なおも。
信じる事が出来ないのは。
自分たちが、『何を』聞いたのかを。
叩きつけられた、『真実』を。
――――――――――――――――――― * ――――――――――――――――――
「ソエル。侑子に連絡を。」
七日七晩眠り続けたその人は、青白い顔のまま階下に降りてきて。
気遣いの声をかけたサクラを制して、モコナに『命じた』。
「え・・・・?あ・・・・・うん・・・・。」
気圧されて。
モコナは額の光を煌かせた。
『 モコナ?どうかして? 』
予感していなかったのだろう。侑子―――『次元の魔女』は驚いたような声を上げた。
「ん・・・・リアンがね・・・・。」
言いかけたモコナを、つい、と手で制する。
モコナははっとして口をつぐんだ。
『次元の魔女』の視線が険しくなる。
『 あまりいい話じゃ無さそうねえ? 』
「商談だ。」
簡単な言葉に、感情が無い。
――――――――いや。
ある。
それは――――――『凄み』。
「欲しい物が4つある。対価は、『今まで貴女に付けさせてあげたツケ』の全て。」
『 ・・・ちょっとお待ちなさいな。 』
光の向こう、画面には映らない所から声がする。
『 いっつも「明朗会計・即金払い」って言ってるくせに、自分は「ツケ」なんすかぁ――――?! 』
『 そこ!やっかましい!! 』
ビシィッ!と指を指して。見返して来る視線が『据わっている』。
『 ・・・・その「ツケ」が、どのくらいあるか、解って言ってるんでしょうね? 』
「当然。」
『 ・・・・・・・。 』
『魔女』の凄みは。
完全に『時の魔女』が勝っている。
『 ・・・・何が、欲しいの。 』
それの応えに、如何なる逡巡も見えず。
「まずは、情報。」
『 情報? 』
「『あの男』は、何処に居る?」
『 ・・・・何故、『訊く』の?調べれば――――――。 』
「時が、無い。」
それは、一切の『質問』を許さぬ、と。『次元の魔女』はため息をついた。
『 「ここ」よ。 』
その掌に浮かばせた、光。
それをじっと見て。
「・・・・『そこ』か。」
『 えぇ、「ここ」よ。・・・・・これで1つ目はクリアなのかしら? 』
頷いて。
「では、残り3つを用意してもらおう。」
『何か』を感じたのは。
これから起こる事への――――――予感?
『時の魔女』が『次元の魔女』に『命じた』のは。
「私が欲しいのは3つ。・・・ファイ=D=フローライトの『刺青』と『魔法杖』、それと・・・黒鋼の『銀竜』。」
――――――――――――――――――― * ――――――――――――――――――
「・・・・な・・・・・・?!」
「何だと・・・・・?」
その声は、同時に。
予期せぬ言葉への驚愕と――――――。
――――――何故か、怒り、と。
しかも。
同時に差し出した『もう1つの対価』――――小狼の、『サクラと自分との関係性』は入っていない。
黒鋼とファイに視線を滑らせながら、『次元の魔女』は口調を険しくした。
『 「他人が対価として差し出したもの」を「横から」手に入れるには、「最初より高い対価」が必要なのよ? 』
「『ツケ』では足りないのか。」
『 ・・・・いいえ。 』
『次元の魔女』は額に手を当てた。
『 悔しいけど、「それだけの物を渡して」も、まだお釣りが必要よ。 』
またしても画面の向こうで『一体いくらツケてるんすかーっ?!』という叫びが聞こえたが。
『次元の魔女』は、今度はツッコミを入れなかった。
代わりに。
『 悪いけど、「理由」を教えてもらいたいわねぇ?・・・後ろの2人も、きっとそうだろうし。 』
後ろの2人には、目もくれず。
リアンは変わらぬ口調で言葉を継いだ。
「『自分で決めた道を進む』為に、後顧の憂いを絶っておきたいだけだ。」
『 そのために、刺青や銀竜が必要なの? 』
「そうだ。」
交錯する視線。
『次元の魔女』は、観念したように目を閉じた。
『 四月一日、マル、モロ。「蔵」へ行って取ってきて。 』
パタパタと去っていく足音が聞こえる。
それを聞きながら。
『次元の魔女』は深い深いため息をついた。
『 ・・・・貴女、何をするつもりなの? 』
「『自分で決めた事をやる』。」
『 だから、「それ」は「何」? 』
目の前に立つ『その人』が。
『真の意味』において、『魔女』なのだと。
皆は思い知らされた。
―――――――その、『身に纏う闇の気配』によって。
「私は、『私が為した事』の決着をつける。ただそれだけだ。」
『 ・・・それは、「選んだ事」と関係有るのかしら? 』
「・・・・あの時、『選ばなければ』、多少は変わっていたかもしれないな。――――『未来』、は。」
『次元の魔女』は首を振った。
『 例えそうであったとしても、この「未来」は「必然」だったと思うわよ。 』
「『必然』か。」
その口元に浮かんだ『笑み』が、『自嘲』と見えるのは。
「『必然』―――――その言葉、好きなのだな。クロウも―――――そして、『お前』、も。」
『次元の魔女』の『呼称』が、変わった。
『お前』、と。
それは。
『時の魔女』が、『次元の魔女』よりも『高み』に移った、という事。
それは―――――――――『訣別』。
『 この世に「偶然」なんて無いわ。全て「必然」よ。 』
「だとしたら。」
その目に宿るのは。
「『私自身がこの世に存在した』事自体が、『諸悪の根源となる必然』だったのだろうな。」
何かを言おうとして。
それは、『蔵』から戻ってきた足音に遮られた。
『 侑子さん、持って来ました。 』
『 ありがとう。そこに置いて頂戴。 』
あきらめたような、疲れたような。
『置かれたもの』を見遣りながら、『次元の魔女』は躊躇った。
『これ』を渡してしまって、本当にいいのだろうか?
『自分』は『後悔』しないだろうか?
「『お前の進む道』は、『私の進む道』とは違う。躊躇う必要は無い。」
光の中の逡巡を見て取って、氷のような言葉が降る。
だが、そこに。
微かに。
労りを感じたのは―――――――。
『 モコナ、これ、送って頂戴。 』
「こうやって通信をしていると、『ラーグ』と会話をする事は出来ないな。・・・一度は話をしてみたかったものだ。」
言外に。
『これで最後』なのだと。
『次元の魔女』の顔が、こんな風に歪むとは、皆には予想すら出来なかった。
何時も自信と余裕に満ち満ちていた、『次元の魔女』が。
『自分より遙か上を行く』存在によって、全てを覆されていく。
一瞬、穏やかな面差しがよぎった気がした。
自分を認め、共に時を歩み、一人離れていってしまった―――――不世出の魔術師の。
モコナ―――――ソエルの口から、『対価』が弾き出された。
「・・・・・・・・。」
それは―――――――『懐かしい』モノたち。
『対価』として差し出し、二度と会い見えぬやも知れぬとさえ思っていた『モノ』たち。
「ソエル、ご苦労だった。」
それだけ言って、背を向けた。
モコナは長い耳をシュン、としおれさせた。
それでも、光を収めない―――――『次元の魔女』は、険しい視線のまま、事の推移を見守るつもりのようだ。
「では、『お前たち』には、これを受け取ってもらう。」
「・・・・受け取れねぇな。」
「説明もなしに『受け取る』ワケには行きませんねぇ・・・。」
黒鋼とファイの言い分は、もっともだ。
『自力』で取り戻すつもりの物を、横から『勝手に』手に入れて、『受け取れ』とは。
「・・・『何様』のつもりだよ・・・・。」
自分たちよりも『上』を行く存在なのはわかっている。
だからといって。
『恵んでもらう』筋合いはない。
「私が『自分で決めた事』を為す為には、『お前たちにはお前たちで身を守ってもらわねばならない』のだ。」
「・・・そのためには『銀竜』が必要だってのか?」
その手にした『蒼氷』をグイ、と前に差し出して。
「この『蒼氷』は『いい』刀だ。『銀竜』に勝るとも劣らねぇ。」
「『銀竜』でないと、駄目なのだ。」
「何故だ?!」
「・・・・それは、何時の日かわかるだろう。」
「それじゃあ『返事』になっていねぇ。」
苛立たしい。
この感情を抑えきれない。
『裏切られた』、という思いが。
「お前たちが『受け取った』なら、『真実』を話そう。」
「それじゃあ本末転倒じゃねぇか!」
「・・・・受け取ったら。」
ファイの声が、低く、地を這うように響いた。
「・・・『話して』もらえるんですね・・・・?」
「約定は違えぬ。」
「・・・・・・・。」
氷の如き双眸は。
夕闇を射抜かんとしたが、それは叶わず。
ため息を1つ、ついた。
「『無料』じゃあ、貰えないんですけどー?」
「それは『道理』だな。・・・では、『対価』を貰おう。『私の命令への服従』。これが『対価』だ。」
「・・・・うわー・・・・。」
とんでもない『対価』を要求されたものだ。
だが。
「・・・しょうがないですねー・・・・。」
呟きと共に。
『刺青』はファイの背中に消え、『魔法杖』はその手に収まった。
「お帰りー・・・。」
なんとも情けない声を出して呟く。
それを見届けて。
リアンは黒鋼に向き直った。
「お前の対価は、ファイと同じだが、もう1つ。・・・その『蒼氷』も貰う。」
「・・・何?!」
「『長剣』を2本も持つことは出来まい。ちょうど業物が欲しかった所だ。『蒼氷』ならば申し分ない。」
「・・・・・。」
秤にかけろと言うのか。
『銀竜』と『蒼氷』を。
自分の中での重さは、解りきってはいるが。
『蒼氷』は。
『桜都国』で手に入れて以来、ずっと傍にあった『刀』だ。
いわば『苦楽を共にしてきた盟友』。
今の自分にとっては―――――『最も価値あるもの』かもしれない。
「・・・絶対に、『傷めんじゃねぇ』ぞ・・・・・。」
射抜くような眼光と共に、『蒼氷』を差し出した。
かつて、『次元の魔女』に『銀竜』を差し出した時のように。
静かに『蒼氷』を受け取る。
入れ替わるように、『銀竜』は黒鋼の前にやってきた。
「・・・・『銀竜』・・・・。」
複雑な表情のまま。
黒鋼は『銀竜』を手にした。
「さあ・・・話してもらおうか・・・・。」
「いいだろう。」
少し、小首を傾げて。
その目を閉じて。
その『口』から紡ぎだされた『言の葉』は。
誰や知る。
吟遊詩人、かく語りきと。
その『謂れ』の『真実』を。
―――――――『時の重さ』、を。
かつて『魔道宮』といわれた国があった。
その国に、3千年に一度、類稀なる魔力を持つ『翼を統べる者』が現れるという言い伝えがあった。
ある時、その『翼を統べる者』が現れた。
王はその者の力を贄として、『魔界』と契約を結んだ。
そのときから『魔道宮』は『魔界』の『出城』となり、『闇の魔王』は、この世界に干渉をし始めた。
『魔道宮』は、その力を維持するために『魔界』の結界の中に封印された。
そして『翼を統べる者』を『依り代』として、『時の魔女』がこの世界に現れた。
「『翼を統べる者』・・・・・。」
それは、『時の魔女』の『依り代』。
つまり――――――。
―――――――目の前の。
『闇の魔王』は他にも『契約者』を得た。
己の欲望、叶うべくも無い望みを持つ者はいくらでもいた。
やがて1つの国を新たなる『出城』として確保した。
その『国』は、世襲制にあらず、『チカラ』を持つ者が次の『王』となる。
その国の『名』は―――――――『セレス』。
皆は、呆然として。
ぎこちなく、その人を見た。
『その国』に帰る事を拒んだ、白き魔術師を。
その一方で、『時の魔女』は、偶然にせよ、2人の弟子を得た。
2人とも傑出した魔力を持っていた。
故に『魔女』は、己の持つ『チカラ』を伝えようとし、そのうちの1人を指名した。
いま1人は、その資質に欠けると判断した。
しかし、『選ばれた弟子』は、残念ながら期待に副う事はなかった。
その『チカラ』のあまりの大きさと、己の『願い』を叶える物ではなかった事を知り、彼はその『チカラ』を手放すことを望んだ。
そして『玖楼国』の『遺跡の地下』にその『チカラ』を封印した。
『玖楼国』は、異世界の『魂を同じくする者』が統べる国。
その血脈に『真の継承者』が現れる事を予見して。
『選ばれた弟子』の名は、『クロウ=リード』。
そしてその『真の継承者』は現れた。
その名は―――――――――『サクラ』。
サクラは、夢を見ている気持ちになった。
自分が?
『チカラ』の『継承者』?
『選ばれなかった弟子』は、そのことを怨み、その『チカラ』を我が物にせんと欲した。
ただ1つの『願い』を叶えたいと思うが故に。
その『チカラ』は、『彼』の『願い』を叶える物ではないのに。
その『チカラ』を『サクラ』と共に、真に発動させる力を持つのは、『彼』ではなく、『彼の息子』。
しかし、その『息子』は、『真の発動者』に相応しからざる『モノ』をも持っていた。
その『モノ』は、『彼』をも滅ぼしかねないものだった。
故に『彼』は、『本来持っていなければならない資質』を『息子』から切り離し、『必然の運命』と共に放逐した。
『切り離された資質』を持つ、『鏡の虚像』を。
『鏡の虚像』が『サクラ』の元に赴くように。
『彼』の手元に、その『チカラ』ごと引き寄せるために。
だから、『鏡の虚像』には過去の記憶が無い。
そう、それが――――――『小狼』、お前自身。
そしてお前に取って代わろうと――――お前を再び取り込もうとしているのが、『シャオラン』―――彼の、『息子』。
切り離された『資質』。
鏡の虚像。
『選ばれなかった弟子』の―――――『息子』。
(そうだ・・・・。)
思い出した。
『シャオラン』には。
『彼』の服には。
――――――――『蝙蝠の模様』があったのを。
その欲望ゆえに、『彼』は『闇の魔王』の声を聞くモノとなった。
『彼』は『次元を渡れない』。
その『チカラ』は『彼』をより『危険な者』にすると見て、『私』が封印した。
それ故に、『彼』は次元の彼方の者に援助を求めた―――――もちろん、『闇の魔王』に関わる者達に。
『とある国』に攻め入るために。
その求めに応じ、『セレスの王』は、『彼』に力を貸した。
『次元を切り裂き、干渉するチカラ』を与えたのだ。
そしてその『次なる王』である所の『闇の御子』に、『魔物』を送り込ませた。
―――――――結果。
『魔物』はその国の『領主』を『食い殺し』、
『彼』は『結界を張った巫女』をその手にかけた。
「・・・・ちょっと、待て・・・・。」
黒鋼は、自分の声が震えるのを止められなかった。
『食い殺された』―――『領主』。
『次元を切り裂いて手にかけられた』―――『巫女』。
それは。
その国の『名』は―――――――『諏倭』。
そう、黒鋼、お前の―――――『故郷』、だ。
『諏倭』にあった、『ある物』を手に入れるために。
『彼』は己の手を血に染めた。
お前の両親と、国ひとつ、滅ぼして。
魂消る悲鳴が響いた。
振り返った皆の眼に、映ったのは。
――――――頭を抱えて座り込んだ白き魔術師。
残念だが。
『知らなかった』では、もう済まされまい。
『お前』は知ってしまったのだから。
そう。
その主たる『王』を封印した、セレスの『王位継承者』。
『次なる王』―――――『闇の御子』の二つ名を持つ魔術師よ。
『あの時』お前が放った魔物は、『諏倭』に送られたのだ。
『諏倭』を滅ぼすために。
あの『チカラ』を手に入れるために。
「ウソだ・・・・・絶対、ウソだ・・・・あの時・・・・アシュラ王は・・・。」
ファイの唇から震える声が洩れ出てくる。
「あの時『王』は言った!・・・『服わぬ国に制裁を与えるのだ』と!!」
おびえたような目で。
ファイは黒鋼を見上げた。
かけるべき言葉を見つけられない紅玉の視線と絡み合う。
「その『服わぬ国』が・・・・『諏倭』――――黒たんの『故郷』だったなんて・・・・!!」
『彼』の望みどおりにならない『国』は、『服わぬ国』だ。
『諏倭』は、その『チカラ』を『彼』に渡す事を拒んだ。
その『チカラ』の名は、『龍玉』。
その持ちたる力は、『如何なる結界をも砕くチカラ』。
『遺跡の地下』に封印された『チカラ』には、強固なシールドがかけられていたから。
だから『彼』はその『チカラ』を得ようとしたのだ。
数多の血を流し、国1つ滅ぼしてでも。
だが、『龍玉』は魔手を逃れ、潜伏した。
そして。
『自らの遣い手』を『選び』、ずっと見つめ―――――――その『力量』を『認めた』。
真に『心技体』共に優れ、己を遣うに足る者と。
そして、『選ばれた』のは、諏倭の血脈に連なり、『銀竜』を手にする者――――黒鋼、お前だ。
「俺が・・・・?」
『選ばれた』?
『龍玉』に?
―――――――――その『為』に、『銀竜』が『必要』なのか?
いずれの時にか、『日本国』に帰った時。
『諏倭』を訪れよ。
『龍玉』はお前の下に来る。
そして『銀竜』にその『チカラ』を与えよ。
『銀竜』と『龍玉』の『チカラ』が1つになった時、『龍玉』の力はお前のものになる。
その『チカラ』は――――『諏倭』を解き放つ。
その言葉の『意味』を。
知っているのは―――――黒鋼、だけ。
『シールド』は、本来なら『サクラ』が20歳になった時、自動的に解除され、『チカラ』を伝えるはずだった。
しかし、『彼』の干渉により、『時』至らぬまま、『サクラ』は『チカラ』と接触し、逆に取り込まれそうになった。
それはとても『危険』な事。
幸いにして、小狼がそれを防ぐ形になった。
『遺跡の紋章』から『サクラ』を引き剥がしたおかげで、最悪の事態は免れた。
だが、その代わりに『キオクの羽』が飛び散り、お前達は『旅』をしなければならなくなった。
遺跡の地下に封印された『チカラ』の『真の継承者・サクラ』。
『サクラ』と共に『チカラ』を発動させる、『資質を持った運命の人・小狼』。
『彼』が手に入れられなかった『龍玉』に選ばれた『諏倭の若・黒鋼』。
すべての『破滅』と、絶対の『必然』を綾なす『時』を紡いだ、『闇の御子・ファイ』。
『あの時』、『次元の魔女』の元で会したのは、その言葉を借りるならば、まさに『必然のデアイ』だったのだ。
いつの日か、お前たちの旅は終わるだろう。
それぞれの世界で、それぞれの道を歩むがいい。
これ以上の『干渉』は、『この私』が、もう『させない』。
『 ・・・・貴女は、何をするつもりなの? 』
『自分』も知らなかった事を語られて。
『次元の魔女』は疲れた声で問うた。
その顔が、驚愕に満ちる。
光の中の、『次元の魔女』を見る、『時の魔女』の顔は。
何時だったか、黒鋼が見た、あの表情。
優しさに満ちて。
そして今は、そこに『哀しみ』をも湛えて。
「『不肖の弟子』―――『飛王=リード』に、『己のした事への対価』を払わせるのだよ。『師』であるこの『私』の手で、な。」
――――――――――――――――――― * ――――――――――――――――――
「・・・では、『命令』だ。この『宿』の賃貸期限は今日の正午。それまでに退去し、次元移動する事。・・・以上だ。」
『魔女』が部屋を――――『宿』を出た後も。
皆は動く事も出来なかった。
突きつけられた、『真実』。
思いもしなかった、『必然』。
「・・・・・。」
無言で。
ファイは、部屋を出た。
そして。
もう一度現れた時、ファイは『セレスの服』を身に纏っていた。
「ファイさん・・・・・。」
小狼の声は、複雑な色を含んでいる。
ファイはへにゃり、と笑った。
「ごめんねぇー・・・・。オレ、行くよ・・・・。」
その声は、力無く。
「サクラちゃん。」
サクラの前に立って、白き魔術師は微笑んだ。
「オレね・・・すごく楽しかったよ・・・・。」
「・・・ファイさん・・・・。」
「『逃げなきゃいけない事』を忘れるくらい、ホント、楽しかったんだ・・・・。」
それは、掛け値なしの、本音。
「オレ、兄弟居ないから、妹がいたら、きっとこんなんだろうなーって・・・。」
そっと、その髪に唇を寄せた。
「・・・ありがとう・・・・・。」
次に、小狼に向かって。
「一杯『教えて』くれて、ありがとう。」
「え・・・?俺は、何も・・・・・。」
「ううん。」
首を振って。
「小狼君が、『やると決めた事をやる』っていうスタンスを貫いてるの、信じられなかったんだ。・・・でも。」
その頭を、そっと抱き締めて。
「オレもきっと『変わった』よ・・・・オレも、『やると決めた事をやる』。」
何を、という言葉は、出なかった。
小狼の視界が歪む。
「モコナも今までありがとうねー・・・。これからはサクラちゃん達の事、頼んだよー?」
「・・・ファイー・・・・。」
ポフ、と頭を撫でて。
ファイは黒鋼の前に立った。
「・・・・・。」
お互いに、無言だ。
ファイは、万感の想いを込めて言葉を紡いだ。
「・・・何を言っても『言い訳』だって事は解ってるんだけど・・・・・でも、これだけは信じてほしいんだ・・・・。」
こんなに泣きそうな顔を見るのは、初めてだった。黒鋼の眉間の皺が深くなる。
「・・オレ・・・・自分が『魔物』を送った先が、黒たんの『故郷』だなんて・・・知らなかったんだよ・・・・・。」
顔を伏せて。ファイは小さく呟いた。
「・・・・・今まで、ありがとう・・・・そして・・・ごめんなさい・・・・・。」
ファイは静かに『宿』を後にした。
――――――『自分でやると決めた事をやる』為に。
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