外に出たい・・・・。
外へ・・・・・・。
私の・・・存在理由は・・・・・・。
何処にも・・・無い・・・・。
私は・・・・。
何の為に生まれてきた・・・・?
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サクラの『キオクの羽』は、全て揃った。
『対価』以外の記憶は元に戻ったことになる。
「小狼君の『願い』、叶ったね。」
それは小狼とサクラの『旅の終わり』を、そして『別れ』を指して。
――――――――本来なら。
「俺の旅、姫の旅、まだ終わっていません。・・・・やらなきゃいけない事が残っています。」
そう。
サクラは『遺跡の地下に眠るチカラ」を継承しなければ。
小狼は、『シャオラン』との決着をつけなければ。
旅は―――――――終わらない。
「サクラ姫、魔法陣から出なさい。術式を『解除』する。」
静かに掛けられた言葉。
しかし、それが持つ恐ろしいほどの意味を、皆は知っている。
『リダクションエリア』の『対価』―――――――。
それは、『命』。
本来負うべき負荷が一気に押し寄せて、その者の『命』を奪う、『捨て身』の術式。
サクラは、震えながら魔法陣から出た。小狼が寄り添い、手を握り合う。
すっと、『召喚陣』―――――『アルティメット・サーム』の魔法陣が消える。
(一体、どうなるんだ?!)
ファイにも解らない。
未知の術式の『対価』は、予想を遙かに超える。
リアンは静かに右腕を振り払った。
『八角形』の魔法陣が、溶け込むように消えていく。
「!!!」
一瞬の間をおいて、誰の感覚にも明らかなほどの禍々しさを孕んだ風が巻き起こった。
そしてそれは、一気にリアンに向かって収束する。
「――――――――・・・・。」
苦悶の声を飲み込んで。
『風』は凄まじい勢いでリアンの身体を『切り裂いた』。
「・・・いやぁっっ・・・・・・!!!」
サクラは思わず悲鳴をあげた。血飛沫が竜巻のようにリアンの周りを踊り狂う。
そのあまりの凄惨さに皆の顔が歪んだ。
・・・ズ・・・・・・・ン・・・・・・。
腹の底に響くような、地鳴りと共に。
『先に埋め込まれた術式』――――――『リバイバルコクーン』が発動した。
―――――――それは。
「『黒い』魔法陣・・・・・。」
蘇摩が呆然と呟いた。
それは『夢』で、諏倭に『封殺結界』を張った時に現れたのと同じ―――――。
『黒い魔法陣』から禍々しい『気』が煙のように吐き出され、それがまるで糸のように、リアンの身体に絡み付いていく。
まさに、『繭』を作るが如くに。
既に意識すらないような、その人は、あっというまに『黒い闇の繭』に包み込まれた。
(『リバイバルコクーン』・・・・『闇への隷属』を対価とする『完全復活魔法』。)
見たことも無ければ、聞いた事も無かった、『魔法』。
だがしかし、解っているのは、『本来使ってはならない禁断の魔法』ということだ。
たまたまリアンは『闇に属する者』――――『魔女』だから良いようなものの。
決して使ってはならない――――――己を『闇』に貶めてまで。
「『龍玉』とやら。」
天照が、ぽつん、と訊ねた。
「少し、問うても良いかな?」
《 何なりと。 この私にお答えできうる事であるならば。 》
天照は、黒々と浮かび上がる『闇の繭』を見遣りながら、言った。
「『時の魔女』―――――リアン、とやらの事、今少し知りたい。」
《 ・・・・・・。 》
「何ゆえに、あの者は『己の存在理由』を否定する?何故あれほどまでに己が『命』を軽んじる?」
《 ・・・その前に、1つ、『国を統べる者』としての貴女様にお尋ね申し上げたい。 》
「?何だ?」
『龍玉』は。
深いため息を小さくついた。
《 この『日本国』、御妹君の月読様の張る結界のおかげで守られておりますな。 》
「如何にもその通り。」
《 では、月読様のお力、今より遙かに強く、それ故に近隣諸国も従属し、この日本国も安泰である、と仮定されよ。 》
「・・・・うむ。」
《 されど月読様が己が見聞を広めんとて、国の『外』に旅をしたいと思し召されたなら―――――あなたは『如何』される? 》
天照の顔が、苦しげに歪められた。蘇摩が驚いたように見遣る。
「・・・・まずは、『説得』する。『旅』を『断念』するように。」
知世姫が『外』に出れば、日本国は怖れるものとて無い、ただの小国となるのだ。
ならば『止める』のが当然のことと。
《 まことに、然り。・・・しかし尚もお聞き入れ無き時は? 》
「数時間とか・・・日帰り程度なら・・・許すやも知れぬ。護衛は山のように付けるであろうが・・・。」
《 ・・・・・・・。 》
天照は、身震いした。
『龍玉』の、この『沈黙』は。
『次』の答を求めている。
「・・・・・・。」
《 ・・・・最悪の場合・・・・・・。 》
「言うな。」
天照は、持てる限りの威厳を込めて遮った。
「それ以上は無用。・・・私は、知世がそこまで『愚か』とは思わぬ。そして・・・『そうしたい』とも思わぬ。」
「お姉様・・・・?」
知世姫が覗き込む。天照は秀麗なその花顔に、苦悩を色濃くにじませていた。
《 ・・・・余計な事をお尋ね申した。どうかご寛恕を賜らん事を。 》
「・・・・。」
今言葉を出せば、『龍玉』を詰ってしまいそうで。天照は沈黙をもって応えとした。
『・・・・「龍玉」・・・・・。』
地の底から響くような『声』に、皆は思わず飛び上がった。
その声の方を見れば、『闇の繭』が解けていく。
(もう『復活』した?!)
あまりにも早い。さすがは禁断の魔法、と妙な感心をしたが。
現れた『その人』を見て、皆は愕然となった。
服が、『黒い』。
それは、あの『封殺結界』を張った時に現れた、『真の姿』。
闇の眷属、時の魔女。
その双眸の煌きに、背筋が凍る思いがする。
『闇への隷属』を対価としたこの復活魔法は、姿までも『闇』にするのか。
その口から紡ぎだされた言葉は。
『「龍玉」。・・・「この者」の「魂の半身」は何処にある?』
《 『魂の半身』ですと・・・・? 》
その質問の意味を理解していない。
皆も、また。
しかし、『時の魔女』の声音に、『焦り』を感じるのは、気のせいではない―――――。
『そうだ。この者、我が「依り代」たるこの者の、「魂の半身」の在り処だ。』
「今の『貴女』は、リアンさんじゃなくて、『時の魔女』ってことですかー?」
ファイの問いかけに、軽く頷いてみせる。
『この依り代の力はあまりにも強く、この私ですら中々「表」に出てくる事は叶わない。』
「じゃあ・・・・リアンさんは・・・・・?」
「貴女の・・・・・後ろって言うか・・・・『内側』に・・・?」
『そうだ。そしてこのままでは・・・・「この者」は「消える」。』
「消えるって?!」
ファイと小狼の叫びは同時だった。
ただでさえ、『影』なのに。
『本当』に『消えて』しまう?!
「これ以上、『消えゆく我』に『想い』をかけるな。・・・いや、『かけてくれるな』。己が苦しむだけぞ。」
あの言葉は――――――――『真実』だったとでもいうのか。
『元来「依り代」というものは、憑依された時点で、元の人格が消滅する。平たく言えば――――――「死ぬ」。』
あっさりと、そう告げて。
『だが「この者」は、類い稀なまでの力を持っていた。』
「『翼を統べる者』――――――でしたよね?」
小狼の声に、頷いてみせて。
『その「チカラ」故に、その「人格」は消える事無く、むしろ私のほうが押さえ込まれる事になった。』
その、類い稀なる『チカラ』。
『時の魔女』ですら押さえ込むほどの。
『だが、この者は「魂の半身」を「何処か」に置いてきている。故に今、私は「表」に出てこれた。』
その声が――――――何処か『哀しそう』なのは。
『だが今、「それ」を取り戻さねばならぬ仕儀となった。・・・覚えは無いか?「龍玉」よ。』
《 ・・・と言われましても・・・。 》
『「お前の知らない時間」を見せれば、判るか?少なくとも、「依り代」になる「以前」の事なのだ。』
《 ・・・・・見ろ、と言われるのか・・・・・・。 》
『お前にとって辛き事とは重々承知。それでも、見つけてもらわねばならぬ。』
深い、深い、そして哀しいため息。『龍玉』はこれで一体何回ため息をついた事だろう。
《 わかり申した・・・・。 》
風が、哀しい哭き声を上げた。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
静かな風がそよぐ草原。
小さな花が咲き乱れ、見ただけでも優しい心になれる、その情景。
見渡すサクラの顔が、思わず綻んだ。
その一角、川岸のほとりに、一人の老人が座っていた。
見れば、うつらうつらと眠っている。
かさり、と。小さな足音がして、老人は目を覚ました。
「・・・おや、どうかされましたかな?」
その声は――――――『龍玉』。
(『龍玉』―――――ナーガの前世の姿。)
天照の感想は、正しい。近づいてきた人は、呼びかけたのだ。
「ナーガ。」
と。
「此処でお昼寝?」
少し小首を傾げるその人――――少女は。
「・・・リアンさん・・・・・。」
まだ幼さの残る、その少女は、ナーガの顔を覗き込む。
「いえ、少し考え事を。・・・・・そうそう、今日で『全て』終わられましたな。」
「うん、終わった。・・・・『全部』。」
ポチャン、と川面に石を投げる。
「本来なら18歳までかかる所を、12歳で修められた・・・・お見事でございます。」
少し振り向いた顔に、微かな笑みが見える。
「『学びの宮』で学問的知識を、『修練の塔』で戦う術を、『祈りの園』で魔法の使い方を。」
それは、謳うように。
「『心技体』全てを修むる事―――『王位継承者』の『道』でございますな。・・・・・・・『姫』。」
「・・・・姫?!」
思わず素っ頓狂な声が出た。慌てて口を押さえた小狼だったが、皆も一様に目を丸くしているのを見て、ほっとする。
まさか、『魔道宮』の『姫』――――――『王位継承者』だったとは。
だが。
「ナーガ。」
ポチャン、と。
川面を見つめるその顔が、年に似合わず哀しそうなのは何故だろうか。
「・・・・・私の・・・・『望み』は叶うだろうか・・・・?」
「・・・・・率直に申し上げて、難しいのは事実ですな。」
「・・・・・『籠の中の鳥』は。」
その目を閉じて。
「出ずるは叶わぬ、か・・・・。」
「・・・・姫・・・・・。」
「解っている・・・・でも・・・・・・・・。」
パサ、と仰向けに倒れて、空を仰ぐ。
「自分の足で歩いて・・・。」
「自分の目で見て・・・・。」
「自分の耳で聞いて・・・。」
「自分の翼で飛んで・・・。」
「自分の身体で風を感じたい・・・・・・。」
両の手を。
空に差し伸べる。
それは―――――――『空』を掴もうとするが如くに。
「・・・・『外』に出たい・・・・・。」
何かを掴もうとして握りしめた手は、一体何を掴んだのか。
未来か。
それとも絶望か。
この『姫』――――――リアンは、おそらく『国外』に出る事を禁じられているのだろう。
『翼を統べる者』は、『魔道宮』を維持するための『チカラ』として、必要なのだろうから。
(先ほど『龍玉』が尋ねたのはこの意味か。)
天照は合点する。しかし、『何故』問うたのかが解らない。
まだ12歳の、この『姫』は。
自分の足で歩いて。
自分の目で見て。
自分の耳で聞いて。
そんな初歩的なことが『許されていない』。
『鏡の虚像』の自分ですら、『自分で』時を刻んできたのに。
小狼は、つい『一緒に行きましょう!』と言いかけて、慌てて口をつぐんだ。
『国』の『外』に出る事は、『国』を滅ぼす事になる。
「とりあえず・・・・。」
身体を起こして。ふわり、と立ち上がる。
「『お願い』はしてみる。――――――『叶う』確率は、とても少ないが・・・・。」
「解りました。微力ながらこのナ−ガ、お口添えをいたしましょう。」
「・・・・・ありがとう。」
その微笑みは。
『12歳』の少女の物としては、まことに似つかわしくないほどの、哀しげなものだった。
《 ――――――時は群雄割拠の時代、地に戦乱が絶える事はありませなんだ。 》
今の『日本国』よりも、もっと苛酷な時代だったのだろう。
《 『魔道宮』のような辺境の小さな都市国家はいつも併呑の危機にさらされて居り申した。 》
その立場を『逆転』させたのは――――――『翼を統べる者』の出現。
《 城下には各国の使者が列を成し、進物は引きもきらず連日のように持ち込まれて。 》
周辺諸国はその『チカラ』を恐れ、共に在ろうと画策した。
あるいは『消す』事も考えたかもしれないが、その報復の大きさが予想の範囲を超えるため、誰も出来なかったのだ。
《 友好条約、服従の宣誓、それこそ遙か彼方の国までもが使者を送ってまいり申した。 》
「・・・・・・・・・・・・。」
そこでふと、『龍玉』は『意識』を変えた――――――何処か、『楽しむ』かのように。
《 もちろん『縁談』も山のように持ち込まれておりましたな。・・・・『日本国』では如何な様で? 》
「縁談・・・・・。」
黒き影は思わず呟いた。
そうだ。
『王の娘』であれば、『政略結婚』は当たり前の事だ。
握りしめた拳に、力が入った事には自分でも気が付かない。
一方天照と知世姫は、思いがけず振られた話題に苦笑を浮かべるしかなかった。
「まぁそれはそれなりに、な・・・・・。」
《 ま、これは余談でござりまするが。 》
軽口の裏に、『何か』を感じた。
「『龍玉』さん・・・・・どうかした?」
ファイの質問に、『龍玉』は、気配を固くした。
「――――――――陛下!!」
それは『龍玉』―――――ナーガの叫びと知る。
ナーガは1人の男に詰め寄っていた。
「何ということをなされます、陛下!!何故このような・・・・・!」
「一切の口出しは無用ぞ、ナーガ。」
冷たく返された言葉。
呼びかけから判断すれば―――――男は、『王』。
「『外』に出るなど、言語道断。我が命に服わぬ者は、罪人も同然。」
「だからと言うて、このような仕打ちはあまりにも酷うございますぞ!!」
大きく振り払った手の先に見えたのは―――――――――――。
「・・・・・な・・・・・・・・?!」
誰もが言葉を失った。
黒き影はその拳に力を込め。
白き魔術師はその蒼き瞳に光るものを浮かばせ。
少年は唇を噛みしめて。
砂漠の姫はその顔を両の手で覆った。
モコナも。
蘇摩も。
ただただ、言葉を失うのみ。
天照は、思った。
『最悪の場合』、もしかしたら、自分も同じ事を。
知世姫は思った。
もし自分の『チカラ』がもっと強大であったら、もしかしたら、自分も、また。
そこに居たのは。
両の手と脚に鎖の縛めをつけられて、絶望の眼差しで見上げる『姫』。
「連れて行け。」
氷のような声が降る。
「なりませんぞ、陛下!!」
間に割って入ったナーガは声を荒げた。
「『光の檻』は、王家の罪人が入る所!一度入れば、死した後か処刑の直前にしか出られぬ所ですぞ!!」
「出てこずとも良い。」
「・・・・・陛下・・・・・?」
「その『チカラ』のみ維持されればそれで良い。『魔道宮』はそれで安泰だ。」
「・・・姫は・・・・陛下の御娘御でございますぞ!!ただ1人の・・・・!」
「『子』が必要なら生せば良い。出来ぬなら、王位を継ぐ者を新たに決めればよい。何の障りも無い。」
思わず絶句して。
1、2歩後退る。
何の感情も見せぬ声が命を発する。
「連れて行け。」
姫の周りに兵士が現れた。それはまるで機械のような、人形のような。
そしてそれらは、無言で姫の腕をつかみ、歩き始めた。
「・・・待って!父上!」
応えは無い。
兵士たちは容赦なく引きずっていく。
思わず小狼は兵士たちの前に立ち塞がった。
「待て!連れて行くな!!」
だが。
――――――それは、『過去の幻影』。
兵士たちは小狼の身体を通り抜け、去っていく。
小狼は手を握り締めた。
(何も・・・何も出来ないなんて・・・・・!)
声が、聞こえてきた。
「―――――ここから出して!!」
泣きながら。
扉を叩き続けて。
「もう、『外』に行きたいなんて言いません!この『魔道宮』の中だけでいいから!!」
打ち付ける拳に、血がにじみ始めていた。
「何処にも・・・何処にも行かないから・・・・王宮の中だけでもいいから・・・・。」
ズルズルと、扉に縋るように崩れ落ちていく。
「・・・・・・ここから・・・・・・出して・・・・・・。」
『最悪の場合』。
『国を統べる者』は、『チカラ』を持つ者を、『幽閉』する。
例えそれが、王位継承者であり、王の娘であったとしても。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
辺りをうかがいながら、ナーガがやってきた。
そっと扉に手を押し当てる。
「・・・・・姫様・・・・聞こえますかな・・・・?」
本来ならば見る事が叶わなかったであろう、扉の中の様子が見える。
扉にもたれ、足を投げ出し、顔を伏せて、『姫』は座っていた。
「・・・ナーガ、もう此処に来てはいけない・・・・。」
「姫、どうぞお心を確かにお持ちください。このナーガ、何としてでも、姫を此処から・・・・。」
「父上は・・・・・『正しい』よ・・・・・。」
思わずナーガは手を浮かせた。
「私が聞き分けなかったからなのだから・・・・『陛下』は正しいよ・・・・。」
「姫、今何と・・・・・?」
「『陛下』は『国の護り手』として、当たり前の事をなさっただけだ・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「ナーガ。」
その両手を凝視する。
縛めの鎖が、じゃらり、と音を立てた。
「私の・・・・『存在理由』は・・・・何処にある・・・・?」
「・・・姫・・・・。」
「『私』が『チカラ』を持たねばならない『理由』なんて・・・・何処にも無い・・・・。」
「しかし、姫のおかげを持って、この『魔道宮』は、他国からの侵略を免れておりますぞ。」
「必要なのは『チカラ』・・・・『私』は必要無い。」
「!それは・・・・!」
「『私』が存在する『必要』は、何処にも無い。生まれてくる必要の無い、『モノ』だ・・・・。」
「姫!お心を確かに・・・・。」
「大丈夫だよ。」
伏せた顔から覗く、口元に浮かぶのは、自嘲の笑み。
「この『光の檻』に入ったら『永続魔法』が掛かる・・・『絶対自分では死ねない』。」
自ら死ぬ事も許されないのか。
「正気を失ったりしない。そんな事になったら、『魔道宮』どころか周辺諸国も皆吹っ飛ぶ。」
それは、その『チカラ』の大きさ故と。
「ナーガ。『国を護る術』を探せ。」
顔を上げて。
頬に掛かる涙を、グイ、と拭った。
「この私とて、何時までも命があるわけでもない。『私が居なく』ても、国体が維持される道を模索せよ。」
「・・・必ず、御心に沿いましょう。そして、必ず『此処』よりお救い申し上げましょう。」
「要らざる配慮は無用。ただ国の行く末のみを慮れ、『大賢者』の二つ名を持つ者よ。」
「・・・・貴女様こそ。」
ナーガは扉に額を押し当てた。
「真の・・・・『国の護り手』で在らせられまする・・・・。」
自分の命運は、如何ともし難いもの。
ならば、多くの民草を思う。
僅か12歳でありながら、その身につけた『帝王学』は、確実に己の物となっている。
だが、『まだ』12歳。
ナーガが去り、一人佇むその頬に、光の筋が流れた。
膝を抱えこんで顔を伏せる。
その肩が小刻みに震えていた。
「生まれてなぞ、来なければ良かった・・・・・・!」
自らの存在意義を。
『父親』に否定された。
ただの『道具』、と。
そして、自らも。
(だからあんなにも自分を『存在しないモノ』と言い張るのか。)
サクラは、そっとその肩に手をやった。
わかっている。
これは、『過去の幻影』だと。
だが、そうしたかった。
そうせずにはおれなかった。
震える肩と、サクラの手が、絶対の時間の隔たりをも感じさせてすり抜ける。
「私たちが付いています。貴女の存在理由は、私たちの『中』に在ります。」
聞こえぬと。
届かぬと。
解っていても、そう告げたかった。
《 ありがとう、砂漠の姫よ。貴女の温かいお志、いつか必ず姫に届くであろう。 》
届いて欲しい、いつか、必ず。
そうでなければ、この『姫』は―――――――。
その『魂』は、決して救われまい。
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