魔 術 師ウィザード の 旅 立 ち    




目の前で。
川が流れていく。
静かに、しかし弛まず。
さらさらさらさら・・・・・・・。
その音は。
砂時計の砂が落ちる音に似ている。
さらさらさらさら・・・・・・・。
川面を見つめていた、その視線を、傍らの『刀』に移す。
『自分』が使うには、あまりにも長い『長剣』。
背が高く、腕も長い『彼』にしか――――いや。


『彼』だけが使うことの出来る『刀』。


それを今、自分が手にしている。
『対価』という形で『彼』の手から『取り上げた』。
じっと見つめて。


「すまない・・・・・『蒼氷』・・・・。」


『お前がただ一人認めた主』から引き離し。
『過酷な戦い』に向かわせようとしている。
そんな『私』を・・・許してもらえるだろうか?


心の呟きに、応えは無い。
元より期待はしていないが。
それでも、自分には『詫びる』事しか出来ない。
少しく天を仰ぐ。
目を閉じれば―――――――走馬灯のように『面差し』が浮かんでは消える。
『人に対する感情』など要らないと『心』に決めながら。
どうしても封じきれなかった『想い』。
『最後の想い出』が欲しかった。
『楽しかった時間』の。
『最後』に人間に『戻れた』気さえして。
それが、『自分』を、何よりも苦しめると知っていながら、『想わずにはいられなかった』。
だが――――――。


(もう、終わった。)
『全て』に『訣別』した。
『真実』を『叩きつける』というカタチで。
これで『彼』―――――いや、『彼ら』は、自分に『気』を遣わなくなってくれるだろう。
『怨み、憎む』かもしれないが、『哀しむ』事はしないだろう。
(それで、いい。)
『自分』は、『此処』に『存在してはいけない』モノ。
(願わくば―――――。)
『忘れて』欲しい。
『時の魔女』の『名』を。
『自分』という存在を。
―――――どうか。


それでも。
自分は、忘れない。
(忘れたくない。)
だから『欲しかった』のだ―――――『彼』を、『皆』を偲ぶ『よすが』が。
決して『届く事の無い』―――――――『想い』の。
女々しいと解っていても。
未練がましいと解っていても。

川面の煌きは、心の漣そのままに。

リアンは首を振った。
もう『時』が無い。
後は、前に進むだけ。
さすがに『使うには長すぎる』得物を見遣る。
『蒼氷』に静かに念を込めた。
応えるかのように。
『蒼氷』はその長さを変え、脇差ほどの長さになった。ほぼ3分1の長さになった事になる。
ス、と腰の後ろに差した。
(行こう。)
『自分の決めた道』を、ただひたすらに。


「オレも連れて行ってもらえますか――――?」


どこか間延びした声がかけられた。
木陰から現れたのは、哀しい微笑みを浮かべた白き魔術師ウィザード
「オレ・・・・さすがにもう皆と一緒には行けないですー・・・・。」
へにゃり、とした笑みは、哀しい色で。
「『あんな事』暴露されちゃって、それでも黒たんと一緒になんか、もう無理ですよー・・・。」
『自分が送り込んだ』魔物は。
『黒鋼の父』を『食い殺した』のだ。
「・・オレ、そこまで心臓強くないですしー・・・。」
『知らなかった』というのは、言い訳にもならない。
「とりあえずオレは『逃げ続けなきゃ』いけないんで、モコナ以外に次元移動ができるのってリアンさんだけですからー・・・。」
ぺこり、と頭を下げた。
「連れて行ってください。お願いします。」
「・・・私と一緒に居ると『巻き込まれる』ぞ。」
「覚悟の上ですー・・・。」
へにゃりと。
哀しいまでの微笑みを浮かべる。


そう――――――『彼』は。
いや、この『2人の魔術師ウィザード』は。
どれほどの『心』を、その『表情』に隠してきたのだろう。
人当たりのよい、『笑顔』に。
何を考えているかわからない、無表情な『顔』に。
誰にも知られる事の無い、深い深い『深奥』を。


白き衣を纏った、『闇の御子みこ』。
永遠の『時』を刻み続けてきた『時の魔女』。
『平和な』ままに、『平和な時代』に、出会っていたならば。
「・・・オレ達、『親友』になれましたかねぇ―――?」
「・・・・そうかもしれぬな・・・・。」
それは―――――――――『夢』。


「―――――――――――――!!!」


それは―――――まさに、『刹那』の『一瞬』。
身軽なファイとリアンでなければ、『避けられようも無い』モノ。
見れば川面にどす黒い空間が何時しか浮かび上がり、そこから2人をめがけて何本もの『黒い鎖』が空を奔ってくる。
「・・・ちっ!!」
リアンは思わず舌打ちした。腕を振り払い、無数の『羽根』を周りに飛ばす。
『羽根』は『鎖』を受け止め、『迎撃』した。
しかし『鎖』は次々と無限に増殖していく。
「ファイ!『閉鎖空間』に!」
「・・・・わかった!!」
離れた所に降り立って。魔法杖を地面に突き立てる。
瞬間、足元に魔法陣が展開した。それは白く輝き、辺りの空間の『色』を変える。
「『雷帝』招来、サンダーギル!『炎帝』招来、サラマンダー!」
再び『最高』の存在を呼び出す。今度は―――――『雷』と『炎』。


「滅破・炎雷陣!・・・・『フレイムサンダー』!!」


以前使った『サンダーストーム』は『風』に乗せて辺り一面を薙ぎ払った。
今度は、逆に、『指向性』を持たせて放つ。
炎と雷を受けた『黒い空間』は、さすがにそれを維持できなくなったのか、急速に消え去った。
少しの『』を確かめて。
リアンはファイに合図を送った。
合点してファイも魔法陣を解除する。辺りの風は急速に『いつもの』風に戻った。


「・・・・『来ました』ねぇ―――・・・・。」
ファイの目は、『凄み』を帯びている。
「ああ・・・・思ったより『遅かった』が。」
それは、『予測された』襲撃。


「オレ達、『反逆者』ですもんねー・・・・。」


自分は『主である王』を封印した。
リアンは『魔界』から『羽』を『奪った』。
レベル的には、リアンの方が『重い』が、結果は同じだ。
今までファイが『直接攻撃』を受けなかったのは、『セレス』という『出城』での内紛、と見られていたからだ。
だが、『魔界』に『完全』に反抗したリアンと『一緒』に居る以上。
『同罪』とみなされても文句は言えない。
「『今』ならまだ間に合う。『私』から離れるのだ。」
「・・・・・言ったでしょー?・・・・『覚悟の上』だって。」
そう。
もう後戻りは出来ない。
だから『この国』に来るのは、『本当に袂を分かつ時』で無ければならなかったのだ。
『魔界』に直接干渉しなければならない、『この国』には。
『一緒』に居れば、確実に『巻き込まれて』しまうから。


「・・・・魔法を『使わせて』しまったな。」
「いいですよー・・・これも、『覚悟の上』だし。」
へにゃ、と笑う。
一応『刺青』はあるし、それにもし『気付かれても』――――――。
「―――――ファイ。」
視線は川面を見つめたままで言葉を紡いだ。
「1つ、『約束』をしてくれぬか?」
風が、ざわり、と。
戸惑うように、恐れるように。




―――――――――――――― * ―――――――――――――



「―――――――いいですよ。」
その『笑顔』は、そのままに。
「オレも『それ』考えてましたから―――――問題ナシ、でーす。」
「・・・・そうか。」
川から吹き上げる風が、ふわり、と髪を撫でていく。
「そうそう、1つ訊きたいのだが。」
「何でしょ―――?」
「『あの男』の元に赴いた時、お前は『どうする』のだ?」
隠れている分には構わないが、と付け加えたのを聞いてファイは苦笑した。
「先に質問なんですけど、その『お弟子さん』―――飛王、っていいましたっけ?いくつなんです?」
「ん?」
思わぬ質問に、少しキョトン、として。
天を仰いで、んー?と考えた。
「・・・さて・・・いくつになったかな。もう忘れたが・・・・まあ、小狼の『父親』の年齢、という事で考えてはくれぬか?」
「・・・・よし!!」
「?」
ガッツポーズを決めるファイに。
何の事か解らない、といった風で。
「何が、『よし』?」
ファイは、にた、と笑った。
「『おっさん』に、認定!!」
「・・・・はァ?」
「以後、オレは『そいつ』の事を『おっさん』と呼びます!!」
「・・・・・・はぁ。」
「んで、オレは、『おっさん』の所に行ったら、まず、いの一番に、『ぶん殴ります』!!」
「・・・・・・。」
その目はまん丸になって。
この白き魔術師ウィザードは。
一体何を言い出すのだろうか。


「元々『おっさん』が要らん事望むからこうなったんです!だからオレ的には1発ブン殴らないと気が済みません!」
その腕をブンブン振り回して。
「・・・・・・。」
「理想はこう、ストレート1発!なんですけど、身長とか状況によっては、アッパーもありかな〜なんて♪」
妙に『楽しそう』に思えるのは、あながち間違いではあるまい。
「・・・・ファイ。」
かなりの頭痛を覚えつつ。
「・・・殴るのは勝手だが、『殴れば』、その『痛み』は何倍にもなって『自分』に帰ってくるのだぞ?」
「・・・もちろん。」
ファイは、笑った。
「『殴られた痛み』よりも、『殴った痛み』の方が『痛い』って事ぐらい知ってますよ。・・・当然の『対価』ですもん。」
「・・・・『知っている』なら、止めないが。」
「♪」
やたら楽しそうな魔術師ウィザードに、猫の耳と尻尾が見えた気がしたが。
ため息を1つ、ついて。
「・・・・ある意味、『前向き』だな。」
「『やると決めた事』をやるだけですよ〜。小狼君直伝です!」
へへっと。
リアンの顔も、少し綻ぶ。
「『やると決めた事・その1』、気合い入れてやらせていただきます!」
「・・・『その1』、というからには、『その2』があるのかな?」
「・・・・・。」
にっこりと、見返して。
「さっきの『約束』、ですよ。『その2』は。」
「・・・そうか。」
「でも考えてみれば、ちょっと納得いかないですよねー?」
「・・・・何が?」
「だって・・・・・『オレだけ、願いをたがえる』んですよー?」
上目遣いに見る、しかしその視線には『怒り』は無い。


「・・・今回の事、『全部終わったら』、オレはセレスに『行きます』。・・・旅を『終わらせる』為に。」


(あんなにまで『言ってもらっちゃった』ら、断れないもんねー・・・・。)
風のざわめきの中で、紡がれた言葉が甦る。


逃げてばかりでは、事態は変わらない。その事は、お前自身が一番良くわかってるはず。
そして、何時かは『逃げ切れなくなる』事も。
こう、と決めた事はやらなければならない、って事、お前はもう十分に解っている。
お前は、恐れているだけ。
『あの人』と戦いになる事を。そして・・・自分が負ける事を。
お前が『逃げ続ける』限り、旅は終わらない。事態も・・・変わらない。
何時かは『旅』そのものに疲れ果てる。絶望と狂気の淵に沈んで。
悪いが・・・『それ』を見過ごすほど、『優しくはない』。


お前は、『仲間』だから――――――――。



首を振った。
何もかも、振り切って。
拳を握り、グイ、と突き出した。
「?」
「これも小狼君の真似っこなんですけどー・・・。」
拳と拳を、胸の前でこつん、と合わせる。
「お互いの拳をこうやって合わせるんですー。『頑張ろう』とか、『またな』とか、『やるぜ!』みたいな意味を込めて。」
それは、とても『前向き』な、決意の表現。
少しく微笑んで。
リアンも腕を伸ばした。
こつん、と拳が合わさった。
「――――――行こうか。」
「・・・はい。」
2人の魔術師ウィザードは、空を仰いだ。
「さあぁ〜〜ぶん殴るぞぉ〜〜〜!!」
腕をぶんぶん回して、ことさらに明るく。
ファイが1歩を踏み出した、その時。



「・・・で、結局、俺は『母上の仇』を殴らせても貰えねぇのかよ。」



一瞬で、ファイが凍りつく。
そろそろと見上げる、視線の先には――――――黒い疾風かぜ
「私は『次元移動』するように、と『命令』したはずだが。」
「『正午』には、まだ少し時間がある。『宿』は『退去』した。」
黒い疾風かぜの背後には、翠玉の瞳と黄玉の瞳、そして白い妖精。
「『命令』には従ったぜ。」
「・・・では『次元移動』を・・・・。」
その声を遮って。


「お前の『命令』には、『俺たちがお前と一緒に行っちゃいけねぇ』っていうのは無かったからな。」


紅玉の瞳は、揺ぎ無い。
「・・・・言葉が、足りなかったか。」
黒鋼の主張は、正しい。
『一緒に居てはいけない』とは、一言も言わなかったのだ。
正確には。
『言い忘れていた』というよりも。
『当たり前』の事だと認識してしまっていたリアンに『落ち度』はある。
「・・・1つ、『親切』で教えといてやる。」
べりに向かって。
頭をガシガシと掻きながら黒い疾風かぜが降りてきた。
元来『無音』の移動をもって身上とする『忍者』は。
本来『彼』が持つ『気』を感じさせなかった。―――――――むしろ。
『優しい風』すら連れて。


固まりきった白い影を、見下ろして。
つい、と手を伸ばし。
ぐい――――――っ!とその頬を引っ張った。
「・・・・・・・ふ・・・ふほはん!!いひゃい!いひゃい!!」
堪らず悲鳴をあげた白猫1匹、しかし放しては貰えず。
「・・・てめぇら魔術師ウィザードってぇのはなぁ・・・・。」
その紅玉が煌いて。
「なーんでもかんでも『自分の中に抱え込んで』、『自分の中だけで解決して』、『自分だけで納得して』だなぁ。」
「いひゃい〜〜〜〜!!!」
「なーんも『言わねぇ』からなぁ、俺ら『凡人』にゃぁ、さっぱり『ワケ解んねぇ』んだよ!!」
「く・・・黒鋼さん・・・ちょっと、やりすぎ・・・・・。」
「これ位じゃあ、まだまだ足りゃあしねぇ。」
小狼の危惧はあっさり却下された。ファイは本当に『痛い』のだろう、目に涙を一杯に溜めている。
「へらへら喋り倒す『口』が有んならなぁ、ちったあ『必要な事』喋りやがれ!!」


そして、黒き疾風かぜは。
『魔女』と『白猫』を両脇に抱え込んだ。
「?!」
「俺らは・・・・『仲間』だろうが。もっと・・・・『ぶちまけろ』よ。」
「・・・・・・。」
「・・・な。『俺たち』を、もっと『頼れ』よ。『皆』で分けりゃぁ、少しは『軽く』なるってもんじゃねぇのか?」
「・・・・バカ、だな。好んで災いの渦中に飛び込むのか。」
「『バカ』で上等。皆でやりゃあ、何とかならぁな。」
「・・・本当に、『バカ』だ・・・・。」
「皆それぞれ関わりを持ってんだ。『バカ』な『仲間』を持ったって観念するんだな。」
くしゃ、とその髪を撫でて。コチン、と額を付き合わせた。
「・・・じゃあさー・・・・『ぶちまける』けどさー・・・・。」
反対側から上がった『不満』たっぷりの声。
「あ?」
「リアンさんには『頭なでなで、おでこコチン』なのにさー。どうしてオレは『頬っぺた、ビヨ―――ン』なワケー?」
「何だ、そんな事もわかんねぇのか。」
ちょっと照れたような『気』を感じさせて。
黒鋼は、にや、と笑った。
「『女』の顔に、そんなことできるかよ。」
「・・・・ひど―――――っ!!『男』だって、『顔』が『命』―――――――っ!!」
「あぁ?!何ワケ解んねぇ事言ってんだっ!この『ヘラ猫』が―――――っ!!」
しかし、結局。
真っ赤になった頬を押さえて涙ぐむ『白猫』――――もとい、白き魔術師ウィザードの姿に、 一同は笑い転げる羽目になった。




―――――――――――――― * ―――――――――――――



「・・・どうあっても、『私』と一緒に来るのだな?」
皆が頷くのを見て。
リアンは今日何度目かのため息をついた。
「―――――では、『行き先』を変更する。」
「『おっさん』の所ではなく?」
『絶対に』そう呼ぶつもりらしい。
「『あの男』の所に行くのは変わらない。・・・だが、『危険性』を鑑みて、『先』にやっておかねばならない事がある。」
それは。


「本来なら時を経れば、いずれ『伝えられるべき』ものだが、『今』繰り上げてそれを『伝える』事にする。」
「『伝えられるべきもの』・・・・・。」


風が。
微かにざわめきを増した。


「今より赴くは、『諏倭』。―――――『龍玉』と合流し、『サクラ姫の羽』を全て『召喚』する。」




第5章ー1に戻ります 第5章ー3へ 『時の翼』目次へ




何だかファイがバカになった気もするんですが・・・・。^^;
でも、ますます『保護者』に磨きがかかった(笑)黒様です。
どさくさに紛れて(笑)2人ともギュー(爆)されてますが。
下心が無い所がミソ。


裏話、小ネタはこちらから。

               作者・シュウ    2006.05.17UP

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