「ツマミ食いしないで下さいね。これは子供たちの分なんですから。」
「って、言ってるそばからツマミ食いしてるし!!」
「ダメだって言ってるでしょーっ!!」
『ミセ』の台所で怒声が響き渡る。
「四月一日のけちー!」
「四月一日のけちー!」
「けちー!」
「けちー!」
「そこ!合唱しない!!」
怒鳴りながらも、その手は休めない。
「そんなにいっぱいあるんだったら、1つぐらいいいじゃないー。」
「『1つ』じゃ済まないでしょ!!」
があぁぁっ!!と。
吼える傍から小さくラッピングされたお菓子の山が出来ていく。
それを順に手提げの紙袋に入れて。
たちまち10個以上の袋が出来上がった。
「さて・・・と。次!!」
「何々?!まだ作るの?!」
「目をキラキラさせてもダメですっ!!」
彼は何処まで『いじられキャラ』なのだろうか。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
私立十字学園にほど近い駅前商店街は、お祭騒ぎだった。
「ハッピー・ハロウィン!!」
そこかしこに露店も出ている。
子供も大人も、嬉しそうな顔で。
店先でこう叫ぶのだ――――――――――。
「トリック・オア・トリート!!」
「お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうよ!!」
それを聞くと、店の者もニコニコして、あらかじめ用意されたお菓子の袋を手渡すのだ。
もちろんその店独自の工夫が凝らされている。
和菓子屋だったらおせんべいとか。
洋菓子店ならクッキーとか。
文房具屋は鉛筆型のチョコで。
タンス屋は匂い袋つきの飴玉で。
銀行はコイン型のチョコだったり。
郵便局は切手型のガムだったり。
それは色々、千差万別。
そして十字学園の露店は、黒山の人だかりが出来ていた。
「このクッキー、凄く美味しい!!」
「お菓子をくれなきゃ暴れちゃうよ!!」
「わぁ!!待って待って!皆1個ずつだよ!!」
もちろん1番人気は、四月一日のクッキー。
それが貰えなくて、べそをかく子まで居る。
当の四月一日は。
『急いで追加を!!』という校長命令で、学校の調理室で奮闘していた。
「ハイ!これ焼き上がり!!」
「了解ー!!すぐに袋に詰めるわ!!」
「ひまわりちゃんが詰めてくれるんなら、最高のクッキーだよ〜〜〜!!」
既にへにゃへにゃとしている四月一日に、『早く次を作れ。』とミョーに冷静な百目鬼の声が降る。
「解ってるよ!!百目鬼のクセに!!」
がーっ!!と吠えて。
四月一日は次のクッキーの生地を作り始めた。
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「お疲れ様〜〜〜〜!」
日もすっかり暮れて。
ようやくイベントは終わった。
「四月一日君、お疲れ様!大人気だったね!!」
「クッキーがな。」
「やかましい、百目鬼!!」
漫才を繰り広げつつ。
「何か食べて帰ろうっかな〜。四月一日君もどう?」
ひまわりが誘うと。
珍しく四月一日は躊躇した。
「あ・・・うん・・・ありがとう。でもちょっと行かなきゃいけないところがあるんだ。」
「え?」
「ごめんね・・・また今度!お疲れ!!」
走っていく後姿を呆然と見送る。
「あいつが九軒の誘いを断るなんて、嵐になるんじゃないのか?」
「・・・何があるのかな?」
顔を見合わせて。
お互いに何を言うこともなく、四月一日の後をそっと追いかけた。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
「ふう・・・・・すっかり遅くなっちゃった。」
駅のコインロッカーに預けていた袋を取り出す。
そのまま走り出した――――――――――家ともミセとも違う方向に。
そして、たどり着いた先は。
「・・・みどり園・・・・?」
四月一日が入っていった後で、表札の所へそっと近づいたひまわりは、その文字を読んだ。
「百目鬼君、ここ知ってる?」
「いや・・・・あ、待てよ、前に・・・確か。」
記憶を掘り起こす。
「・・・・肢体不自由児の訓練施設、じゃなかったか・・・・?」
窓からそっと覗いてみた。
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
ひまわりの目に、涙が浮かんで流れていく。
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「ハッピーハロウィン!!さあ、合言葉はわかってるかな?!」
覗き込むように、ミイラ男が問いかける。
その背中には、サンタクロースのような白い布袋。
「と・・・とり・・・・・。」
「何だあ〜〜〜?聞こえないぞぉ〜〜〜?」
オーバーアクションで耳に手を当てる。
『車椅子の少年』は、声を振り絞った。
「・・ト・・・『トリック・オア・トリート』・・・・・!」
「OK!合格だ!!」
オーバーな身振りでミイラ男は背中の袋からクッキーの袋を取り出した。
それは、昼間配ったのよりも、ひと回りは大きい。
「イタズラはごめんだ!!お菓子をあげよう!!」
「あ・・・ありがとう・・・・!」
「おお!ちゃんとお礼が言える、君はいい子だな!!」
頭をなでなで。
にっこり笑って。
移動ベッドに寝たままの子に向き直る。
「こっちの子は、『いい子』かな〜〜〜?」
「もちろん!!『トリック・オア・トリート』!!」
「よし!イタズラされちゃかなわないからな!!」
クッキーを手にして。
「ありがとう!!」
「OK!君もいい子だ!!」
次々と子供たちに配っていく。
彼らのように動きを制限される子達は、あの喧騒の中には入っていけないだろう。
それと知って。
『ミイラ男』の方から配達に来たのだ――――――――――。
「『彼』は毎年、ああやって来てくれます。」
窓に張り付いていた2人の背後に、白髪の老人が立っていた。
「ここにいた子と以前彼が親交があったとかで・・・・それ以来、毎年。」
「そうだったんですか・・・・・。」
あれほど独楽鼠のように動き回っていて疲れただろうに。
四月一日にとっては、これは大事な『約束』。
「私、四月一日君に入浴剤プレゼントするわ。」
風呂で疲れを癒せるように。
「じゃあ俺はシップ薬にするか。」
きっと手も足も棒のようになっているだろうから。
空には皓々と満月が白い光を投げかけていた。

   
  
  
  

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