「 心 」 を 繋 ぐ 「 ユ メ 」




白き光に満たされて。
もはや輪郭すらもわからない。
光の中に『溶けて』しまったかのような、『小狼』と『シャオラン』。
リアンは『再構築する』と言った。
それはどういう意味なのか?
その意味を知るのは―――――――ファイと、蝙蝠の文様を持つ『小狼』だけ。
(どうか『心』が生まれていますように。)
他から入れられた物ではなく、自分自身の中から生まれ出た、新たなるモノ。
それがなければ、『再構築』は不可能。
『時』を『巻き戻す』。
それは。
「『鏡の虚像』を、一旦戻すんだ・・・・『虚像』が作られた『最初』に・・・。」
呟くようにファイが語る。
そんな事が可能なのか。
いやしかし。
『翼を統べる者』の力があれば。
『時の魔女』であるならば。
皆の目の前に、『緋炎』が姿を現した。
『外部の異質なもの』として、『小狼』から排除されたのだろう。
黒鋼は『緋炎』を手に取った。
主を失った刀は、今はただその復活をこそ願うのか。
微かな呪文の詠唱が耳を打つ。
同じ魔法とはいえ、2つの同時発動。
かなりの魔力を消費するであろう事は容易に想像がつく。


「・・・時を告げる者、時を統べる者。我汝に願い奉りて、ここに『時』の歯車を逆しまに回せるものなり・・・・。」


すい、と伸ばした両の手の。
その指先に魔法陣が二つ、浮かび上がった。
そしてそれはふわりと空をすべり、小狼たちを包む光の上にその位置を定める。
足元にも、魔法陣。
頭上にも、魔法陣。
さらに。
リアンも含む大きな空間に、もう1つ、魔法陣が浮かび上がった。
それと同時に、魔力が急速に練り上げられる。


「翔魔・時空転相陣!・・・『クロノス・リターン』!!」


凄まじい魔力の嵐が吹き荒れた。
かろうじて見遣れば、それぞれの頭上と足元に展開した魔法陣が急激に回転を始めている。
しかもそれは、互いに『逆回転』。
光は『捻りあげられ』て。
その光芒は、あたり一面を覆い尽くした。


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目の前を。
たくさんのシャボン玉が通り過ぎた。
(何故こんな所に『シャボン玉』?)
その疑問は、皆の心に。
そのうちの1つが、ふわり、とモコナの目の前に近づいた。
「・・・・あ!!」
大声を上げたモコナを、何事かという目で皆が見る。
モコナは目の前のシャボン玉に手を伸ばして――――――――。


泣いていた。


「これ・・・『小狼』の『キオク』・・・・・。」


「何?!」
よく見れば。
1つ1つに懐かしい過去が映っている。
「これ・・・ジェイド国だね・・・。」
カイル医師を問い詰めた時の情景が。
「これは・・・ピッフルワールド・・・。」
サクラに『ドラゴンフライ』の操縦を教えている。
「・・・こっちは・・・桜都国か・・・。」
毎日のように己を鍛えるべく、鍛錬に励んだ日々。
『緋炎』を鞘から払えるように。
正しく『斬るべきものだけを斬れる』ようになる為に。
「こっちは阪神共和国だよ・・・小狼、走ってる・・・。」
連れ去られたモコナと正義を探して、阪神城に向かって走っている。


どれもこれも。
『仲間』として、培ってきた、『キオク』。


光の中の『小狼』は、その姿すら確認する事は出来ない。
本当に無いのか、『彼自身の心』が。
『キオク』のシャボン玉の中の小狼は、どれも皆一途で、一生懸命で―――――――。
そして、だんだんと明るい笑顔になっていく。
あれは、『ユメ』だったとでもいうのか。
(違う。)
『小狼』は、確かに傍に『存在』していた。
「小僧!思い出せ!!」
黒鋼は叫んだ。
「お前は確かに俺達と一緒に『存在していた』んだ!その事実は『絶対』なんだ!」
光は、ただただ白く。
「こいつもな、お前達の為に『変わった』んだよ!お前と姫が『笑って』暮らせるようにな!」
聞こえないのか。
もはや、『小狼』には。
「お前はもう『鏡の虚像』じゃねぇ!自分の足で歩いてきただろうが!!」
それは、共に歩んできた『仲間』なればこそ。
大切な、『仲間』。
「お前は思い出せるはずだ!お前の『心』は、お前の『中』にある!!」
蝙蝠の文様を身に纏った『小狼』もまた、声を上げた。


「この世界のさくらを大切に想ってきたのは、俺の心じゃない、お前自身の心だろう!!」


必ず、ある。
『彼自身の心』が。
信じる事がいけないなどとは、誰も言うまい。
信じなければ。
余人はさておき、自分が信じてやらなければ。
『鏡の虚像』であった『小狼』に『救い』は無い。
「お前に心が戻る、その僅かな可能性にかけて、自分の目を犠牲にした魔術師ウィザードの『心』を無にするな!!」
「どういう事だ?!」
驚いて問う黒鋼に、蝙蝠の文様の『小狼』は静かに語った。
「奪われた目と共に、この『心』をもう一度送り込んだんだ・・・『心』が戻るかもしれない、無きに等しい僅かな可能性の為に。」
「お前・・・・・。」
眉間の皺を増やして見遣れば、ばれちゃったー、とでも言わんばかりの顔を向けてくる。
「ファイさん・・・どうして・・・・。」
「俺だって『小狼』君、失いたくないもの・・・『仲間』だし、ね。」
ふふっと。
微かに笑う。
しかし、それは『本音』の笑い。
それだけでも、『彼』自身にとっては進歩なのだろうか。


魔法陣に挟まれるような白い光に、変化が現れた。
辺りを漂っていた『キオク』のシャボン玉が、急速に方向を変え、光に吸い込まれていく。
眩いばかりの光の中に、徐々に輪郭らしきものが浮かび上がってくる。
手が―――――――。
足が―――――――。
身体が――――――。
頭が―――――――。
やがてそれは、はっきりと見分けられるようになってきた。
栗色の髪。
首から提げたゴーグル。
懐かしさすら感じさせる、その姿。
それは、漂うように宙に浮いて。


『小狼』の姿が、完全に現実化した。


「・・・・・・・・・・・・。」
もう1つの『光』を見る。
『シャオラン』であった光は、何の変化も見せていない。
「『彼』も・・・俺と同じように『封印』されていました。」
蝙蝠の文様を持つ『小狼』が呟く。
「ただいたずらに時を流した者と、己の足で時を刻んだ者の『差』だ。」
リアンもまた、顔を伏せて。
かつて自分も、立場こそ違え、『時』と『自由』を封印された。
『シャオラン』が悪いわけではない。
彼は『魂の入れ物』であったに過ぎない。
だが。
『シャオラン』もまた、『小狼』のように、時を過ごしていたならば。


自分の足で歩いて。
自分の手で物を掴んで。
自分の目で見て。
自分の耳で聞いて。
自分の口で言葉を紡いで。
自分の意思で『未来』を見据えたならば。


「俺たちは、『兄弟』になれたかも・・・・。」


白い光が急速に衰え、『シャオラン』の魔法陣が消えていく。
そして光の中から、蛍火が1つ、ふわりと浮かび上がった。


「彷徨える者よ、汝の在るべき世界に赴くがいい。闇を求むるなかれ。光の園に安らぎをこそ求めよ。」


それは、『シャオラン』の中に封じられていた『魂』。
長の年月を経て、ようやく安息の時を得た『魂』は、『たま送り』の呪文に乗って、静かに虚空に消えてゆく。
見送る『蝙蝠の文様を持つ小狼』の目に、微かな煌きが浮かんだ。
「『彼』は・・・・・幾つまで・・・・?」
「まだ10歳にもならなかったはずだ。」
最愛の息子が、両の手で数えられるほどの歳月しか生きられず、為す術も無く『消えて』いくのを目の当たりにしたならば。
「『闇の声』を聞いてしまうのかも知れぬな・・・・。」
父親たる『彼』もまた。
心優しき者であったのかもしれない――――――。
しかし。
「理由はどうあれ、己の『為した事』への責任は逃れる事は出来ない。」
その手を血に染めた事を。
『命』を奪った事を。
「『対価』はきっちりと払ってもらう。これだけは、『譲れない』。」
「はい。」
己の胸元に印された、蝙蝠の文様に手を遣る。
「俺も、『為すべき事』をします。」
そう言って。
今や完全に『再構築』された『小狼』を見る。
姿は完全に復活したが。
その目は今なお閉ざされたまま。
「この『心』は、やはり戻せませんか?」
その問いへは、沈黙を持って応えとする。
『鏡の実像』は、『かつて虚像であったもの』に改めて向き合った。


汝、己の姿を分けし者よ。
皆の願い、皆の心を、その全てをもって聞け。
その目を開き、全てを知り、全てを背負って、なお前を向いて歩め。
お前を必要とし、受け入れてくれる、『仲間』と共に。


念のチカラが糸のように『小狼』に絡み付いていく。
しかしそれは、攻撃的なものではなく、何処か慈しむような、優しい『糸』。
それは――――――――願い。


だが、空間に浮遊する『小狼』は、その目を開かない。


「サクラ姫、彼の『名前』を呼んであげてください。」
雪兎神官の言葉は、何処か唐突で。
サクラも小首を傾げた。
「名前?」
「はい。・・『名前』は、『心』を生ましめ、繋ぐモノです。今の『彼』に『名前』で呼びかけてあげてください。」
「・・・・・・。」
雪兎神官は、サクラの肩に手を置いた。
「これは、サクラ姫、貴女にしか出来ない事なんです。」
黒鋼も、その口元に微かな笑みを浮かばせて。
「姫、小僧の『名』を呼んでやれ。」
「・・・黒鋼さん・・・。」
「姫にとって、小僧は『大切な人』だろう?」
ファイも、サクラを見上げて微笑む。
「サクラちゃん、お願い。小狼君が帰る場所は、サクラちゃんの所しかないんだよ。」
「ファイさん・・・。」
「サクラちゃん、自分を信じて。」
キュ、とその手を握り返す、その傍でモコナはピョンピョンと跳ね回る。
「モコナ、応援してる!『絶対、大丈夫』だよ!!」
「モコちゃん・・・。」
「『無敵の呪文』だよ!サクラ!!」
皆を見渡して。
モコナが。
ファイが。
雪兎神官が。
桃矢王が、少し苦虫をつぶしたような顔で、しかしはっきりと。
そして黒鋼が頷くのを見て。
サクラの目に、決意の色が宿る。
「・・・わかりました!」
膝に乗せていたファイを、背を支えて座らせて。
サクラは立ち上がった。


自分に出来る事。


自分にしか出来ない事。


自分が『やる』と決めた事。


サクラは大きく息を吸い込んだ。
「―――――小狼君!!」
「もっと大きく!」
雪兎神官が指示を出す。
振り向いて、頷いて。
「小狼君!!」
「もっと!もっと大きく!」


「小狼君―――――!!」


************************************************


ふわふわと。
漂っている、と思った。
(水の中?)
それにしてはちゃんと呼吸が出来ている。
周りは、真っ暗な『闇』。
誰の声も聞こえない。
誰の姿も見えない。
自分は、1人。
(俺は、死んだのか。)
自分は『何故』死んだのだろう。
(俺は何をしていた?)
記憶の糸を辿る。
確か。
『世界を変えるチカラ』をサクラが継承して。
『あの時』現れたのと同じ、蝙蝠の文様をつけた兵士たちが襲ってきた―――――――。
(―――――――――ッ!!)
弾ける様に。
キオクの現実が駆け巡る。
そこには、ファイの『目』を口に含み、己の目を蒼くして、ファイの『魔法』を使う自分の姿が。


「・・・俺は・・・・俺は・・・・なんという事を・・・・・。」


たとえその『身体』は再構築されようとも。
己の『為した現実』に変わりはない。
(ファイさんは、無事なのか?)
生きたまま片目を抉られたのだ。『無事』では済むまい。
(サクラは?黒鋼さんは?王様は?神官様は?)
あの漆黒の兵たちの攻撃を受けたのだろうか?
黒鋼や桃矢王の攻撃能力を信じてはいるが、それでも不安であることに変わりはない。
(・・・・・あの人、は・・・・・?)
『奪った』魔力で使った『魔法』。
怪我をさせていないだろうか。
あの秀麗な顔に、傷をつけていないだろうか。
女性ならかなりのレベルで気にする事を、『あの人』は全く意に介さない。
だから余計に気になる。
自らを『存在しないモノ』と言い切る、悲劇の姫。
その『残された時間』がたとえ僅かであろうとも、せめてこれからは心穏やかに幸せになってほしいと思うのに。
自分の事を『理解』してくれていた、『あの人』だから。


皆、『大切な』人。
かけがえの無い、『仲間』。
共に在って欲しいと心から願う『友』。
誰よりも、心から想う――――――――――。


「・・・・・・・・・・・・・サクラ・・・・・・・・・。」


自分の頬を、涙が流れたのが解る。
それは。
後悔の涙。
哀切の涙。
悲嘆の涙。
未来が、見えない。
(俺は、また、独りになってしまった。)
かの者の手から放たれて、包帯でグルグル巻きになりながら、道端に座り込んでいた、あの時のように。
養父・藤隆を失い、がらんとした家に1人佇んだ、あの時のように。
「・・・嫌だ・・・・もう、『寂しい』のは・・・嫌だ・・・・・。」
ふと、思い出す。
(此処を開けて!お父様!!)
泣きながら、扉を叩き続けた、まだ幼い姫の声が甦る。
あの少女も。
『独り』の空間に放り込まれたのだ。
(今なら解る。)
『外』に出たい、と願った、その心が。
血が滲むまで扉を叩き続けた、その悲しみが。
そして叶わぬと知った時の絶望が。


「・・・会いたい・・・・・・。」


会いたい。
―――――――会ってどうする?
(ファイさんに、まず謝らなきゃ。)
あんなにも酷い事をしたのだから。
謝って済む問題ではないが、何が何でも、まず詫びねばなるまい。
それから?
(黒鋼さんにも、謝らなきゃ。)
きっと、気にかけてくれたことだろう。
氷のようになった自分を、眉間の皺を増やして、哀しみの目で見遣ったことだろう。
そう、あの人なら。
不器用で、ひけらかさないが、しかし優しい、『彼』ならば。
(モコナにも、きちんと言わなきゃ。)
ごめんなさい、と。
モコナは、本当に『優しい』から。
きっと、『何も出来なかった』と言って泣いているだろう。
そんな事は無いよ、と。
モコナが何時も居てくれるだけで嬉しかったのだ、と。
言葉にして、伝えたい。
(王様と神官様にもきちんとお詫びしなきゃ。)
ある意味、一番とばっちりを受けたような2人に。
桃矢王は、怒るかもしれない。
雪兎神官は、困ったような微笑みを浮かべるだろう。
でも、誠を尽くせば、きっと解ってもらえるはずだ。


(・・・あの人には・・・・。)
自分はどんな言葉を紡げばいいのだろう。
何もかも知っていて。
何もかも抱え込んで。
それに何の躊躇いも持たない、あの人には。
おそらく、何も言えない気がする。
それでも――――――――。
何も言わずに包んでくれそうな、そんな気がして。


そして。


(サクラ・・・・・・・。)
何と言えば良いのか。
どうすればいいのか。
わからない。
きっと悲しませただろう。
苦しい想いをさせただろう。
百万千万の言葉を連ねたとて、それが癒やされる事はあるまい。
ただ、一心に、詫びよう、と。
想いの全てを込めて。


「――――――――――・・・・。」


何かが聞こえた気がして、はっと顔を上げた。
一面の闇、と思えた所に、微かな光が彼方に見える。
(あの『光』はなんだろう?)
まるで泳ぐように。
小狼は『光』に向かって進み始めた。
果たして本当に前進しているのか。
それすらも定かではないが。
しかし、確かに『光』の中から、『声』が聞こえてくる。


「―――――お――――ん――――・・・。」


「誰か?誰かそこに居るのか?!」
声は、辺りに散って届かない。


「―――――し――おら―――――ん・・・・。」


だんだんと。
はっきりと聞き取れるようになってくる。
「誰かそこに居るのか?!」
もう一度問いかける。
呼応するかのように。
今度は、はっきりと『声』が聞こえた。


「小狼君―――――!!」


「・・・・サクラ!!」
声の限りに、心から想う人の『名』を呼ぶ。
サクラ。
サクラ。
何物にも代えられない、大切な人。
小狼は、今や目の前に広がった、『光』に向かって、その手を伸ばした。


「サクラ―――――!!」




宙に浮かぶように在る『小狼』は、ゆっくりとその目を開いた。






第6章ー4に戻ります 第6章ー6へ 『時の翼』目次へ




悩んだ末に、此処で切りました。
これ以上書くと、倍の量書かないと切れなくなります。
ここまでで17KB。微妙にじわじわと書く量が増えています。
次が20KB以内で収まるかどうかは・・・・・・。
神のみぞ知る。^^;


お願いだから、皆幸せになって・・・・。(懇願)

裏話、小ネタはこちらから。

               作者・シュウ    2006.08.03UP

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