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『闇』に住まう者は
『光』を求め
『光』の中に住まう者は
『闇』への憧憬を募らせる
己が持たぬものを追い求め
その『融合』を模索した。
『光』と『闇』
それは背中合わせの双子のようなもの。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
倒れ行く『天使』。
その身体が床に倒れ付すと見えた、その時。
閉ざされた目はカッと見開かれ、その掌は想像だにしない力で床に叩きつけられた。
ピイィィィ・・・・・・・・・・・ッ・・・・。
高い波長の音がして。
その足元に白き光の魔法陣が浮かび上がった。
その光は、『闇の魔王』が展開した『黒い魔法陣』を瞬時にして駆逐し。
白き光芒は当たり一面を染め上げた。
「な・・・何が起こったんだ・・・・?!」
ファイにも解らない。
だが、白き光芒の中に、強大な力を感じ取る事は出来た。
――――――――今まで感じた事もないほどの、強大な『チカラ』を。
そして、皆は、見た。
眩くばかりの白き光芒の中、気高くも崇高なる『気』を纏い。
背なに純白の翼を在らしめて。
その夕闇色の瞳に妙なる光を宿らせて、立つ『あの人』を。
身体の震えが止まらないほどの、『チカラ』。
命の波動の強さは想像を遙かに超え。
改めて思う――――――『あの人』の命は、出会った時、既にかなり削られていたのだと。
「『魂の半身』が甦った・・・・・・・。」
呆然として小狼が呟く。
『あの時』、己が魂の半身を術式にして埋め込んだ。
そう――――――――『ここ』に。
「・・・・待っていた。『この時』を。」
《 何をしようというのだ?! 》
『闇の魔王』の声に、いささか戸惑いと焦りがあるように思えるのは間違いではないだろう。
光の中、その手にしっかりと『闇の鎖』を持っている。
そしてその先は、あの『黒い空間』に繋がっているのだった。
「この魔法を使うのに必要な『チカラ』は魂の半分以上。これがぎりぎりだった。」
《 ・・・・何のために?! 》
「『あの時』、『依り代』にされると判った時に、『決めた』事だ!!」
それは――――――――全ての『根源』。
全ての『始まり』。
『あの時』に――――――『何』を?
「この私が持つ『翼を統べる者』のチカラ故に『お前』はこの人間の世界に現れた。」
その類い稀なる『チカラ』を欲して。
「我在るが故に招いた災厄、我が手によって正すが定め。――――――なれど。」
闇の鎖を握りしめる。
「『決める』よりも前にわが身は闇に染められた。そして『お前』との繋がりも薄かった。」
見据えたその目には、捕食者の如き光。
「だから、決めたのだ。――――――『最期』に仕掛けるとな!」
《 貴様!この我に何をしようというのだ?! 》
「焦らなくてもいい。・・・もう、逃さぬ。」
『闇の鎖』は消える事も、瘴気に転ずる事もない。
『チカラ』によって、保持されていた――――――『闇の魔王』とのつながりを。
「『リバイバルコクーン』を知っているだろう?」
唐突な問いは、『闇の魔王』に向けて投げかけられた。
《 ・・・・『諏倭』で使ったとかいう3大魔法のうちの1つの事か。 》
やはり『闇の魔王』といえど、『諏倭』を覗き見ることはできなかったと見える。
『イレイザーウォール』の『チカラ』を、改めて知る思いがした。
「・・・『あれ』は、『闇』の魔法でありながら、『光』の要素を持つ。『復活』という名の、な。」
考えてみれば、確かにおかしい。
しかし、皆は一様に『?』といった顔だ。ファイは思わず苦笑する。
「たぶん知らないと思うけど・・・元来魔法というものは、『白魔法』――――『光』と、『黒魔法』――――『闇』に大別されるんだ。」
ファイの独り言は、皆に向けて。
「『白魔法』は、主に『回復系』。『黒魔法』は主に『攻撃系』。お互いに相容れぬもの。」
何となく、ではあるが、理解できる。
《 相容れぬ2種の魔法だが、『リバイバルコクーン』は互いの性格を持つという点で異色であると考えるべきだな。 》
「それなんだけどさー・・・・。」
『龍玉』の解説に、ファイは半ば呆れたように、ポリポリと頬を掻きつつ言葉を継ぐ。
「オレ、そんな事、聞いたこと無かったよ・・・・?」
《 『時の魔女』と共に甦りし『3大魔法』の1つであるが故、であろうな。この特殊性は。 》
当たり前の事だ、と言わんばかりに。
《 『リバイバルコクーン』は、元来『攻撃系』の『黒魔法』の中で、唯一の『自力回復魔法』と見るべきだろう。 》
「相手から体力とかを吸い取って自分の物にする回復魔法もあるんだよ。でもそれは『自力』じゃないでしょ?」
質問を予測して、先に答えておく。思わず小狼は頷いた。
《 ・・・・・・・・まさか、な・・・・・。 》
『龍玉』の、言葉の『意味』は。
問いかけるよりも先に、答は天使の口から紡がれた。
「・・・・その『逆』もまた、『存在』する。」
《 『逆』・・・だと・・・・・? 》
「そう。」
口元に浮かんだ笑みは、何処か満足そうで。
「そのチカラ究極なるもの・・・白魔法唯一無比の『消滅魔法』がな。」
《 ・・・・・古文書にこの記述があったと思う・・・・。 》
『龍玉』の『声』は震えていた。
《 その『チカラ』のあまりの強大さ、そしてその『消費する魔力の大きさ』ゆえに、時の彼方に封印された魔法がある、と・・・・。 》
「・・・オレ・・・・聞いたことないよ・・・・・?」
ファイの声も何処か震えて。
『チカラ』の大きさが読みきれない。
『消費する魔力の大きさ』もまた、推し量りきれない。
『時の彼方』に封印されながら、何故『この人』は遣おうとする?
いや。
――――――――何故『遣える』?
「『翼を統べる者』の『チカラ』なら、可能だということなのか・・・・・?」
天照の推測は当たっているのだろう。
しかも『魂の半分以上で発動する』と自ら語っている。
「『依り代』となり、『闇』の存在となった私には、この魔法は遣えない。だが、その縁が解除されれば、私は『光』に戻る。」
それを、『あの瞬間』に、心に思い定めたのか。
『闇の瘴気』にその身を蝕まれた、その時に。
「その為には、私自身が『死』のぎりぎり直前にまでなる必要があった。」
『依り代の死』は、その憑依する者の『死』に直結する。
その直前に離れる必要がある、という事は既に聞いたし、実際にこの目で見た。
「魔法を発動させるのに必要なぎりぎりの分の『魂』を、『帰ってくるはずの』此処に封じて・・・・・・。」
それは、気取られるかどうかの、大きな『賭け』であっただろうに。
「残った『魂』を、『命』を削り続けて・・・・。」
ただこの『時』のためだけに。
『依り代』としての呪縛から解き放たれ、『人間』に戻る、この『時』の。
「どうしてそんなに『命の無駄遣い』をするの―――――――!!」
モコナの哀しい叫びは、皆の心、そのままに。
そしてそれは、『時の魔女』にとっても、同じであったと見えて。
同じことを、『時の魔女』もまた問うていた。
『 何故それほどまでに「命」を粗末にするのだ?! 』
「あの時――――――『依り代』にされた時に、本当なら私は『死んでいるはずだった』。」
『 ・・・それは・・・・・・。 』
「魂半分以上切り離したとて、私は『死ねなかった』。・・・ならば、ただ『そこ』へ向かうのみ。」
『 ・・・・・・・・・・・・・。 』
「今の私が歩むのは、『偽りの人生』――――――おまけのようなものだ。『捨て去る』ことに、何の躊躇いも無い。」
皆の心に重く沈みゆくものは。
何も出来ない、もどかしさと。
何もしてやれない、絶望と。
ただその記憶の面に、その人の姿をこそ刻むのみ、と。
手にした『闇の鎖』を。
チャリ、と音をさせて振り。
その口元に浮かばせたのは――――――自嘲の、笑み。
「これで――――――――私にも『存在意義』というものが有るようになるだろうか・・・・・?」
あの日、あの時。
全てを否定され、全ての自由を奪われ。
ただの『道具』と成り果てた自分を認識『させられた』、あの日。
それゆえに自らの『存在意義』を否定し、『存在せぬモノ』として自らを貶め続けてきた。
その受けた心の傷の深さを、改めて思い知る。
今、現実に傍にいたならば。
駆け寄って。
その手を取って。
その肩を抱きしめて。
声を限りに叫んでいただろう。
『此処に確かに存在している!』、と。
――――――――そう、誰もが、皆。
「――――――――時は、満ちた。」
すい、と横に差し伸べられた手を見て。
皆は愕然とした。
「・・・・呪文を・・・紡いでる・・・・・。」
それは、かつて見た。
――――――『手』で『印』を切り、呪文を紡ぐのを。
「これで・・・・『最後』だ。」
《 貴様!この様な事をしてただで済むと・・・・! 》
『悟り』とは。
こんな表情をさせるものなのだろうか。
諦めと。
微かな希望と。
満足と。
そして――――――――哀しみと。
「我願うは、天上の星。我祈るは、地上の夢。我漕ぎ出づるは、天界の漣。我踏み越えしは、地獄の業火。」
《 やめろ・・・・・・・! 》
「我、その白き『チカラ』もて、『闇』を打ち払い、一切を消し去るものなり。」
《 やめろ!! 》
『闇の魔王』の声は、しかし届いてはいない――――。
――――いや、確かに届いている。
かすかに微笑む、その唇が『応え』を上せぬだけと知る。
「光魔・封滅陣・・・・・『レジェンドホーリー』。」
白き光芒は、あたり一面を埋め尽くした。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
その『心』を。
誰が責められるのだろうか。
『闇』よりも。
『光』を選ぶ事が。
これ以上『人間の世界』に『闇の魔王』が干渉できないように。
『人間』を護りたいと思うが故に。
『自ら死ぬ事が出来ない』術をかけられた『姫』が
唯一選ぶ事の出来た『道』であると。
『魔女』としてさらなる時を刻むよりも。
『人間』として還らぬ旅に出る事になったとしても。
白き光芒は視界を白く染め上げて。
『闇の魔王』はその気配を光の中に消して行く。
誰も、何も言えなかった。
誰も、動く事も出来なかった。
これが『夢』であるとわかっていても。
では、この頬を伝うものは?
サクラはそっと頬に手を当てた。
その目からあふれる涙は、確かに自分の頬を、そして手を濡らしていく。
これもまた、夢なのだろうか。
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「1つ・・・頼まれてはくれないか?」
その声に、はっとして見れば。
独り佇む、『あの人』が。
しかし。
近づけない。
足が動かない。
それは――――――――『夢』故に。
『 何を? 』
『時の魔女』の声も、何処か哀しげで。
「『これ』を・・・・『蒼氷』を主の元へ帰らせてやって欲しい。ずいぶんと・・・傷めてしまった。」
『絶対に傷めるな』と言われたのに。
『 何故、お前の手で返さない? 』
「・・・私は・・・・もう、帰れない、から・・・・・。」
悲しげな、自嘲の笑み。
『 皆が待っていよう。・・・・・「彼」も。 』
ゆっくりと、首を横に振る。
「私は・・・此処で『消える』。」
『 「消える」? 』
「そうでなければ・・・・・『終わらない』。」
――――――――それは?
「『レジェンドホーリー』の『余波』はまだ残っている。」
周囲を静かに見渡して。
「このまま放置すれば、『全て』を消滅させ『続ける』だろう。――――――永遠、に。」
『余波』で、それほどの威力を持つのか。
「だが、『仕掛けた者』を『消せ』ば、『余波』もまた自動的に消える。」
『 ・・・・・・・・!自分を『消させる』というのか?! 』
「『道』は、1つ、だ。」
ふと、その視線を落とす。
「あの時に――――――『光の檻』に入った時に、私は『死んだ』。」
心の傷は、今もなお。
「偽りの命、偽りの『時』・・・・さすがにもう、『疲れた』。・・・・『眠りたい』。」
長い、長い『時間』。
たった1人で渡り続けた『時』。
『 ・・・どうしても、というなら、私のところに来るがいい。・・・我が「時の迷宮」へ。 』
思いがけない言葉に、さすがに驚いたような目を向ける。
『 お前の「魂」、この私が引き受けよう。――――――もう「独り」にはさせぬ。 』
『時の魔女』もまた。
ただ独り、『この世界』に連れてこられた存在であるが故に。
その魂を染め抜く『永遠の孤独』を思っていたのか。
「・・・ありがとう。その『心』だけ、受け取っておく。」
『 「来ぬ」、というのか? 』
「行く行かないの問題ではない・・・『行けない』のだ・・・・。」
『 何故だ?! 』
「・・・・ありとあらゆる物質は、その微細な粒子の運動によってエネルギーを発生させている。」
いきなりそんな事を言われても。
おそらく理解できるのはファイただ1人。
「その動きが『止まれば』、熱量は発生しない。・・・そこは『絶対零度の世界』となる。」
ありとあらゆるものが凍りつく、その温度。
「『レジェンドホーリー』は、発動のためにその術者を『護る』。・・・だが。」
周りの空気が、ざわざわと。
「その消し去る『対象』は、『あらゆるもの全て』・・・人も、モノも、『魂』さえも。―――――そして―――――。」
その『チカラ』、究極なりしもの。
一切を消し去る、最強の『消滅魔法』。
「術者の周りの『時』をも消滅させる。――――――『時間』が消えれば『動き』は止まる――――――。」
答は。
現実がそれを如実に示すと。
凄まじい音を立てて。
巨大な氷壁が出現し、周りのもの全てをその厚い氷の中に押し込めていく。
『時』を消されたが故に、全てが絶対零度の世界に転じて。
壁も。
柱も。
空間も。
見る見るうちに氷に覆われていく。
そして。
――――――――白き翼の、彷徨い人も。
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