんでした。」
「『影』には『影』は出来ないから・・・・・。」
「『自分』が『見せよう』と、『存在しよう』と思わない限り、あの人は『影』のまま。」
「だからあんな風に『意識を失ったりする』と、『存在しないモノ』になる。」
「僅かに有った『重さ』は、『服の重さ』。『あの人の重さ』は―――――『ありません』。」
「『今』のあの人は―――――――『影』なんです。・・・・・・・『俺』と、同じ。」
「・・・小狼君・・・・・?」
ファイがその瞳を覗き込む。その『瞳』が、あらぬモノを見つめている気がして。
事実、その視点は定まっていない。
「『俺』も同じ――――――『影』。――――――『俺』は、『鏡の虚像』。」
茫洋として虚空を見つめる瞳に映るのは。
「『俺』は本当の『俺』じゃない。本当の『俺』は―――――――『シャオラン』の方。」
「『あいつ』、か・・・・・。」
黒鋼の脳裏に浮かぶのは、『レコルト国』で本を投げ捨て、『東京』で己の腕を掴んだ、あの冷たい存在。
「『あいつ』が・・・『シャオラン』・・・。」
「『鏡』の・・・『実像』?」
ファイの声に、『堰』が切れた。
「『俺』は・・・『俺』も、此処に存在して『居ない』!!ただの『虚像』!!」
「小狼君!!」
「『あいつ』が・・・来る!!俺を・・・侵しに・・・・『俺』を取り戻すために!!」
「小狼君!落ち着いて!!」
「『虚像』は『虚像』でしかない!!・・・『実像』に取って代わられるだけ!!」
「ねぇ、落ち着いてってば!!」
「『俺』は・・・・・・『消えてしまう』!!!」
獣のような叫び声を上げて、小狼は咆哮した。
己を見失って。
どうする事も出来ない自分を。
『シャオラン』に取って代わられてしまうのを『止められない』自分を。
――――――――『鏡の虚像』の、自分を。
「――――――――バカ野郎!!」
声と共に小狼は吹っ飛んだ。
何が起こったのか理解できなかったファイは、黒鋼が小狼を殴り飛ばしたのだと知る。
「く・・・黒たん・・・・。」
ずかずかと足音も荒く小狼に詰め寄り。
襟首をグイッと持ち上げた。
『何を『寝言』並べてやがんだ?あぁ?」
「・・・黒たん・・・乱暴は・・・・・。」
「てめぇは黙ってろ。」
冷たすぎるほどの口調で一蹴する。思わずファイは怯んだ。
「お前が『虚像』だとか、『あの野郎』が『実像』だとか、そんな事ぁ、関係ねぇ。」
胸座を掴んで、強い口調で続けた。
「あん時、あいつが言ったのを忘れたのか?!えぇ?!」
「・・・え・・・・・・?」
昔日の。
『あの人』の声が甦る。
「・・・『鏡の虚像』は、『虚像』でしか本来は有り得ない。」
「だが、『虚像』は、自らの意思を持ち、自らの目で物を見、自らの耳で聞き、自らの足で歩み始めた。」
「『虚像』はもはや『虚像』ではない。己を強く持てば、『実像』に侵される事はない。」
「・・・・・・・・。」
「俺たちは一緒に旅をしてきた。一緒に戦い、一緒に笑い、一緒に怒って、一緒に『時』を過ごしてきた。」
それは、確固たる、『現実』。
「俺はお前に『剣』を教えてきた。お前が『存在しない』ってんなら、『俺も』『存在していない』。」
「・・・・あ・・・・・。」
目の前の、紅玉の瞳は。
揺るぎない信念に満ち満ちて。
「お前一人で『浮いて』るんじゃねぇ。しっかりと、大地に足を付けろ。」
「・・・・・。」
「『自分』の『足』で立って。」
「『自分』の『耳』で聞いて。」
「『自分』の『目』で物を見て。」
「『自分』の『口』で話して。」
「『自分』の『手』で道を切り開いてきた。」
その瞳に、優しい光が宿る。
「お前は、『自分』の『意思』を持って、『此処』に、『存在している』。」
「・・・・・・・黒・・・・鋼・・・さん・・・・・。」
「お前は『一人』じゃねぇ。俺たち皆・・・・『仲間』だ。」
「そうそう!もちろんオレもね!!」
「モコナも『仲間』〜〜〜!」
モコナが飛びついてきて。小狼の『気』がふっと和んだ。
「『あの野郎』が来やがったら、俺が叩っ斬ってやる。」
「黒様、物騒〜〜〜。」
「『おとーさん』だもーん♪」
「・・・・白まんじゅう、そこに直れ。」
『蒼氷』の柄に手を掛けて。
黒鋼が纏っていた『戦気』が消える。
ペタン、と座り込んで。小狼は、涙を拭おうとして。
「・・・あれ・・・・?涙が・・・・・。」
それは、留まる事を知らず、滂沱として頬を伝い。
何度も拭おうとするが、上手くいかない。
「小狼君。」
ファイがそっと小狼の頭を抱え込んだ。
「・・・・ファイさん・・・・?」
「『泣きたい時』には『泣いていい』んだよ。」
それが。
かつて養父・藤隆の記憶とも重なって。
―――――あの、優しい、温かさに。
「・・・う・・・・わぁっ・・・・・っ!!」
それこそ、堰を切ったように。
小狼は『泣き出した』。
ファイの腕の中で。
それは、まるで子供のように。
今まで押さえてきた物の全てを解き放すが如くに。
小狼は、泣き続けた。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
どのくらいの時が経ったのだろうか。
小狼は、『眠って』いた。
泣き疲れて。
幼子のように。
床に座り込んで、小狼を腕に抱いていたファイは、結局動けないままだ。
ため息を1つ、ついて。
黒鋼は小狼を抱え上げた。
そのまま部屋に運んでやる。
ベッドにそっと下ろし、ファイが毛布をかけると、小さく身じろぎをして、丸くなった。
まるで、胎児のように。
「黒たん、お疲れさまー・・・。」
結局3人とも黒鋼が部屋に運ぶ事になった。
「『お父さん』だもんね〜〜♪」
ファイの茶化しに答える気力もない。
「・・・俺も、寝る。」
「はぁい、お休みー。」
にっこりして見送る。
ドアがパタン、と閉じて。
コップを洗いながらファイはふと、考えをめぐらせた。
『魔界』から『羽』を持ち帰った。
これは『反逆』にも等しい。
リアンは、『魔女』だ。
『魔界』に属する存在であるならば。
(・・・ちょっと、立場、悪くなるんじゃ・・・・?)
要らざる心配なのかもしれないが、しかし。
「・・・どう動くのかな、『時の魔女』は。」
ファイの纏う『気』は、確かに『闇』の色を呈していた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・*・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
時が、無い。
『奴』が、動くぞ。
どうする?
「『・・・やると決めた事をやる』・・・まさに至言だな。」
それは。
『自分の信じる道を進む』為に。
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