〜黒曜の章〜
          < 3 >




とりあえず。
(変わったお城だね。)
これが、第1印象。
普通『城』とくれば、『最低条件』的なものが幾つかある。


『大広間』とか。
『多くの侍女や侍従達』とか。
『きらびやかな装飾』とか。
『どこか華々しい音楽』とか。
『着飾った貴婦人』とか。


それが――――――――『無い』。


いわゆる『悪魔の城』でも、もう少し賑やかなのではないかと思えるほどに。
そこは、『静か』だった。


この夜叉王が、『静寂』を好むのか。


(・・・違うね。)
何となくだが、判る。
これは王の『好み』によるものではない。
王の持つ『気』が、そうさせている。
(あの『気』・・・・・・・。)
確かめなければ。
あの『気』の――――――――『正体』、を。


「――――――――。」


何事か『言われ』て、はっと顔を上げた。
黒りんが眉間に皺を寄せて手招きをしている。
此処まで案内してくれた兵士と何か一言二言交わして。
部屋の中に入っていく。
(この部屋?)
ひょこっと覗けば。
(・・・・あらー・・・・これは・・・・・。)
そこは『武器庫』だった。
所狭しといろいろな得物が置かれている。
黒りんが自分の顔を指差し、『蒼氷』を指した。
次にオレの顔を指差し、その手で部屋の中を指差す。
(オレに『得物』を決めろって事だね。)
どうやらオレ達は、この城で『兵士』として存在する事になったらしい。
たぶん戦争があって、人手が欲しいのだろう。
当然『戦うチカラ』が必要だ。


(・・・さーて・・・・・どれにしよう?)


あまり『戦う』のは本意ではないけれど。
この場合、『致し方ない』というところか。
(『人殺し』はしたくないんだけどな。)
黒りんもそのはずだ――――――『しゅ』の事、彼は決して忘れてはいない。
だとしたら、たとえ戦場といえど、相手を『殺さない』はず。
もちろん完膚なきまでに叩きのめすだろうけれど。
となると、オレも同じ程度のレベルで戦う必要がでてくる。


殺さないように。
しかし二度と立ち上がれないように。


きょろきょろと見渡して。
『棍』が目に付いた。
(うん、これなら。)
当たり所が悪いとさすがにヤバいけど、そこは巧くする自信がある。
しかし見ていた黒りんは首を横に振った。
(えー?・・だめかあ・・・・・・。)
いわば戦闘のプロともいうべき黒りんに首を横に振られては、諦めるしかない――――――――。
仕方なくもう一度物色する。
刀は、最初はいいけれどすぐに『重く』なる。
(多少は鍛えてるけど、黒様ほど鍛えてないし・・・・・。)
『槍』などもそうだ。
それを考えたら、『棍』も遣うには不向きだったかもしれない。
キラ、と何かが光った気がして。
そちらに目をやれば。
(・・・・・『弓』・・・・?)
手にとって見る。
光ったのは弦らしかった。
じっと見ていると、黒様がひょい、と横から手を伸ばして横取りする。
(あ・・・・・。)
また首を横に振るのか、と思っていると、ビン、と弦を弾いたりしている。
(?)
傍にあった他の弓と取り替え、また弾く。
何をしているのか、と思ったが。
ふと『音』が違うのに気付いた。
(これは『高い』・・・・さっきのはもっと『低かった』。)
弾いている力は同じように見受けられる。
だったら『音』の違いは『弦』の方に原因がある。
(あ。)
そうか、と思い当たった。
(弦を張っている『強さ』の差だ。)
弱く張れば音は低く、強く張れば高い。
張り方の強弱は音の高低、そしてそのまま威力の高低に繋がる。
しかしそれは同時に必要とする力の強弱をも示す。
どうやらオレに最適な弓を探してくれているようだ。


「――――――――。」


何事か言って。
選み出した一張りの弓をオレに差し出した。
(オレに合った弓って事かな――――――?)
ビン、と弾いてみた。
何だか心地よい音がする。
『弓の心』のようなものが、オレに向かってくるような。
(よろしくね。)
そっと心の中で呟いた。




―――――――――――――― * ―――――――――――――


「――――――――。」


また何か黒様が言っている。
本当に言葉が通じないってもどかしい。
手招きされたので、尾いていく事にした。
兵士が案内してくれたのは、少し広い場所。
向こうの壁に黒と白で塗り分けられたダーツの的のようなものがある。
黒りんがオレの弓を手に取り、矢を番えてみせた。
そのままキリリ、と弓を引き絞る。
一瞬、あたりの『気』が変化したような気がした。
いつもの刀を振るう時とは違う。
もしかしたら。
使う武器によって、黒様の『気』は変化するのかもしれない。
一瞬でくうが裂かれ。
矢は狙い過たず的の中心を射抜いていた。
(ほ〜〜〜凄――――――い・・・・。)
さすがは忍者。こういう武具の扱いには長けているのだろう。
ぱちぱちと手を叩けば。
くるり、と振り返ってオレに弓を突き出し、続いて矢を渡す。
(オレにもやれって事だね――――――?)
受け取り、さっき見たとおりに矢を番える。
(たしか、こうやって・・・・。)
弓を――――――――。
(・・・・あれ?)
自分でも判らないのだけれど。
弓が『引けない』。
(何で?)
黒様は軽々と弓を引いた。
そんなに強い弓を選んだとは思えない。
なのに、なぜ『引けない』?
自分でも困ってしまった。
すると。
黒様が背後に立ち、後ろから手を添えて弓を構えさせてくれた。
(教えてくれるのかな―――――?)
そのまま弓をすう、と引く。
(あ。)
力の入れ方が全然違う。
ちょっと矯めたりもする。
(これはコツの問題なんだ。)
だったら簡単。そのコツを覚えればいい。
何となく、だけど身体が理解した。
もう一度。
今度は自分だけでやってみる。
(ほーら、正解・・・・・。)
今度は難なく弓を引く事が出来た。
狙いを定めてみる。
(よし、ドンピシャ。)
自分でそう思ったところで止めて。
バン!と弦から指を離した。
(!!)
放した瞬間。
弓が奔る瞬間。
軸線がブレたのが自分でも判った。
矢は――――――予想に違わず、全然見当違いの方向に逸れ、しかも的に届きすらもしなかった。
(・・・・悔しい!!)
自分でもこれでOK、と思って射たのに。
思惑と現実のあまりの乖離に苦笑いすら浮かぶ。
でも、何となく。
コツはつかめた。
(もう一度。)
ゆっくりと矢を番え、引き絞る。
もう弓を引くのは簡単だ。
あとは、如何にして『的に当てるか』。
(さっきはこうやったらだめだった・・・・・。)
『学習』したことを踏まえて、考える。
矢は直線よりも僅かに放物線を描いているようだ。
ならば、若干上向きで補正する。
弓を引くのも、もう少し強く引いた。
(うん、いい感じ。)
矢の描く線をイメージする。自分としては的のど真ん中に当てたつもりで。
ビシッ!!
(・・・微妙だなー・・・・・。)
的には『当たった』。
でも、端っこの方。
イメージどおりにど真ん中、というわけにはいかなかった。
でもかなり感じが掴めた気がする。
ちら、と見れば。
黒様の目が二重の意味を持っているのに気が付いた。
おそらくは。
『2回目でここまで修正してきた』という感嘆と。
『やっぱりこいつは食わせモンだ』という猜疑と。
どちらの想いにも弁解する事は出来ないから、ここは気付いていないフリをする。
言葉が通じない、という事は。
(もしかしたら、結構便利かも?)
自分という存在を、『見せない』という点で。


そして第3撃で、今度こそど真ん中に的中させる事に成功した。




―――――――――――――― * ―――――――――――――


その後も何本か射た後で。
再び兵士に案内されて連れてこられたのは。
(中庭・・・でいいのかな?)
見れば正面に夜叉王が座している。
何が始まるのか。
黒様が、オレの前に手をすい、と出して遮るような仕草をした。
(ここに居ろって事かな。)
そのまま広場の中央に進み出た黒たんの周りを数十人の兵士が取り囲む。
黒たんの口元が、にや、と笑った。


「―――――――!!」


何事か、声がした。
たぶん『やれ!』とか『始め!』とか、そういった類いの声だと思う。
あっという間に兵士たちは叩き伏せられていた。
(おそらくは。)
オレ達の力量を測ろうとしたんだろう。
(オレはともかく、黒様やっつけたかったら、1個大隊ぐらいでかからないとダメなんじゃないかな?)
チン、と音がして、『蒼氷』が鞘に収められた。
黒たんはテスト合格って事なんだと思う。
倒された兵士たちが引きずっていかれ、代わりに的が沢山設置されていく。
向きも結構ばらばらだ。
(今度はオレの番だね。)
的をじっと見る。
その向き。
その距離。
頭の中でめまぐるしく計算する。
どう射れば。
どの順で射れば。


答えは、出た。


的の数だけの矢を持ってここだと示された場所に出る。
当然『射ち損じ』は出来ない。
(まあ、見ててよ。)
黒たんに、ほんの少し、笑って見せた。


『魔力』は遣わない。
だけど、『戦うチカラ』は遣う。
オレの周りの『気』が、急速に温度を下げていく。


大気よ。
我が意に副え。
我が思うままに、その風、その道、我が力を導け。
我が放つ矢を我が思うままに誘え。


周りにざわめきが広がっていく。
黒たんも目を見開いている。
オレの周りの『気』が絶対零度の風を呼び。
ダイアモンドダストが煌きを零す。
番えた矢に、氷の風が纏わりついた。


『風』が、『鳴った』。


矢は、面白いほど『思うがままに』的を目指していく。
もちろん、魔法で調節したりしているわけじゃないけれど。
全ての的を矢が射抜き、どよめきが起こった。
畏怖をも交えた驚嘆。
本来は嫌気すらするはずのその反応が、何だかとても心地よかった。
見れば、黒様もまた、眉間の皺を増やしている。
夜叉王が何かを言った。
声の調子から推察すれば、おそらくは感嘆の声だったのだろう。
周りの空気も、オレ達を受け入れる風な感じに変わっている。
(オレ達、ここに居ていいって事だね?)
その意を含んで見れば、黒様も頷き返してくる。


居場所は、定められた。
次にオレ達が為すべき事は。


『羽』を見つけること。
小狼君たちと合流する事。


そして。


突き止めること。
――――――――『あの』気配の真実を。




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ようやく出来ました〜〜〜。夜魔ー3です。
すでに1、2の2倍量です。(笑)
でもこれで、視点を変えて書いた分が終了です。
次から本当のオリジナルですね〜〜〜♪


この場面は、4444HITキリリク『金糸の射手』にある部分です。
あっちは黒鋼視点なので、台詞などはそちらでどうぞ。(笑)

               作者・シュウ    2006.12.19UP

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