「――――――――。」
やってきたのは多くの騎馬。
(いや・・・『騎馬』じゃないよねえ?)
どちらかと言えば、ドラゴンに近いような感も受ける。
翼は無いようだから、『地竜』の類いなんだろうか。
それに乗っているのは、おそらくは、兵。
全員何がしかの武装をしているみたいだ。
黒様のように刀らしき物を持っていたり、槍を持っていたり。
弓矢も居るし、鎖鎌みたいなのも居る。
たった今戦場から帰りました!と言う感じではないけれど。
(臨戦態勢であるのは確かだよね。)
今すぐ、と言われてもすぐに戦場に駆け込めるような。
この世界は。
(戦争真っ只中・・・って事かなー?)
今までになく危険な世界である事だけは確かなようだ。
問題は。
これから『自分たち』が『どう存在すべきか』という事。
まず『言葉』が通じない。
意思の疎通が図れなければ、自分たちの置かれた状況を説明するのは難しい。
(ましてや、『次元と時間を越えてきた』なんて。)
頭がおかしいと思われるのがオチだ。
いやむしろ。
そう思ってくれる方が有り難いくらいだろう。
いつもなら、率先してコミュニケーションを図る自分だが。
今回は。
その足が出なかった――――――――。
「――――――――。」
(え?)
自分が見、聞いた事が信じられなかった事には。
『黒鋼』が、兵士たちと『話をして』いた。
自ら、進んで。
普段は『面倒くせぇ!』の一言で全てを無視する彼が。
――――――――何故?
(・・・・・・あ。)
もしかして、と思い当たった。
(黒たん・・・・・言葉『通じて』いる?)
自分にはわからない『言語』―――――それはもはや『音』でしかないが―――――は黒鋼には理解できたようだ。
『日本国』の言語に近い言語体系を持っているのだろう。
(ここは完全に任せた方がいいね。)
ファイは、此処はでしゃばらない方が良い、と判断した。
そしてそれは実に賢明な判断だった――――――――黒鋼は兵士たちに後にこう説明していたのだ。
「俺の名は、黒鋼。こいつはファイ。まあ見てのとおり、こいつは口がきけない。言葉の理解もいささか足りん。」
考えようによっては、『エライ言われよう』であり、『とんでもない大嘘』であるのだが。
この後実に半年の長きに亘ってこの国に逗留する事になったのだが。
この2人が、ある意味『平和』に存在できたのは、このハッタリのおかげだった。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
後から黒鋼に聞いた所によると、『とても涼しい声』であったそうなのだが。
兵士たちの後方から投げられた『音』――――――――『声』があった。
責めるでもなく、脅すでもなく、ただ平静に誰何するのみであったと。
その『音』の主は。
騎竜の背に一際気高く。
漆黒の長い髪を揺蕩せて。
見ようによっては女とも見紛う美しき容貌の、黒き人。
その名は。
『夜叉王』。
その名の通り、この国の王であったその人は、黒鋼と一言二言言葉を交わした。
(・・・・・・・・・。)
何だ、この『気配』は。
この王から感じられる、この『気』は?
見れば黒鋼も同じように感じたのだろう。眉間に皺を寄せてこちらを見ている。
(これは・・・・この『王』の側に在った方が良いんだけどな?)
できれば。
でも、あまりにも不審な『侵入者』であるオレ達を、王の側においてくれるだろうか?
同じ事を黒鋼も考えていたのだろう。
何事か交渉しているようだ。
『王』は黙って聞いていたが。
やがて、ふわり、と笑い、騎竜の頭を回らせた。
その所作から、黒鋼の言葉が受け入れられたのだと知る。
なにやら抗議めいた『音』を聞き流し、漆黒の王は歩み去った。
兵たちがそれに続いていく――――――――。
「――――――。」
何か『音』が聞こえて。
黒鋼がこっちを、あの闇色の目で見つめていた。
そして、ぐい、とオレの腕を掴んで歩き出した。
(ついてこいって事だね。)
どう話したかは知らないが、王の許に在る許可を得たようだ。
それならば。
あの『気配』の真偽を確かめる事も、可能。
(黒様、やるじゃん。)
ほんの少し、黒い忍者を見直して。
ファイは眼前に聳え立つ『城』に目をやった。
(――――――――ここで、確かめなければ。)
予見のある程度できる魔術師なればこそ。
その蒼き双眸に、妖しい光すら宿らせて。
ファイは黒鋼に続いて、静かに城門をくぐった。
夜魔の『月』は。
どこまでも、冷たい光を放っていた。
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