空が――――――――割れた。
「黒様・・・・・。」
「凄まじい殺気だ・・・・。」
刀の鍔を外しながら呟いた、その言葉。
そう。
オレにだってわかる。
その、禍々しさ。
『空の裂け目』からあふれ出すかのように感じられる、その『異常さ』。
(危機が近づいている・・・・。)
これがオレ達に向かってきているのなら、まだ良い。
黒様は信頼できるだけの『腕』を持っている。
オレは――――――――そう、オレだって、その気になれば――――――――。
「――――――――え?」
「――――――――これは?!」
『これ』を、オレ達は知っている。
「『移動』するのー?!」
モコナの『次元移動魔法』の風だ。
でも、モコナはいない。
言葉が通じるから、そんなに遠くではない事はわかってる。
(離れた所にいるオレ達も移動させる事ができるの・・・・?)
実際、『風』はオレ達を包み込んで。
確かに次元を越えていく。
「?!」
一瞬――――――――小狼君たちが見えたような気がしたけれど。
移動中では確かめる術は無い。
(・・・・ちょっと待って・・・・?)
こういう時、『チカラ』のある魔術師っていうのは損なような気がする。
それは――――――――判ってしまうから。
「『時間』を――――――――越えている・・・・・・。」
(まずいよね、実際。)
黒様に時間移動のことを話してもおそらく解っちゃくれないだろう。
小狼君やサクラちゃん達と会えるかどうかすら怪しくなってきてしまった。
(どうか『同じ時間』に落ちてくれ・・・・。)
『ネガイ』とは。
虚しくも、希望の光を持つ、蛍火のようなモノ。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
『風』が吹き止んだ。
「・・・移動終了ってトコかなー?」
傍らに忍者の気配を感じ取ってファイは呟いた。
これ以上メンバーがばらばらになる事だけは避けられたようだ。
血の匂いもしない。
つまり、怪我は無い。
いわば万全に近い状態であると言う事。
「此処、何処だろうね〜〜?寒くはないみたいだけどー?」
今自分が着ているのは、陣社の蒼石が用意してくれた服だ。
着方が解らなかったが、黒鋼が教えてくれた。
『日本国の服と似ているのー?』と問いかけた時、複雑な表情を見せたのは。
『必ず帰る』と心に定めながら、今なおそのネガイは叶えられず、ただ旅の空に歯噛みするのみ。
そんな忍者を知っていればこそ、その胸中も推し量れるというものだ。
「見たこともない風景だけどー・・・?」
答が、と言うよりは『いつものツッコミ』が無いのに気が付いて。
聞こえなかったのだろうかと黒い影を見遣る。
確かに、そこに居るのに。
(?)
何か、違う。
(何だろう?)
言い知れぬ不安が過ぎる。
それは、現実となって。
「――――――――。」
確かに、『言った』。
しかし。
「・・・ごめーん、黒様〜〜、『何て言った』の?」
いつものように、軽い口調で問う。
その、答は。
「――――――――。」
怖れていた事が、現実になってしまった。
「モコナが近くに居ないんだ・・・・・・・。」
言葉が通じない。
オレが話すのは、もちろんセレスの言語。
そして黒様は、日本国の言語。
もとより本来は相通ずる所など全くといってもいいほど存在しない言語体系同士だ。
それをモコナが自動翻訳してくれていた。
しかし、今。
モコナは、居ない。
「・・こりゃあ、参ったねぇ・・・・・。」
オレの呟く、その意味はわかったのだろうか。
気配が眉を顰めたように思えた。
ふと、空を仰げば。
(此処にも月・・・・・・。)
上りゆくのか、沈みゆくのかは判らないが、中天から外れた位置に月はあった。
その月は、薄い雲にその面を隠している。
雲が流れ。
月の光があたりを照らした――――――――。
「・・・・・黒様・・・その目!!!」
何という事だろう。
あの紅玉の瞳が。
ゆるぎない信念と、滾り立つ炎を秘めた、あの瞳が。
「――――――――黒くなってる!!」
黒曜石と化した、その瞳は。
彼をまったくの別人に見せる。
何処か落ち着いて、しかし、何処か不安にさせて。
そして、彼もまた。
オレを指差して、やはり驚愕の表情を浮かべて何かを叫んでいる。
(・・・もしかしたら。)
――――――――オレも?
彼も悟ったのだろう。
愛刀の蒼氷を少しだけ抜き、その煌く刀身に己の顔を映して――――――――やはり愕然としている。
オレ達の『目』は。
闇の色に転じてしまった。
(これは一体どういうことなんだろう?)
その『理由』がわからない。
黒くなってしまう理由。
黒くならなければならない理由。
いつもなら、とりあえずは一緒に考えてくれそうな彼は、今は何の助けにもならない。
声は。
虚しく『音』となって流れるのみ。
これから。
オレ達は、どうしたらいいのだろう。
頭を振って、考えをまとめようとしたオレの耳に。
蹄と思しきモノの音が届いた。
それも複数。
そしてそれは、今此処に居るオレ達への猜疑の心を乗せて近づいてくるのだった。
|