願 い 星 の 「 ユ メ 」




風が、ふっと吹きぬけた。
『――――――――「依り代」が目覚める。』
その顔に、『諦め』の色を浮かべて。
『次に「私」が出てきたら――――――――「覚悟」はしておいてくれ。』
「・・・・・・・・覚悟・・・・・・・。」
それは、『依り代』であるリアン自身の『命』の消失。
何の躊躇いも無く、己の『命』を削り続けてきた、この人は。
一体何の目的で、この『生き様』を選んだのか。
何ゆえに、『あの場所』に『魂の半身』を埋め込んだのか。
謎は解かれないままに、『時』だけが容赦なく流れていく。

ざあっっと。
『白い羽根』が視界を遮った。
はっとしてみれば、黒き闇の色であったその衣は、既に白きに転じて。
独り静かに佇む、その人が居る。
『魂が半分』の状態でありながら、元来消失するはずの『命』を持ち続け。
のみならず、『時の魔女』をも押さえ込みうる、その『チカラ』。
予測すら不可能なまでの、『翼を統べる者』の『チカラ』の大きさ。
そしてその『チカラ』故に、悲惨な運命を辿る事になった、『魔道宮』の『姫』。
ゆっくりと目を開けたその人は、皆が自分を見ているのに、少し驚いたような表情を浮かべた。
『時の魔女』が『表』に出ている時の記憶は、今のリアンには無いようだ。
サクラは、震える足を踏みしめながら、一歩二歩と近づいた。
「・・・・?」
言葉には上せず、その眼差しで行動の意味を問う。
サクラはその両手を握り締め、ようやく言葉を紡いだ。
「・・・・・・私に・・・・・何が出来ますか・・・・?」
キョトン、とした顔が、質問の意味を理解していないことを示している。
サクラは言葉を重ねた。
「私に出来る事、って何ですか?私は何をすればいいんですか?」
「・・・・・サクラ姫・・・・?」
「私は・・・・如何すれば貴女の『想い』に応える事が出来ますか・・・・?」


今にも泣き出しそうなサクラの顔。
じっとその顔を見つめて。
『自分の事』を皆が知ったのだと理解したようだ。
小さな、ため息をついた。
「貴女には、これからとてつもなく大きな『重荷』を背負わせる事になる。」
脳裡に浮かぶのは、眼鏡の奥の優しい瞳。
「あの『不世出の魔術師ウィザード』であった、クロウ=リードですら投げ出したほどの『チカラ』だ。」
それを、その細い肩に。
クロウは――――――『怖い』、と言った。その『チカラ』の大きさが。」
サクラは、ぎゅっと指に力を込めた。
「それでもなお――――――受け継いでもらわなければならない。他の誰にも、これは委ねる事の出来ぬ『モノ』。」
「私に・・・・出来ますか・・・・・・?」
「・・・『やらねばならない』し、『出来る』と信じている。・・・・小狼と、共に、なら。」
『チカラ』を真に発動させる『資質』を切り離して作られた、『鏡の虚像』。
だが。
「もう『虚像』ではない。一個の確たる存在となっている。己を保てば、『実像』に支配される事は無い。」
その視線を小狼に向ける。
「お前が為すべき事はただ1つ。・・・『サクラ姫と共に在る事』。」
「・・・・はい。」
「1つだけ、注意しておく。」
小狼は、少し背筋を正した。
「この諏倭と違い、玖楼国には『封殺結界』は無い。故に外部からの侵入は容易いものとなる。」
確かに『あの時』、遺跡では『蝙蝠の文様』を付けた者たちが襲ってきた。
今度もまた、彼らがやって来る事は想像に難くない。
「『刺客』もだが。」
その目が宿す、『光』が『炎』に見えたのは。


「サクラ姫が『チカラ』を継承すれば、『実像』――――――『シャオラン』が来る。」


それは、己の内に『小狼』を取り込み、本来の姿に戻るために。
切り離された『資質』を取り戻すために。
『鏡の実像』は『鏡の虚像』の許に来ると。
「・・・・・負けません、絶対に。」
小狼は緋炎を握りしめた。
「まず間違いなく『戦闘』になるぞ。」
「覚悟の上です。」
何のために、今まで黒鋼に師事してきたのか。
ただ一点、『己が為すべき事』を為すために。
大切な人を護るために。


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「では次だ。・・・・・黒鋼。」
その名を呼ばれて。眉間に幽かに皺を寄せた。
「『銀竜』を此処へ。」
「・・・・解った。」
歩み寄り、銀竜を差し出す。
夕闇色の瞳は、何を語るのか。
紅玉の瞳は、何を言わんとするのか。
しかし互いに口には何も上せず。
「鞘は払うのか?」
黙って頷く。黒鋼は銀竜を抜刀した。
銀色の刃が鈍く光る。
「『龍玉』。」
《 御意。 》
すう、と光が近づく。『銀竜』は黒鋼の手を離れて宙に浮き、えもいわれぬ光を放つ。
一瞬眩いばかりの光が満ち。
それが消えた時、皆の目に映ったのは。
「・・・・すごい・・・・・・。」
感極まったような小狼の呟き。
『銀竜』は、神々しいまでの光を放って、そこに在った。
茫洋として見つめ、その柄を握り締める。
ドクン、と脈打つような『チカラ』を感じて、黒鋼は目を見開いた。
《 これで『我』と『銀竜』は『一つ』――――『一心同体』となった。 》
見れば、柄の先端、龍の口を模った中に、大きい水晶玉がはめ込まれている。
後から入れたとは到底思えない。どう考えても無理な感じだ。
《 我の『波長』とお前の『波長』が合致した時、『如何なる結界をも切り裂くチカラ』となる。 》
「・・・・『波長』・・・・・?」
《 簡単に言えば、『気』のチカラ、だ。 》
「・・・・・・・・・・・・・。」
《 言葉で聞いても解るまい。実際に体験して初めて理解は可能となるであろう。 》


それは、『弟子』が求めようとて得られなかった『チカラ』。
かつて父と母が護ろうとした『チカラ』。
その『チカラ』を、今、己が手にして。
黒鋼は静かに『銀竜』を鞘に収めた。


「これで、『諏倭』で為すべき事は全て終わった。・・・次に駒を進めねばならぬ。」
リアンの言葉に、皆は緊張の糸をぴん、と張った。
『次』の『駒』。
『次』に『赴く』所は。


――――――――『チカラ』が封印された場所。
すなわち、『玖楼国』。


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「我らはこれより次なる目的地、『玖楼国の遺跡』に向かう。」
天照に向かって言う。
「この『封殺結界』は、『出る者』は拒まぬ。自由に『外』に出られるが良い。」
この地より去れ、と。
そして『羽根』を1枚、手渡した。
「これが、結界の外まであなた方の水先案内を務める。」
「わかった。・・・感謝する。」
2人の『国の護り手』は、何を想うのか。
「・・・・・せめて、見送らせてはくれぬか?」
「・・・・・ご随意に。」
「では今ひとつ。」
天照は、リアンにはっきりと向き直った。
「こなたに、『頼み』がある。」
「『頼み』?」
「そうだ。」
叶わぬ『夢』を見ることは、許されない事なのだろうか。


「『全て』が終わったなら、この『日本国』、私の許に来てはくれぬか?」


思いがけない申し出に、皆は驚いて天照の顔を見た。
その秀麗な顔に、微かな笑みすら浮かべて、『日本国の帝』は言葉を継いだ。
「こなたもまた『国を統べる者』の修養を修めた者。『帝王学』を知る者を傍に置きたいと、かねてより願っていた。」
「・・・・・・。」
「それに・・・たとえ『僅か』な時間でも良い。・・・『友』になってはくれぬだろうか?」
その『立場』故、『友』と呼べる存在を得る事はなかったのだと知る。
その心の内に、一抹の寂しさを内包していたと。
リアンは静かに目を閉じた。
「・・・確たる約束はいたしかねる。・・・・だが。」
「だが?」
「『全ての決着』をつけて、まだ『命』があったなら―――――御身の許に罷り越そう。・・・・『友』として。」
「無理な願い、聞き届けてくれて嬉しいぞ。」
天照は、微笑みを浮かべた。リアンはしかし微かに首を横に振る。
そして呟いた。
「サクラ姫のおかげだ。」
「え?」
サクラには何の事か解らない。
「貴女の持つ資質――――『人を変えるチカラ』のおかげで、私も『変わった』。」
サクラを見遣るその表情は――――――かつて、あの国で見た、あの表情。
「『人に対する感情』など、どこかに打ち捨てたつもりだった。」
微かなその微笑みに、『哀しさ』を感じるのは。
「『心』を取り戻した事を、後悔はしない。優しい想い出を刻む事が出来た。」
自分を苦しめる、と解っていても。
「・・・『最期』に『人間』に戻れたような・・・・そんな気がする。・・・・ありがとう、サクラ姫。」
「・・・『最期』だなんて・・・・・・。」

言わないで。
これからもずっと一緒に居て。

『叶わぬ』と解っていても、なお願ってしまうのは、愚かなのだろうか。
そんな事は、決してない。
『人間』であれば、当然のこと。
共に旅をしてきた『仲間』であれば、当たり前のこと。
涙を浮かべて俯いてしまったサクラを、リアンはそっと抱き締めた。
その暖かなぬくもりが、哀しい。
「・・・私が刻めなかった『時間』を、貴女が心穏やかに刻めるように。」
すべての自由を奪われた空白の『時』。
『人ならぬモノ』に『変えられ』て、永劫の苦しみを負わされる『今』。
せめて、この心優しき砂漠の姫には、安らかな『時』が流れん事を、と。
それは、『願い』。
自分には『出来なかった』事を。
願い続ければ―――――――いつかは叶うのだろうか?
たとえそれが、叶わぬ夢であったとしても?


慈しみと、優しさと。
この人は。
『他人』には、どうしてこれほどまでに『優しく』なれるのか。
『自分』には―――――――。
蘇摩は頬に流れるものを、止める事が出来なかった。
重く、暗い物が皆の心に圧し掛かる。


「黒鋼。」
主の声に、意識を戻す。振り向けば、変わらぬ笑みを湛えた主の姿が、そこに。
「何だ、知世姫。」
「貴方に『命令』を与えましょう。」
「『命令』?」
「ええ。」
何を言い出すのかと訝しげな忍者に、月読の姫は口元に手を遣って笑みを零した。
「そんなに警戒せずともよろしいのですわ。・・・・『簡単』な事と、『難しい』事の2つですから。」
「訳わかんねぇぞ?」
「『簡単』な事は――――――『必ず私の元に帰っておいでなさい』。」
「・・・・・・・。」
「よろしいですわね?」
「元よりそのつもりだ。俺の旅は『日本国に帰る』ために続けているんだからな。」
ニヤリ、と。
口元に浮かばせた『笑み』は、『絶対の自信』と『信念』。
「で?『難しい』事ってなんだよ?」
「・・・・・。」
手をパタパタと振り、手招きをする。眉間に皺を寄せて歩み寄った忍者は、ひょい、と身体をかがめた。
知世姫はその耳元に、何事か耳打ちをする。
「―――――――――っ!!」
ツッコミを返す事も忘れて2、3歩後退った忍者を見て、知世姫は、楽しげにコロコロと笑った。
「?」
「えー?何々ー?」
「・・・関係ねぇだろうがぁっ、てめぇらにゃあ!!」
があぁぁっ!!と吠える。心なしか、顔が赤いような気さえして。
それを見て、いかにも楽しそうに、知世姫は追い討ちをかける。
「解っていますか?黒鋼、これは『命令』ですのよ?」
「・・・あ゛――――っくそっ!『努力』はするよ!!」
頭をガシガシと掻いて。皆と視線を合わさぬようにわざと外している。
それは『照れて』いるようで。


「ではソエル、移動を頼む。方向の補助はする。」
皆はかおを引き締めた。
玖楼国へ。
全ての始まりへ。
モコナは光り輝き、その背なに大きく翼を広げた。
玖楼国に向かって。
次元移動の魔法陣は、諏倭の地に展開した。
光が皆を包んでいく。
サクラは、そっとリアンの袖をつかんだ。
「?」
訝しげに見る視線を受け流して、その腕にしがみつく。
来たるべき『大きなチカラ』への不安と。
『この人を失ってしまう』事への不安と。
本当なら。
その手を取って、優しく微笑んで安心させてやるのが筋であろうが。
リアンはただ目を閉じて顔を伏せただけだった。


自分の命が『消える』という事実は変えられない。
それは自分が『選んだ』道。
誰のせいでもなく、自分の責任で。
『残った命火の大きさ』は、誰よりも自分がよく知っているのだから。


光は『旅の仲間』を包み込み、魔法陣と共に消えた。


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「・・・我らも城に戻ろう。」
天照が促す。
先ほど貰った『羽根』が幽かな光を帯びて舞い上がり、フワフワと漂い始めた。
それに尾いて歩みを進める。
「知世。」
「何ですの?お姉さま。」
「もし・・・どうしてもそなたを幽閉しなくてはならぬ事態に陥ったなら・・・・。」
天照は言葉を切り、知世姫は身体を固くした。
「私も城から1歩も出ぬぞ。ずっとそなたと一緒に居る。・・・・・絶対に、『独り』にはしない。」
「・・・・・・・。」
言葉もなく。
知世姫は、頭を下げた。
「ありがとうございます、お姉さま・・・・。」
その目に浮かんだ煌きの粒を、気取られないように。


「それはそうと、黒鋼に何と命じたのだ?」
「私も知りとうございます、姫様。」
天照と蘇摩の言葉に、涙を振り払った知世姫はにっこりと答えた。
「黒鋼には、『難問』かもしれませんわ〜〜。」
「だから何なのだ?」
その時の知世姫の微笑みは。
(まるで『悪企み』・・・・・?)
後になって『魔術師ウィザードは皆「黒い」』という話題になった時、ああこの事か、と蘇摩が合点したことには。
知世姫は、笑いながら言った。


「『護ると決めた人』の『手を取って離さず』に、『一緒に』帰ってきなさい、と命じましたの。」


天照と蘇摩は、顔を見合わせて。
「・・・・これはまた、黒鋼には難しそうだな。」
「・・・・かなり難しいと思います。」
「・・・・あの黒鋼が、口説き落とせると思うか?」
「・・・・・・・・さあ・・・・・・・。」
無理難題を押し付けられた忍者に、蘇摩は同情を禁じえなかった。




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意外に短くて驚いた方もおられるのではないかと・・・・。^^;
もうざくざく切っていくことにしました。
切る前で既に6分割されていたんですが、この調子では最高記録を更新しそうです。
二桁いく・・・だろうな・・・・。(ーー;)

思いっきり天照が出張っています。
好きですわ〜〜〜この方。すごく使いやすい。
かなりの面においてリアンとかぶるせいもあるかもしれません。
男言葉だし、『国の護り手』だし、戦闘能力高いし。
外伝書きたーーい。(おい)

裏話、小ネタはこちらから。

               作者・シュウ    2006.07.13UP

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