紅 の 嵐 




「黒鋼ぇ〜〜!!」
「黒鋼さん!!」
「黒鋼さんーー!」
「黒た〜〜ん!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・◎△■▼○※!!!


―――――――――――――― * ―――――――――――――


知世姫も、天照も、蘇摩も、目を真ん丸にした。
首筋にかじりついた少女。
胸元にタックルする形で飛び込んだ少年。
二人を抱き抱えるように、飛びつくように圧しかかった白い魔術師。
頭の上を飛び跳ねる白い物体。
そして。
下敷きになって完全につぶされた忍者を見て、蘇摩は慌てた。
「あっあの!!」
「・・・はい?」
にひゃら〜とした笑みを浮かべた金髪の魔術師は、蘇摩を見上げた。―――もちろん圧しかかったままで。
「黒鋼はまだ完全に傷が治っていませんので・・・あの・・・。」
「・・・あー?そうなのー?」
「・・・・・・・ええっ?!」
小狼とサクラは慌てて離れる。ファイは、のんびりと、さりげなく。
軽くなった忍者は、しかしうめき声を必死でこらえているよう。
「す・・・すみません!!」
「だ・・大丈夫ですか?!」
「黒様〜〜〜生きてる〜〜〜?」
「黒鋼ぇ〜〜〜?」
顔に張り付いたモコナをべりっと剥がして、耳を左右にぐ――んと引っ張った。
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「キャ―――――♪黒鋼ぇ――――、怒りんぼ―――♪」
痛みもあいまって、完全にキレている。
口の端が、片方の眉が、ヒクヒクと吊りあがり。
無言な所がさらに怒りのオーラを増幅させているようで。
怒りの波動が地鳴りすら呼ぶようであるのに、モコナは大喜びで足をプラプラさせている。
ため息を1つ、ついた。
改めて、皆を見遣る。
懐かしい顔が、そこに。
「・・・・・お会いしたかったです。黒鋼さん。」
と、小狼。
「頑張って修行しました!!」
と、サクラ。
紅玉の目が細められ、軽く、頷いた。
(『本当に』頑張ったんだろうな・・・・大したもんだ。)
「ホント、サクラちゃん頑張ったんだよ〜〜。」
ファイがサクラの言葉を肯定する。
その間、『逃げる』ことよりも『指導する』方を優先していただろうに。
彼の旅は、『終わってはいない』のに。


『魔法』という物を使ったことのないサクラにとって。
『ツバサの力』を使う、というのは並大抵の努力ではできない事だっただろう。
その頭に、ぽふ、と大きな手を置いた。
「あ!でも!!・・・『次元移動』はまだできないので、モコちゃんの道案内だけなんです・・・・・!」
わたわたと、照れくさそうに。
少し小首を傾げてサクラは恥ずかしそうに答えた。
(そんな事ねぇよ。大変だったはずだ・・・・。)
頭をわしゃわしゃと撫でる。その手は、そしてその瞳は、何処までも優しくて。
見上げて、本当に照れたようにサクラは笑った。
「約束でしたから。」
そう言ってにっこりと笑う。
そう、『約束』だった。


「『ツバサの力』が遣えるようになったら―――――――『日本国』に、来い!!」


あの時の自分の言葉どおりに、来てくれた。
皆、揃って。
あの時は相当なダメージを食らったファイも、もうすっかり良いようだ。
――――――――自分の『時間』は、まだ歩みを遅くしているのに。
「よくぞ参った。玖楼国ではどのくらい経ったのだ?」
天照がねぎらいの言葉をかける。
次元が違えば時間の流れも変わる。この日本国では3ヶ月。
小狼がお辞儀をしてから答えた。相変わらず礼儀正しい。
「はい、約3ヶ月になります。」
どうやらほぼ同じ――――何となく、安心する。
自分だけが、取り残されたのではない、と。


************************************************


「ねえねえ、黒鋼!!」
モコナが頭の上で飛び跳ねながら声をかける。この感触も、懐かしい。
「リアンは、どこ?」
「・・・・・・。」
黒鋼の顔が、瞬時に曇った。眉根がかすかに顰められる。
「・・・・・・ねぇ?」
その時。
「――――――――!!」
激しい痛みが身体を走り、黒鋼は思わず身を屈めた。
その顔が、苦悶の表情を刻む。
「黒鋼、此処はよい。ご神木の所へ行け。・・・・・・蘇摩。」
「はっ。」
天照の言葉を受け、蘇摩が黒鋼に肩を貸そうと近寄った。
それを手を振り払って制する。
「黒鋼。・・・・・・意地を張るな。」
天照の顔にも苦悩の色が濃い。
しかし黒鋼はようやく立ち上がり、少しふらつきながら退がっていった。
その姿が見えなくなり。
天照と知世姫は、同時に大きなため息をついた。
「知世。・・・・何時『治る』?」
「・・・・・申し訳ありません・・・・こればかりは、私の力が足りぬばかりに・・・・・。」
知世姫は、己を責めている。
自分の、『チカラ』が『足りない』と。


――――――――何故、知世姫の『チカラ』が必要なのか?


「教えていただけますー?」
ファイは、ほんの少しの凄みも交えて声をかけた。
絶対に、教えてもらう、と。
先ほどから。
正確には、黒鋼に『会った』その時から。
違和感を感じている。
何だか解らないが、とても大切な事のような気がして。
それに。
――――――――『あの人』は?


「黒様があんな状態である『理由』と――――――それと。」
ファイの目が。
絶対零度の冷気を帯びた。
「――――――――リアンさんが『どんな状態でどこに居る』のかを。」
あの人の。
「気配・・・・・ありませんね。白鷺城にも、いや、この『日本国』の何処にも。」


知世姫の脳裏に、『あの時』の情景が、ありありと甦った。


―――――――――――――― * ―――――――――――――



何かを、感じた。
(来る。)
それが『何なのか』をつかむ前に、『それ』は突然やってきた。
「!!」
猛然と吹きすさぶ風。むっと来るような血の臭いを『それ』に感じて知世姫は眉を顰めた。
悲鳴が交錯する中、『それ』―――凄まじいまでの『嵐』は、徐々に姿を明らかにし始めた。
それは。
何者をも切り裂く刃となって、中に居る者に襲い掛かっていた。
制御を失った『チカラ』は術者に牙を剥く。目の前にあるのは、まさに『それ』だった。
そして。
その中心には――――黒い影。
「黒鋼!!」
我知らず、叫んでいた。
必ず帰れと。
そう命じた者が、そこにいた。―――全身から血煙を上げながら。

嵐は己を起こした者の血を屠り尽くさねば済まぬといわんばかりの勢いで怒涛の如く渦を巻く。
(これは・・・手が出せない・・・!)
知世姫の魔力では到底御しきれるレベルの力ではなかった。
しかし、このままでは。
黒鋼に確実にもたらされるのは、『死』。
何とかしなければ。
覚悟を決めて念を込めようとした知世姫の目に、それは如何なる『光』と映ったか。
黒鋼が、周りに渦巻く嵐から護ろうとするかのように抱え込んだ、その人の。


背中に輝く『ツバサ』の光――――。


それは無意識下の発動であったのだろう。
しかしそれは―――。
その危険性を、誰よりも知っているはずだ。その人自身が。


まるで時が止まったかのように。
一つ一つがゆっくりと視界を通り過ぎて行くかのように。
『それ』ははっきりと認識された。


怒涛逆巻く渦のような嵐が急激に消えて。
あたりに静寂が一瞬で広がって。
背中の光が散るように消えて。


僅かの時を隔てて、その背中から血飛沫が飛び散った。


『ツバサ』の力は『行方を指し示す』力。
それ以外の目的での発動は。


『本来の目的から外れたり、過剰な力を求めた発動は、その使用者を切り裂く両刃の剣になる――――。』


諏倭の国で見た夢の中で、その人が龍玉に自ら語っていた言葉。
身体は完全に力を失って崩れ落ちる。
かろうじて受け止めた黒鋼の腕も、そして床も真紅に染め上げながら。


「・・・・蘇摩・・・!」
苦しげな叫びが耳朶を打った。血まみれになった顔を必死に上げて黒鋼が叫んでいた。
「早く・・・手当てを・・・こいつの手当てをしてくれ・・・!」
「!!お前も早く・・・!」
「こいつが先だ!・・・こいつの命数はまだ尽きちゃいねぇ!まだ助かるんだ!」
「黒鋼・・・。」
「頼む・・・!こいつを・・・・助けてやってくれ・・・!」
意を決して蘇摩は駆け寄ろうとした――――――――。
その時。
今まで気を失っていたようだった人が。
いきなり跳ね上がり、黒鋼を突き飛ばした。
「?!」
刹那の時を挟んで、黒鋼の居た場所を、『黒い鎖』が撃ち抜いた。
「な・・・・?!」
いつの間にか浮かび上がった、どす黒い『空間』。
それは――――――――かつて、『時の魔女』が見せた、過去の夢に。


「・・・『闇の魔王』か!!」


こちらの想いなど我関せずとばかりに。
『闇の空間』は、無数の黒い鎖を放ってくる。
いつもなら。
十分に迎撃は可能。――――――――だが。
今は。
2人とも、あまりにも傷つき、消耗しきっていた。
鎖を斬り、弾き、叩き落す、その一瞬の間隙を突かれた。
「・・・ぐあぁっっ!!」
闇の鎖は猛烈な勢いで黒鋼の脇腹を貫いた。
それだけではない。
貫いた鎖は、傷口を押し開きながら巻き戻されていった。
傷口を無理やり裂き開いたのと同じだ。
凄まじい痛みが黒鋼を襲う。
のみならず、他の鎖も襲い掛かり、瞬時に瘴気の煙に姿を変えて傷口から体内に侵入していった。
あまりの痛みに。
心臓を掴み出されるような、衝撃に。
さすがの黒鋼も床に這い蹲った。
「黒鋼!!」
知世姫の悲鳴を聞きつけたか。闇の鎖は知世姫にも向かっていく。
(知世・・・・!)
護ると誓いを立てた主君までも護れないのか。
その絶望に、無数に舞う羽根が救いの手を差し伸べる。
羽根は知世姫を、天照を、蘇摩を、皆を。
護るかのように乱舞し、闇の鎖の全てを受け止めた。
それと見て。
安堵のため息を漏らしたが。
それは表裏一体に、その人の防御の薄さをも示すと。
闇の鎖は、傷つき果てたその人に絡みつき、床に叩きつけた。
「!!」
もがきながら。
鎖に絡め取られたまま、闇の空間に引きずられていく。
『闇の魔王』には、『殺す』意思がないようだった。
ただ、闇の空間に取り込もうとして。
徐々にその抵抗が力を失くしていく。
「おい!!気をしっかり持て!!」
叫んでも。
やがてだらりと垂れ下がった手には、生気のカケラも感じられない。
微かに、その目を開いて、確かに黒鋼を見た。
その唇が小さく動く。


(・・・さよなら・・・・。)


確かに、そう動いた。
何が何だか解らない、頭が真っ白になった。
停止した思考の中で。
黒鋼は叫んでいた。


「――――――――リアン!!」


初めて、その人の『名』を。
声に出して、『呼んだ』。
その声が、想いが届いたのか。
微かに表情が変わった。
それは、優しさと。
諦めと。
哀しみと。
そしてそれは一瞬よぎっただけで。
闇は全てを飲み込んでいった。


「・・・・・・・・・・・・・・。」
時間が、止まった。
絶望に囚われた、その瞬間!


猛然と闇の鎖が、黒鋼に向かって突進してきた。
まるで行きがけの駄賃だとでも言うかのように。
そのあまりの勢いに、防御は不可能。
思わず目を閉じ、覚悟を決めた黒鋼の耳に、耳障りな音が響いた。
「?!」
目を開ければ。
闇の鎖を受け止めた『羽根』が目に入った。
それは唯『受け止める』だけではなく。
闇の鎖は瞬時に『浄化』され、消えていく。
『護り手』の、最後の『チカラ』。
鎖が消え、はらり、と目の前に落ちてきた『羽根』は。
無残に折れていた。
それを手に。
握りしめて。
黒鋼は嗚咽を飲み込んだ。
「・・・・・くそぉ――――――――っ!!」


激痛が走り。
黒鋼は倒れ、意識を失った。


************************************************


たちまち白鷺城の中は天地をひっくり返したような大騒ぎになった。忍軍と陰陽寮が総動員される。
知世姫が結界を張るのをやめて治療に専念するため、まずは忍軍が配置についた。
続いて、陰陽寮の術師たちが交代制で結界の発動にかかった。
本来なら、治癒術の方に向かうべきなのだが、魔界の瘴気はあまりにも力が強すぎたのだ。
皆が力を合わせなかったら。
白鷺城も、黒鋼の命も、共に失われるところだった。
忍軍はいつもより過酷な戦いに直面する事となった。
が、そこは音に聞こえた白鷺城の忍軍。名に恥じぬ働きを見せた。
陰陽寮の術師たちも、それなりに結界を張って、魔物をほぼ完璧に防いだ。
治癒術の方も、蘇摩の薬と治療だけでは黒鋼の命を繋ぎ止められなかっただろう。
それほど傷は深く、命旦夕にあった。
皆の思いが1つになり。
七日七晩眠り続けて、ようやく黒鋼が目を開いた時、期せずして万歳三唱が起こったくらいだ。
しかし、その身体に入り込んだ魔界の瘴気は、知世姫の手に余った。
なんと言っても、『闇の魔王』直々の瘴気だ。ただの瘴気ではない。
傷の表面は癒えても、内部は未だに癒えず、瘴気の毒は今なお黒鋼の身体を蝕み続けていた。
知世姫とても、何時までも黒鋼だけにかまけていられない。
というよりは、身体がもたなかった。
やむなく、動けぬ時には、ご神木の霊気を借りる事になった。
それは微量ではあるが、毒素を中和し、瘴気を分解する。
時間はかかるが、もうそれしか方法がなかった。
午前中の鍛錬で体力を使い果たしてしまうため、午後からはたいていご神木の枝のどこかにいる。
栗鼠のように枝に止まり。
時には眠っている、と蘇摩は語り添えた。


たとえ今なお苦しみ続けているとはいえ。
失われて当然の状況下にありながら、皆のおかげで救われた命。
『生きていれば』、いつか道も開ける。
『死んでしまえば』、そこで全てが終わってしまう。
自分は――――――――皆に『生かされて』いる。
だから、何とか床を払えるようになった黒鋼がまずやったのは、忍軍と陰陽寮に礼を言うことだった。
――――――――正確には『言った』のではなかったが。


――――『あの』黒鋼が頭を下げた。


忍軍と陰陽寮に一大パニックが起こったのはいうまでもない。
尤も、その時に『信じられない』を連発した忍軍の誰かが、きっちりとお礼参りをされたらしい事は後日談ではあるが。


――――――――だが。
その受けたダメージの大きさを、今なお皆が思い知らされる事には。


黒き疾風かぜの『声』は、どうあっても戻っては来なかったのだ。


―――――――――――――― * ―――――――――――――



「・・・・そんな・・・・・。」
「・・・・まさか・・・・・。」
日本国に来れば。
「会える、と思っていたのに・・・・。」
サクラは顔を覆った。
小狼も唇を噛みしめ、握り締めた拳を震わせる。
会いたかった。
あれが『永遠の別れ』になるなんて、思いもしなかった。
『日本国に行けば、黒鋼とリアンに会える』―――――それは、『希望の光』だったのに。
『生きて』再会できるかどうかはわからなかった。
命がもう少なくなっている事は解っていたから、もしかしたら、とは思っていた。
でもその時には、墓参りが出来るだろう、と思っていた。
それが。
「・・・・まさか『魔界』に連れ去られていたなんて・・・・。」
予想もしていなかった展開に、ファイもただ後悔の念に囚われるのみ。
水鏡に映らないがゆえに、どうなっているのかが読めなかった。
ファイの心に闇が忍び寄る。


『あの時』、何故自分も『一緒に』行かなかったのだろう。
何故『残る』と言えなかったのだろう。
サクラのサポートは、雪兎神官だけで十分だったのに。


************************************************


「・・・誰よりも、苦しい思いをしたのは黒鋼自身ですわ。」
窓の外、ご神木を見遣って知世姫が呟く。
「これで2度・・・・『護れなかった』のですから・・・・・。」
此処からは見えないが、黒鋼はご神木の枝のどこかにいる。
彼にこれほどの苦しみを負わせるのを。
一体何処の誰が望んだというのだろうか。
諏倭で。
そして、この白鷺城で。
こんな苦しみを負わせるために、自分は諏倭から救い出したのではない。
自分の力ではどうすることも出来ない、遙か高みの存在に。
ただ祈るしか出来ない。


せめて、その魂、安かれ、と。


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今日はもう、高い枝には登れなかった。
手近な所で、できるだけ人目に付かない所の枝を選ぶ。
自分が枝に居る事を、快く思わない者も、やはり居るには居るので。
『覗きが趣味か、忍者らしい。』と揶揄した公達も居た。
今は反論する気にもなれない。
力を抜いて、幹に身体を預ける。
ほんの僅かでも、それで楽になれるのだ。
少し目を閉じていたが。
思い出したように懐に手を入れた。
取り出したのは――――――1枚の羽根。
『あの人』が残した、最後の羽根。
己を護って無残に折れたそれは、見るたびに心を締め付ける。
(また、『護れなかった』・・・・。)
『可能な限り傍にいて欲しい』という願いも断ち切られた。
またしてもすり抜けて行った、『愛すべき者』。
これが黄泉路を辿ったのならば、その魂の安寧を祈る事も出来ただろう。
しかし、連れ去られた先は、闇の空間。
人外魔境――――――『闇の魔王』がしろしめす『魔界』。
『裏切り者』の汚名を着せられているのは承知している。
ならば、どれほど酷い目に遭わされている事か。
残り僅かな命なのに。
その魂は引き裂かれ、砕かれてしまっただろうか。
解っているのは――――――――もう『二度と』会えない、という事。
懐に羽根をしまいこみ。
黒鋼は、ゆっくりと目を閉じた。
瞼に浮かぶのは――――――夕闇色の、瞳。


―――――――――――――― * ―――――――――――――



夕食の席は。
何処となく沈痛だった。
黒鋼が『話せない』事がわかって、ファイの違和感も解消された。
あの絶妙とも言えるツッコミがなかったからなのだ―――――――。
モコナはひたすら黒鋼に張り付き、食事の横取りを続けている。
それは、少しでも皆を和ませようとしているかのようで。
それと知ってか。
こめかみに怒りを浮かばせながら。
モコナに食事を分けてやっているのを見ると、どうしようもなく涙があふれてきて。
サクラは何度もその目を拭った。
小狼も、ファイも、かけるべき言葉を見つけられないでいる。
モコナも、ひとしきり食べると、ぽすん、と胡坐をかいた足の間に納まった。
その頭を。
ぽふ、と撫でて。
果物を(食うか?)と目の前に出してやる。
モコナは目をゴシゴシとこすり。
あーーん、と口を開けた。
ぽんっとその中に放り込む。
もぐもぐとしながら、自分を見ているその紅玉の目の優しさにいたたまれなくなって。
「モコナ、お腹いっぱーい♪」
と、おどけて黒鋼の背に回り、ペタリ、と背中に凭れて座り込んだ。
――――――――そこなら。
誰にも涙を見られないから。


全体に小食なまま食事は終わり(ファイは刺身系を無言で黒鋼に差し出した)、用意された部屋で皆は寝む事になった。
静かな、静かな月光の下。
ファイは、ご神木に黒鋼の気配があるのを感じ取った。
(あの瘴気を何とかしないと。)
あれだけの瘴気を浄化するには、かなりの魔力を使う。
使えば、『水底のあの人』に知られ、この日本国を戦いに巻き込む可能性がある。
(でも。)
目の前であれほど苦しんでいる黒鋼を見るのも、もう嫌だ。
思えば、『あの時』。
魔界から羽を奪って帰ってきたリアンは、瞬時にその瘴気を浄化した。
如何に、術式を先に埋め込んでおいたとはいえ。
魔王直々の瘴気ではなかったとはいえ。
やはり『あの人』の魔力は半端ではなかったのだと改めて思う。
夕闇色の瞳を、つい虚空に捜してしまう。
(オレ・・・どうしたらいい・・・?教えてよ・・・・リアンさん・・・・・。)
心の中で呟いたとて。
もはや届く術のない、空しきネガイ。




そして、その夜。


皆は、『夢』を見た。





第7章ー1に戻ります 第7章ー3へ 『時の翼』目次へ




元になる文があると、本当に楽ですね・・・・。(自爆)
でも設定が変わった分、半分ほど廃棄しました。
かなり玖楼国組の描写を増やしています。


以前何かで書いたと思うんですが、この最終章である第7章、3部構成です。
1と2で『再会篇』です。
次は・・・何篇かを言ってしまうとネタバレになるので、内緒。(笑)


さ、次からは全部新規。よって更新が遅れます。(予告しておこう)←するな


裏話、小ネタはこちらから。

               作者・シュウ    2006.08.24UP

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