消し去る「チカラ」・消えゆく「モノ」   




『消す』のは、『消される』モノよりも『上位』のモノ。
『チカラ』強きモノ。
『心』強きモノ。


我は問う。
――――――――汝、『強き』モノなるか?


―――――――――――――― * ―――――――――――――


「送って!オレを、今すぐ、『そこ』へ!!」
ファイの叫びに呆然とただ見つめていた意識を取り戻す。
「ファイさん?!」
「時の魔女さん!できるんでしょ?!早く!!」
『 何の為に? 』
「決まってるでしょ!!助けるんだよ!!リアンさんを!!」
『 ・・・・・・・それは、無理だ。 』
その声は、苦悩の色。
『 ・・・見るがいい。セレスの魔術師ウィザードよ。 』
声に伴って、氷の一部に微かな光が当てられる。
じっと見つめて。
小狼は、思わず声を上げた。


「氷が、『消えて』いく?!」


じわじわと。
それは、『溶ける』のではなく。
『消滅』していく。
《 『レジェンドホーリー』の『余波』か!! 》
護るべき術者をも消し去らねば、『永遠』に『消滅させ続ける』、恐るべき魔法。
もし、『消滅させられ続けた』ら。 ――――――――その、行く先は?


『 捨て置けば、「ブラックホール」となるだろう。 』
「『ブラックホール』って・・・・・?」
サクラには、解らない。
小狼は、義父と巡った国々の中で、そういう学問があったのを思い出した。
「・・・確か・・・・『何もかもを吸い込み、破壊する空間』・・・・?」
厳密には違うのだが、今の彼らにはそんな些細な事はどうでも良かった。
要は、その『効果』に問題があるのだ。


『消滅』の『永続性』。


『魔道宮』を含む『世界』は今、『消滅』の危機に瀕しているのだ。
「そうはさせないよ!『レジェンドホーリー』の『余波』はオレが『消す』!」
「えぇ?!」
その発動条件から鑑みて、たとえ『余波』といえども、『消し去る』事は容易ではあるまい。
出来るというのか。
いや。
自ら『為す』というのか。
『究極にして最強の消滅魔法』の『余波』を『消し去る』という事を。
「でも・・・ファイさん、それほどの魔法を使うのは・・・・。」
彼が己自身に課した禁忌ではなかったのか。
確かに、レコルト国などでも使いはしたが、それほど大きな魔法ではなかった。
しかし、今度はそんな甘い事は言っておれないだろう。
「・・確か・・・・『気付かれる』って・・・・。」
彼方の、故郷の『何か』に。
『追われているから逃げ続ける』、とかつて自ら語っていた。
小狼は思い出していた。
『魔物の国』で。
辺り一面を埋め尽くす魔物を一掃する魔法を『使わない』というファイに対して。
リアンは言ったのだ――――――――。
「・・・気付かれるのか。」
と。
あの時のファイの表情は忘れられない。
驚愕に、そして冷たい猜疑に満ち満ちて。
完全に我を失い、取り繕う事を忘れたその一瞬を、小狼は見てしまっていた。
己が張り巡らせた防御壁を一瞬で崩された、その顔を。
「小狼君、オレだってね。」
かすかに自嘲の色をも滲ませて。
ファイは笑った。


「『オレにしかできない事』なんだから、『オレがやる』の。『やるって決めた』事なんだよ。」


もはや、誰も口を挟む余地はないだろう。
その決意。
その信念。
その誠を、如実に見せて。
白き魔術師ウィザードは、この上も無い微笑みを浮かべた。
それは、とても満足そうで。
そして、自信に満ちて。


『 ・・・後悔はせぬな? 』
「後悔なんてものは、先にするモノじゃないし、したくてするモノでもないでしょー?」
『 ・・・・解った。 』
「『時の魔女』さん!私も行きます!!」
「姫?!」
皆は驚いてサクラを見た。
その目に、決意の光を浮かべて。
『 何故お前まで来る? 』
「『私にできる事』が、何かあるかもしれない・・・・それに・・・・。」
サクラはきゅ、と手を握り合わせた。
「・・・会いたいんです・・・・。」
その言葉にかけた、『想い』は。
『 ・・・たとえ言葉を交わす事無くとも、か。 』
その言葉が示す意味を悟って、サクラは肩を震わせた。
だが。
「・・・・はい。」
決心は、揺るがない。


私は。
『あの人』に会いたい。
会って、届かぬまでも、せめて語り掛けたい。
――――――――ありがとう、と。


『 ・・・どうせ、皆も行く、と言うのだろう? 』
見抜かれたと知って、皆から苦笑が洩れる。
「こんな所に置いてきぼりはごめん蒙りますわ。ねぇ?お姉さま?」
「全くだ。此処まで関わったのだ、最後まできちんと見届ける義務と権利が有ろうというものだな。」
うんうんと頷いて、天照が肯定する。
『義務』は無いのでは、とツッコミを入れかけて小狼は慌てて口を押さえ。
蘇摩は危険だと言いかけて、それを制されてオロオロするばかり。
『 ・・・お前も、来る・・・な? 』
その問いは、黒鋼に。
黒鋼は静かに頷いた。


会いたい。
会って、この手に取り戻したい。
たとえ――――――――物言わぬ存在となっていようとも。
せめて。
葬るべき『身体』が『無い』のは、とてつもなく哀しい事。
そう――――――――『父』のように。
だから、もう一度。
――――――――この手、に。


だが。
その『ネガイ』は。
『 何度もいうが・・・・この私を怨んでくれるな。私にも、「出来ぬ」事なのだからな。 』
それは――――――――。
『取り戻せない』、と。
「人間はね・・・『無限の可能性』ってのを持ってる生き物なんだよ。」
ほんの少し、凄みを添えて。
ファイは言った。
「『人間』を過小評価しないでよね・・・・そして、『オレ』の事も。」
『 「過小評価」したつもりは無いが。 』
「ま、とにかく・・・・『連れて行って』よ。・・・オレ達、皆を。」
ため息をついたような気配がして。
皆は不可思議な『気』に包まれた。


いざ赴かん、全てを消し去る『チカラ』の許へ。


そして。


『あの人』の――――――――許へ。


―――――――――――――― * ―――――――――――――



何もかもが『消えて』いく。
まさに未曾有の危機にさらされた、世界。
『魔道宮』を含むこの世界に、皆は降り立った。
「?!」
何も、無い。
真っ暗な、闇のみが。
無限の深遠が横たわっている。
『 「レジェンドホーリー」の「余波」が『消した』跡だ。 』
これほどの威力とは。
目の当たりにして初めて認識される、その『チカラ』。
「・・・・・・・・・・・・。」
さすがのファイも言葉を失った。
まさか。
本当に『何もかもを消す』とは。
まさに、究極の消滅魔法。
時の彼方に封印されたのも、むべなるかな。
『 皆の「立ち位置」に付いては確保しよう。・・・それくらいなら、構築は可能だ。 』
立つべき『場所』が存在しないのだから。
スッと、足下に確たる存在が感じられた。
ふう、と安心したようにため息をつく。
「大丈夫ですか?姫。」
「うん、大丈夫。」
小狼とサクラの会話を聞き流しながら。
黒鋼は、ただ気配のみを探した。


――――――――何処に、居る?


ふと、感じて。
『そちら』に向けて、歩み始めた。
皆もそれに続く。
「黒様、この『先』?」
ファイの問いかけに、頷いてみせた。
『気配を辿る』事に関しては、黒鋼の方に一日の長がある。
やがて、何か建造物のようなものが見えた――――――。


「・・・・!!」


まさに、脱兎のように。
ファイは駆け出した。
(しまった・・・・!)
思い至らないわけではなかったのだが、無視してしまっていた。
(間に合ってくれ・・・・!)
「ファイさん?!どうしたんですか?!」
小狼の叫びに、思わず声を荒げてしまう。
「時間が・・・時間が無いんだ!!」
「えぇ?!」
「『時の魔女』さんが見せた映像ビジョンと、『今』とに、時間差があるんだよ!!」
「!!」
間に合ってくれ。
この『想い』よ――――――――『願い』よ、届け。
届いてくれ。
かの人、に。


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この世界が、これほどまでに『無』と化しているのも。
『レジェンドホーリー』の『余波』が消していった事に他ならない。
ならば、『これだけの物を消し去るだけの時間』がすでに経過している事になる。
この世界の『時間』の進み方は不明だ。
だが、リアンが魔界に連れ去られてから『現在』まで、日本国の時間で3ヶ月が経過している。
当然この世界でも。
『レジェンドホーリー』が発動してから、幾ばくかの時間は経っているはずだ。
その間、『余波』は世界を消し続けているはず。
――――――――仕掛けた術者に向かって。


(油断してた。)
悔恨の念がファイを苛む。
(『時間』が甘いものじゃないって事くらい、解ってたはずなのに・・・・!)
魔術師ウィザードは、長い長い時間を生きる。
かつてリアンの事を『時の魔女』だ、と教えた時、『次元の魔女』もまた、そう言った。


『 私たち魔術師ウィザードは、長い時間を「生きる」から――――――。 』


しかし、それが時としてとてつもない『苦痛』であることは、ファイ自身が一番よく知っている。
それは。
『時間』の持つ『残酷性』。


そこに『情け』などという甘いものは存在しない。
『余波』は容赦なくその牙を『あの人』に向かって突き立てるだろう。
己自身を発動させた、『術者自身』であるところの『あの人』に。
そして『消し去る』のだろう。
一欠片の感情も持ち合わせずに。
それだけは。
何としても阻止しなければ。
そして――――――――それが『出来る』のは、他ならぬ、自分だけ。


(オレがやらなきゃならない事。)


もう譲らない。
もう振り返らない。
やると決めた事。
己の本分を全うするだけの事。


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闇ばかりの、『無』の空間に。
見えてきたのは。
数本の柱。
壁らしきもの。
それは『宙』に浮いて。
――――――その『周り』が既に『消滅』していることを如実に示して。
そして、その中心に。
「・・・居た!!」
微かな光を受けて煌く、『氷』。
その厚い塊の中心には――――――――。


「・・・・良かった・・・・。」


間に合った、と。
白き魔術師ウィザードの思惑を知ってか知らずか。
その背に白き翼を広げて、天使が『そこ』に居た。
氷の中にその『時』を止めて。
その顔に、苦悶の色は見えない。
何処か安心したように。
何処か諦めたかのように。
そして――――――どこか、哀しそうな色さえ感じさせて。
全てを受け止め、自分のものとして帰着させようとした。
何もかもを。
せめて――――――――。
その一端なりとも支えられないものか。
ただ独りで辿る黄泉路を照らす事ぐらいは――――――もしかしたら。


「どうして・・・・・。」


貴女は、そんな。
安らいだ顔をしているんですか。
声にならない問いを呟いて、サクラは思わず手を差しのべた。
聞きたい。
声を。
――――――――答を。


「駄目だ!!サクラちゃん!!」


ファイの叫びにはっとして、その手が止まる。
ほぼ同時に肩を掴まれて後ろに引き戻された。
「・・・ファイさん?!」
「触っちゃ駄目だ!君まで『消えて』しまう!!」
「!!」
氷の表面は、『余波』に覆い尽くされているのだと。
『見えない』が故に、思い至らなかった。
目を見開いて、『氷』を、『封ぜられた人』を見遣る。


「・・・・消えた?!」


皆の目の前で『柱』が消えていく。
『余波』はその勢いを減じることなく、『消滅させ続けて』居た。
しかも『消す』相手が少なくなった分、スピードは増しているようだ。
また1つ。
『柱』が消えた。


「もう、待てない!!」


ファイは魔法杖を構え、一気に念を練り上げた。
氷塊を囲むように。
四方と上下に、あわせて6個の魔法陣が展開する。
そしてファイと氷塊を含む空間にも、もう一つ、大きい魔法陣が出現した。
その身体からは、白いオーラが立ち上り、辺りに氷の粒が乱舞する。
それは、その急速さを如実に示して、軋みすらあげていた。


「・・・・ファイさん?!」


皆はファイが魔法を使う所を『3回だけ』見ている。
旅を共に始めて以来。
正確には『4回』使ったのだが、その『1回』はリアンと共に閉鎖空間を展開したときのものだ。
皆は、その場には『まだ』居なかった。だから実際には『見ていない』。
使った所を見た時も、サクラが『ツバサのチカラ』を使ったときの『補助』は、実はその殆どを雪兎神官に任せていた。
レコルト国で使ったのは、『別系統の魔法だ』と言い切った。
だから比較的強く、『自分自身の魔法』を使ったのを見たのは、『あの男』の所で――――――――。
封印が解け始めた小狼に対して使った時だけだ。
しかし、あの時は、今はもう消滅してしまった『もう1つの写し身』である所の『シャオラン』に、途中で阻まれている。
だから、『完全な形』で、しかも強いチカラでの発動を見るのは、これが初めてと言っていい。


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『戦う姿』が『美しい』、という表現が許されるのは、実はほんのごく一部の者にのみ与えられた特権といっていいだろう。
もちろん、『美しさ』にも色々ある。
黒鋼の『美しさ』は、その流麗にして正確な剣捌きと無駄の無い動きにある。
小狼のそれは、『躍動美』とでも言おうか。
(リアンさんのは、『美しい』というよりは、『神々しい』っていうか、『近寄りがたい』って感じだけど。)
ぼんやりと小狼が思考をめぐらせる。
(でもファイさんのは・・・・・。)


それは、『真の意味』での『美』。
言うなれば、『華麗』にして『典雅』。
紡がれる呪文は、天上の音楽に比しても何ら遜色なく。
その動きの一つ一つが洗練されていて、高貴さすら醸しだす。
その金糸の一筋一筋が、煌く白きオーラに光り輝いて。
無数に辺りを舞うダイヤモンドダストに、その煌きを零す。
氷のカケラが光を弾いて奏でるハーモニーは、聞こえないようで、しかし確かに響き渡り。
不謹慎だと解ってはいても、皆は思わず陶然として見惚れた。


目の前に在るのは。


美しき氷雪の魔術師ウィザード


稀代なる『チカラ』をその身に有し。
若くして闇の王国たるセレスの王位継承者としての地位を確たるものとし。
『闇の御子』の二つ名を欲しいままにした。


そして――――――――。
主たる王を自らの手で封印し、次元を渡り続ける彷徨い人。
己自身の影に怯え、『連れて行ってくれる誰か』を求めながら、自らその手を拒み続けてきた孤高の人。


今、その『チカラ』を、誰でもなく、『他人』のために。
遣う事を厭わなくなった――――――『旅』で変わった、その『心』。
その『全て』をかけて。
その『想い』のたけを込めて。


氷を囲む6つの魔法陣が、摩訶不思議な光を放ち。


凄まじいレベルで『魔法』は発動した。


『最強』の『消滅魔法』の『余波』を『消滅させる』ために。


――――――――『自分がやる』と『決めた』事を為す為に。





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めっちゃめちゃ苦しかった・・・・・!!

えらく間が空きました。その割には・・・・ごにょごにょ・・・・。
『ファイをこき使う』と決めたものの、それは『魔法の発動』以外にはなくて。
一旦ほぼ書きあがったものを、半分以上一気にボツりました。
『私が書きたいファイは、こんなのじゃない!!』って。^^;
本当はもっと長いんです・・・・でももう頭が此処で切れ、って言ってる。(笑)
これ以上このテンションで書き進めたら、この『時の翼』、方向がかなり違ったモノになってしまいそうです。
それもアブナイ方向に(大汗)
だから、ちょっと小休止して落ち着かせます・・・・私を。(爆)


裏話、小ネタはこちらから。

               作者・シュウ    2006.09.19UP

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