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――――――――『私』とて。
この世界に『連れてこられた』モノ。
ただ、絶望と。
諦めと。
全ての『ココロ』を押し隠してきた。
――――――――そう、『お前』に会うまでは。
『お前』は。
『私』と出会った事を、怨んでいるか?
『私』は――――――――。
『嬉しかった』・・・・・・・・・・・。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
「あー、小狼君・・・・。」
ファイはその姿を認めて声をかけた。
声をかけられた小狼が振り向く。
「あ、ファイさん。」
「珍しいねー・・・オレ、あんまり『夢』見ないんだよねー・・・。」
ポリ、と鼻の横を掻く。
「『旅』の『夢』はまぁ、見る方ではあるんだけどねー・・・・。」
小狼は柔らかな表情で次の言葉を待つ。
「小狼君の『夢』見たの久しぶりだー。一番多いのがモコナでねー次が黒様ー。」
くすり、と小狼が笑いを零す。
「リアンさんは・・・・まぁ割と、かなー?あ、でもサクラちゃんのほうが多いかもー。」
「『心』に心配事があると、よく『夢』を見るって言いますよね?」
「んー?じゃあモコナが一番心配なのかなー?」
くすくすと。
互いに笑いあう。
「じゃあ小狼君はもう心配しなくても大丈夫だってことだねー。」
「え?・・・そ、そんな事、ないですっ!!」
慌ててわたわたと手を振る所が、小狼らしいといえば小狼らしい。
「・・・・ねぇ、小狼君。」
ふっと真顔になって。
つられて小狼も背筋をただす。
「はい、なんでしょうか、ファイさん?」
「・・・・・気付いた?」
「・・・・・え?」
小狼には何の事か解らない。
「オレ達・・・・・・今、『同じ夢』を見てるんだ・・・・・・。」
「え?!」
確か部屋は別々だったはず。
驚く小狼に、ファイは無言で指を指した。
その指し示す先には。
「・・・・・・サクラ?!」
いや、サクラだけではない。
モコナも。
知世姫も。
天照も。
蘇摩も。
――――――――そして、黒鋼も、そこに居た。
「・・・これってどういう・・・・・?」
「『夢』を見せたいんだろうね、皆に。・・・・・『誰か』が。」
ファイの目が凄みを見せる。
こんな事が出来るのは――――――――魔術師。
それも、かなりの魔力の持ち主でなければ。
「・・・わ、私は宿直をしていたので眠っていないはずなんですが・・・・・。」
蘇摩がどうしよう?といった顔で訊ねる。
「『眠らされた』のでしょうね・・・『強制的』に。」
知世姫が一人納得したような顔で頷く。
「じゃあ、知世姫がやってるんじゃないんですねー?」
「はい。私ではありませんわ。」
では、誰が?
「此処・・・・何だか見たことあるよ・・・・?」
モコナの言葉に、はっとして周りを見渡す。
「・・・そういえば・・・・。」
確かに、『何処かで』見たような。
重厚な柱。
高い天井。
灯りこそ無いが、月の光を微かに受けているのか、視界は何とか確保されている。
少なくとも、日本国――――――白鷺城ではない。
何処か、洋風な。
しかし、確かにどこかで見た事が――――――――。
「?!」
ドクン!!と。
銀竜が波動を発した。
――――――――それは、『龍玉』の意識の波動。
「『龍玉』?如何した?」
言葉を発せぬ黒鋼に代わり、天照が問う。
銀竜は――――――――『龍玉』は。
震えていた。
それは。
『信じられないモノ』を見た、という風に。
《 ・・・・・此処は・・・・・・・『魔道宮』だ・・・・・・・。 》
何処かで確かに、羽根が、舞った。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
魔道宮。
リアンの、そして『龍玉』――――ナーガの故郷。
かつて、『闇の魔王』に蹂躙され、滅び去った『国』。
『魔道宮』は、その力を維持するために『魔界』の結界の中に封印された。
そして『翼を統べる者』を『依り代』として、『時の魔女』がこの世界に現れた。
かつて、自らそう語った。
では、此処は『魔界の結界の中』なのか?
ファイは辺りを見渡し、『気』を探る。
「それにしちゃ・・・・・『瘴気』がない。」
所々にその気配が無い訳ではないのだが、瘴気の存在そのものが、無い。
「じゃあ、此処はまだ、『魔界』に封印される前の『魔道宮』・・・?」
《 ・・・それは、違うぞ、少年よ。 》
小狼の予想は『龍玉』が否定した。
《 『時』の隔ては大きい。残念ながら、大きな経年変化があるようだ。・・・此処は、『今』の魔道宮と考えられる。 》
「『封印』が解除されたってことなんでしょうか?」
サクラの問いは、深い意味を考えずに発せられたことではあったが。
『龍玉』の心の波動は、痛切な悲しみの色に染まった。
「『龍玉』さん・・・・・?」
《 ・・・・・・・・・役目を・・・・・。 》
銀竜を持つ手が、痛いほどの、波動。
《 役目を終えたということか・・・・・・魔道宮が・・・・・。 》
「役目って?」
誰もその意味が解らない。
――――――――ファイは、ふっと思い当たった。
「・・・・『依り代』の縁が・・・・『解除』された・・・・・?」
《 ・・・・その通りだ・・・・白き魔術師よ・・・・。 》
「どういう事だ?ファイ、説明してもらおう。」
天照の、それは『命令』。
ファイは、自分も深くは知らないが、と注釈を加えた上で話し始めた。
「『時の魔女』のように、『依り代』に憑依する事でこの世界に現れる者が居ます。」
それは、皆も知るところ。
「そして、『依り代』が『死んだ』ら、『憑依しているモノ』も『死ぬ』事になります。」
『あの人』は――――――――『命』を削ってきた。
『時の魔女』が焦っていたのは、このせいなのか。
「だから、『依り代』が『死ぬ前』に『離れなければならない』――――――『依り代』との縁を『解除』するんです。」
『縁』を、断ち切る、と。
「それを行う『場所』は、縁を結んだ場所。」
あの時。
だから――――――――魔道宮は。
「縁を解除する、『その時』のために、魔道宮は『封印』され、『維持』されたんです。」
では、『その封印が解けた』という事は。
『 ・・・・そういう事だ、セレスの魔術師。 』
姿は見えない。
だが、この『気配』は。
「・・・・『時の魔女』さん・・・・ですね?」
ファイは『気配』の方に向かって呼びかけた。
「貴女はもう、『離れた』んですね?・・・・『あの人』から。」
その言葉が示す意味は。
『 ・・・そうだ。『依り代』との縁は解除され、今の私はこの世界においては『カタチ』を成す事が出来ぬ。 』
それは、『時間の体系が違う世界』に住まう者であるが故に。
見渡しても、確かに姿は無い。
だが、気配は確かにあった。
《 『あの方』は・・・・・『姫』は!! 》
『龍玉』―――――魔道宮の『大賢者』たるナーガにとって、その存在は、どれほどの時を刻もうと変わらない。
己が仕えるべき『姫』なのだと。
その問いへの応えは、ない。
――――――――代わりに。
『 ・・・・黒鋼。』
呼びかけられて。
眉間の皺を深くして。
黒鋼は1歩、前に出た。
『 ・・・お前の「声」が失われているとは知らなかった。 』
「・・・・・・・・・・・・・・。」
沈黙は、如何なる言葉よりも雄弁にその者の心を表す。
『 ・・・「これ」を返してくれ、と頼まれた。 』
「!!」
ポウ、と光と共に空間に浮かび上がったのは。
「・・・・『蒼氷』・・・・・・・!」
ファイの叫びに呼応するかのように。
小狼の『緋炎』が鞘鳴りの音を立てた。
やはりこの2振りの刀は、『対』であったのだ――――――。
黒鋼は、静かに『蒼氷』を手に取った。
長さこそ、自分が使いやすいようにと短く変えた、そのままだが。
鞘を払えばそれは、かつての激戦を物語って数多の刃毀れを零し。
そして――――――――。
哭いていた。
その『声』が聞こえるようで。
鞘に収めれば、微かな鞘鳴りが手に伝わる。
それは、『緋炎』と共鳴して。
「私が預かりましょう。」
労ってやりませぬと、と知世姫が申し出る。
受け取った『蒼氷』を、知世姫はその胸にかき抱いた。
「・・・とても苦しく、哀しい想いをしたのですね・・・・でも、もう安心してよいのですよ・・・・・。」
それは。『蒼氷』に言い聞かせるように。
『 ・・・「蒼氷」は、お前をただ一人の主と定めていた。 』
『時の魔女』の『声』が響く。
『 ・・・お前に「絶対に傷めるな」と言われたのに、ひどく傷めた事をとても気にしていた。 』
そんな事。
『お前』が帰ってきてくれるなら、気にしないでいたのに。
『蒼氷』とて、きっと許してくれただろうに。
――――――――何故、『お前』は帰ってこない?
「ねえ、教えて!!リアンは何処にいるの?!モコナ、リアンに会いたいの!!」
モコナは必死に叫ぶ。
「皆、同じ気持ちなんです。・・・教えて下さい!!」
小狼も、『緋炎』を握りしめて叫ぶ。そして、ファイも、また。
「『教える為』に、『夢』を見せたんでしょう?!だったら・・・・!」
『 ・・・・全てを『現実』として受け入れる事が出来るか? 』
「・・・・『最悪の事態』の覚悟はできている。そうだろう?・・・黒鋼。」
天照の言葉に、黒鋼は目を閉じた。
何時までも、『どうなっただろうか』と、思い悩んでいるわけにもいかない。
『どうなったか』を知るべきなのだ、と。
『 ・・・覚悟、か。・・・いいだろう。見るがいい・・・・「夢」、を。 』
無数に舞う『黒い羽根』が、視界を覆った。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
チャリ、と音がした。
暗闇の中、音のした方に目を凝らす。
鬼火のような光がふわり、と漂った――――――――。
「・・・・・な・・・・・・!!」
それは絶句するに相応しい物であったと。
誰が見ても肯定するだろう。
その裂けた背なは癒やされる事なく、その白い服を朱に染め。
かつて『あの男』に刺し貫かれた脇腹の『血』もまた、傷を塞ぎこそすれ、服の染まりまでは取り払われていなかった。
白い服のほとんどは赤く染まりぬき。
その顔には生気がない。
こめかみから流れる赤い筋が、さらに陰惨な影をその顔に落としている。
そしてその腕は高々とまるで万歳をするかのように掲げられ、上の方から伸びた黒い鎖に絡めとられていた。
まるで処刑されるのを待つ死刑囚のように。
時折微かに上下する肩に、微かな命の息吹を見る。
その足元に、黒々とした魔法陣が浮かび上がった。
《 もはやこの者の命は風前の灯。・・・『依り代』から離れるのだ、『時の魔女』よ。 》
覚えのある声。
本当は覚えていたくもない、『声』。
「・・・・『闇の魔王』・・・・・。」
それは、魔道宮を滅ぼし。
リアンに『依り代』としての永劫の苦しみを負わせ。
そして自分の手の内から、『魔界』へと連れ去った張本人。
黒鋼は、ぎり、と唇を噛んだ。
今見ているのが、『夢』であるのが口惜しい。
――――――――『夢』でなかったなら。
あの鎖を全て切り落とし、この手の中に取り戻すのに。
黒い魔法陣から瘴気が湧き起こる。
それはまるでヘビのようにリアンの身体に絡み付いていく。
そして。
『闇の波動』が一気にリアンに向かって収束した。
「――――――――・・・・・!!」
もはや声すらも出せないのだろうか。断末魔のような衝撃が、その顔に苦悶の表情を刻む。
この人は。
何時まで苦しめばいいのだろうか。
いや、『闇』は。
何処までこの人を苦しめ、苛めば気が済むのか。
『闇の波動』は、やがて黒い『光』を体内から引きずり出した。
まるで、布を通して粘性を持った液体が洩れ出てくるがごとくに。
その黒い『光』が、離れたその時!
バササッッ・・・・・・・。
純白の翼がその背に甦った。
思えば『依り代』にされた時、リアンは翼を『出して』いた――――――。
(『時』が戻った、という事なのか。)
『あの時』に。
見れば、その纏う服も、かつて魔道宮の空を駆けた時と同じ服になっている。
力を失った『天使』は、ゆっくりと倒れこんでいく――――――――。
『夢』とは、『過去の幻影』とは、『届かぬ』が故に残酷なものであると。
その身体が倒れ伏すかに見えたその瞬間の出来事を。
己が目にはっきりと見、記憶に深く刻み込む事になろうとは。
誰も予想だにしない事だった。
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