遺 跡 の 「 ユ メ 」




次元移動から降り立ったとき。
感じたのは『懐かしさ』だった。
足元から伝わる、砂の感触。
空の色。
風の匂い。
微かに聞こえる『音』。
「・・・・帰ってきた・・・・。」
小狼は思わず呟いた。
玖楼国へ。
全ての始まりへ。
あの日あの時、遺跡の地下でサクラの羽が飛び散ってから、一体どれほどの時が流れたのか。
「・・・小狼君・・・・。」
躊躇いがちなサクラの声に、小狼は顔を上げた。
「如何しましたか?姫。」
「小狼君・・・玖楼国に住んでいたの・・・・・?」
小狼の顔が哀しげに歪んだ。
『対価』として差し出した『関係性』。
サクラには、『玖楼国』での小狼の記憶は、無い。
阪神共和国で目覚めた時からしか――――――。
「・・・はい。遺跡の地下で姫の『キオク』が飛び散って、神官様に次元の魔女の元に送っていただいたんです。」
「・・・そうだったの・・・・。」
自分の知らない『キオク』。サクラは何かを言いかけて。
それは彼方からの声に遮られた。


「―――――――サクラ!!」


声と共に駆け寄ってくる、その人は。
「桃矢兄様!!」
サクラは兄王の胸に飛び込んだ。
「よく無事で・・・・・!」
しっかりとその腕に抱きしめた王は、言葉にならない風で。
無理もない。
あの時のあの状況下で、次元の魔女の元に送るより他にサクラを助ける手段はなかった。
そうと解っていても。
如何に普段は軽口を叩いていたとしても。
唯一の肉親、大切な妹。
一寸先も判らぬ旅に、送り出さざるを得なかった。
『残された者』の苦悩は、推し量って余り有る。
「もうすっかりいいんだな?」
「はい。『全部』の記憶は戻りました。」
正確には、『全部』ではないが。
「もう何処にも行かないな?」
その髪を、その頬を撫でながら、問う声は、切なさに満ちて。
二度と離したくない。
自分の目の届かない場所になど、遣りたくない。
その想いが痛いほど解る。
だが。


「まだ・・・『やらなければならない事』があるの。あの遺跡の地下に――――――。」
すぐそこに見える、あの遺跡に目を遣って。
「大きな『チカラ』があるの。私がそれを受け継がなければならないの。」
「?どういうことだ?」
桃矢王には、何の事か理解が出来ない。それと見て、今まで後ろに居た雪兎神官が進み出た。
「姫、お帰りなさい。」
「ただいま、雪兎さん。」
かつて阪神共和国で見たのと同じ『顔』をした神官は、優しげな微笑みをサクラに向けた。
「あの遺跡の地下に、『チカラ』があるんですね?」
「えぇ。」
「そしてそれを姫が受け継がねばならない、と。」
サクラはこっくりと頷いた。雪兎はおや、と目を見張る。
今まで自分が知っていた『頷き』とは、何処か違う。
そこには、『決意』と『信念』が垣間見えて。
「・・・・・『旅』でずいぶん成長されましたね、姫。」
「え?」
にこにこと。それ以上は言葉には上せないが。
仏頂面になった桃矢王に、その柔和な笑みを向けた。
「姫は思っていたよりもずっと『大人』に成長されたようですよ。王。」
「・・・敬語。」
小さくツッコミを入れて。桃矢王は妹姫をまじまじと見詰めた。
その面差しに、確かに成長の後を見る。
その目に宿る光は、確固たる信念をうかがわせて。
「・・・言っても肯かないんだろう?」
コクリ、と頷く。その頑なまでの想いに、兄王はため息を1つ、ついた。
「・・・そちらの方々は。」
気持ちを切り替えるかのように顔を上げて問う。見たこともない風俗の同行者たち。
「こちらが『日本国』の黒鋼さん。こちらは『セレス国』のファイさんよ、兄様。」
サクラの説明に、ファイがどうも〜〜、と片手を上げて笑いかける。
桃矢王はすっと目を細めた。
黒ずくめの大男と、見るからに暑そうな服を纏った金髪の男。
しかしその『種類』こそ違え、彼らの持つ『チカラ』の大きさは、何とはなしに感じ取れた。
そして。
こちらを全く見ることもなく、ただ遺跡の方を見遣る人。
この『心の騒ぎ方』は、『キケンなモノ』や『異質なモノ』に対する警報と同種のものだ。
何故そう思えるのか――――――相手は1人の『女性』なのに。
少し難しい顔をしてじっと見つめる視線に気付いたのか、リアンはふと振り向いた。
「この方がリアンさん。・・・・『時の魔女』、って言ったら解る?雪兎さん?」
「・・・・・『時の魔女』・・・・。」
大きくその目を見開いて。
その反応は、『知っている』ことを如実に示している。
「・・・まさか実際に会う事になるとは思ってもみませんでした。」
雪兎神官は、つ、と膝を付いた。
「雪?!」
桃矢王は驚きの声を上げた。自分とサクラの次に高位の彼が、自ら膝を折るなどとは。
(誰なんだ、この女は?!)
桃矢王のこの反応が、かつての自分たちを見るようで。
思わずファイも黒鋼も苦笑いをした。
この人を。
信じる事が出来なかった日々。
それが今では、誰よりも信じるに足る仲間の一人となっている。
それは――――――とても不思議なこと。
まるで、最初から旅を共にしてきたかのような。
「我々はあの遺跡に行く。王と神官のお2人には此処にてお別れいたしたい。」
想いを断ち切るかのような、無機質な声がかけられる。
王はぴく、と眉を顰めた。
「どういうことだ?・・遺跡には、サクラも行くのだろう?」
「そうだ。サクラ姫に『チカラ』を継承してもらわねばならぬ。」
「ならば、俺も行く。」
それは、まるでサクラを庇うかのように立って。
「俺はこの玖楼国の王。この国で起こる事の全てを知る義務があり、権利がある。」
「危険な事と、ご承知おかれるか。」
「元よりそのつもりだ。俺はサクラを護らなければならん。」
かつて異様な兵たちが襲ってきた事を思い出す。
またあの兵たちが襲って来たら?
あの時のように、サクラのキオクが飛び散ってしまったら?
(絶対に、二度とそんな事にはさせない。)
固く心に誓って。
微笑みながら見る雪兎神官の目は、(言い出したら肯きませんよ。)と言っている。
少し首を振って。小さく言葉を紡いだ。
「ご随意に。」
と。


「『彼』は・・・何時来るでしょうか?」
遺跡に向かって歩きながら、小狼はそっと問いかけた。
『彼』。
すなわち『鏡の実像』。
その歩みを止めることなく、答は滑るように流れ出る。
「サクラ姫が『チカラ』を継承し終わってからだろう。・・・その方が効率がよい。」
それは誰でも思う事。
労せずして、正規の形で受け継がれた『チカラ』を手中に収める事が出来るとすれば、これほど美味しい話はない。
風が、ふっとやんだ。
「・・・砂嵐が消えた?!」
ほとんど毎日のように遺跡を包んでいた砂嵐が、突如として『消えた』。
続いて、足元の砂が、何か硬質な物に変化する。
「?!」
「・・・・歩きやすい・・・・?」
それは、まるで。
「遺跡が・・・・招いている・・・・?」
何故ならば、『変化した砂』はまるで1本の道の様にまっすぐ遺跡へと通じていたので。
「・・・・・・・・・・。」
無言で歩みを進める、『招かれた者』と、その『護り手』達。
遺跡の『入り口』には誰一人とて居ない。
小狼は、『緋炎』を、黒鋼は『銀竜』を、ぐっと握りしめた。
此処で襲ってきた者たちには、『蝙蝠』の紋様があったという。
それは、母を殺した者と同じ。
それは――――――――母の仇。
諏倭を滅ぼし、父を食い殺した魔物の召喚をセレスの王に依頼した者。
かつての、『時の魔女』の『選ばれなかった弟子』。
『彼方より旅を見続けてきた者』。
全てのカケラが集まって、照合されて導き出された真実。
彼方の次元から見つめる彼―――――飛王=リードは、何を想うのか。
全てを知りながら見つめ続ける彼女――――――次元の魔女・侑子は、何を願うのか。


遺跡の中に、一同は足を踏み入れた。


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らせん状になった通路を下っていく。
「やっぱり『記憶の本』で見たときと少し違うねえ〜〜。」
ファイの言うとおり、あの時のように通路の幅がランダムに変化してはいない。
一定の幅を保って続いている。
「あ、このベンチ・・・・。」
やたら大きかったベンチは、やはり普通サイズで。
此処に2人で座った時が、まるで昨日の事のようにさえ思えるのに。
―――――――サクラには、その記憶がない。
一緒に座っているはずの『自分の姿』が。
思わず顔を伏せてしまった小狼の、その肩を。
軽く叩いて、リアンは前に出た。
「・・・・・・・・・。」
その肩に温かさを感じながら、小狼は歩みを止める。
「ここって・・・・。」
紋章のような物が砕けて黒い空間が開いた場所。
(確かその下で。)
共に降り立った黒鋼が見たのは、氷のような目をしたもう1人の『小狼』だった。
同じような事が起こるのだろうか。
しかし今度は床は砕けない。
リアンがすっと腕を払うと、床全体が、いやその紋章が、厳かとも言える光を放ち始めた。
「!!」
「サクラ姫、こちらへ。」
その紋章の中央に立ち、手を差し伸べる。
心を決めて。
サクラはリアンの元へ歩みを進めた。
「サクラ!!」
思わず桃矢王が叫ぶ。少し振り返ったサクラの顔は、しかし決意に満ちて。
さくらがリアンの手に、自分の手を重ねた、その瞬間!!

鈍い地響きがして。
紋章は扉となり、ゆっくりと開いていく。
それはかつて、小狼が見たのと同じように。
眩い光に、目を開けていられなくなる。
「・・・サクラ!」
一歩を踏み出そうとする桃矢王を雪兎神官が止める。
「雪!何故止める!!」
「今は駄目です、王!今我々に手出しは出来ません!!」
「だが、サクラが!!」
「姫なら大丈夫です!あの方が・・・『時の魔女』が一緒だから!!」
ぐっと唇を噛みしめる。
「この下には、『あの時』俺も行きました。光が収まったらご案内します。」
小狼の申し出に、桃矢王は不承不承に頷く。
その仕草に、雪兎神官はくっと喉の奥で声を立てた。
「雪、何がおかしい。」
憮然としてツッコミを入れる王に、心のざわめきを見る。
ただ一人の大切な妹を、目の前で未知の場所に送り込まねばならない、その心を。


光が収まった時、既にサクラとリアンの姿は無かった。
「こちらです。」
小狼は覚えている限りの記憶を頼りに、桃矢王を案内した。
らせん状に壁を這う階段を下りていく。
「この下には何があるの?小狼君?」
ファイは、『記憶の本』での暗闇の底を見ていない。
「何だか広いホールのような所があって、壁の高い所にさっきと同じ紋章があります。」
それは、黒鋼が見たものとは違う。
(あれは『姫の記憶』だから『違う』ということか?)
凍れる眼差しが、どうにも心から離れない。
「その壁の紋章に、サクラが捉われそうになってたんです。」
「それが『危険な状態』だったって事だよね?」


『シールド』は、本来なら『サクラ』が20歳になった時、自動的に解除され、『チカラ』を伝えるはずだった。
しかし、『彼』の干渉により、『時』至らぬまま、『サクラ』は『チカラ』と接触し、逆に取り込まれそうになった。
それはとても『危険』な事。
幸いにして、小狼がそれを防ぐ形になった。
『遺跡の紋章』から『サクラ』を引き剥がしたおかげで、最悪の事態は免れた。
だが、その代わりに『キオクの羽』が飛び散り、お前達は『旅』をしなければならなくなった。



その紋章こそが、全ての始まりといえるのではないのだろうか。
すなわち、封印された『チカラ』。
「でも、『封印されたチカラ』って、一体何なんだろう?」
それは小狼も疑問に思っていたこと。
『不世出の魔術師ウィザード』と、リアンをして掛け値なしに賞賛させるほどの魔力を持つクロウ=リードですら投げ出した『チカラ』。
本当にサクラに継承させる事が出来るのか?
サクラは受け止めきれるのか?
「大丈夫だよ。」
ぽん、とその肩を叩いて。
ファイは小狼ににっこりと微笑みかけた。
「小狼君が一緒にいれば大丈夫だ、ってリアンさん言ってたでしょう?あの言葉は『真実』だよ。」
「ファイさん・・・・。」
そうだ、と小狼は思いなおした。
あの人は。
リアンは『自分』に対して、『嘘』を言った事は無い。
ぼかした表現とかは使ってはいたが、虚言を弄したことはない。
それは、あの人の『真実』。
それを信じずして、どうしろというのか。
小狼は首を振った。
迷ってはいけない。
信じるものだけを一心に見る。
ただひたすらに。
未来を信じて。


一同は、最下層らしき所に降り立った。
「此処の壁の上のほうに――――――――。」
紋章が、と言いかけて。
小狼は息を呑んだ。
見上げた皆も、また、同様に。
桃矢王はたまらずに叫んだ。


「―――――――サクラ――――――ッ!!」




第6章−1に戻ります 第6章ー3へ 『時の翼』目次へ




やたらめったらと桃矢王が目立っている気がするのは・・・・・。
あながち錯覚ではないと思いつつ。^^;
これでもかなり削ったんですが。桃矢王の描写部分。
書いてると止まらなくなるんですな、この方は。
書いてて面白いって言う点においては、黒鋼とタメを張れるかと。(何故)
桃矢王の性格は、『CCさくら』の桃矢兄さんそのままという感じで書いています。
えぇお兄さんですがな〜〜〜桃矢君。
さくらの事が大事で大事でたまらないってのが丸わかりな所とか。(笑)

『サクサクザクザク切って』UPする、といった割には1週間かかってる・・・・。
もっとスピード上げねば。アセアセ。

裏話、小ネタはこちらから。

               作者・シュウ    2006.07.19UP

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