案内らしき兵士の後ろに黒たん。
その後ろに、オレ。
列車ごっこのように、トコトコトコトコ。
中庭からずいぶん歩いたように思う。
そこかしこから立ち上る、人の気配。
(居住エリアってトコかな。)
やけにむさくるしい男たちの集団。
(・・・あれ?)
そういえば。
(女の人って居たっけ?)
記憶を辿っても、侍女らしき姿は見ていないように思う。
もちろんお妃様なんて存在も。
女性が居ない世界ではないとは思うけど。
そういうことも含めて、ここは『不思議な』処。
「――――――――。」
ニュアンスからして、『どうぞ。』って感じ?
入った部屋は、どうやらオレ達に割り当てられた部屋らしい。
この部屋がすごく高待遇だってのは、後になって解った事。
真ん中に、居間のように仕切られた空間があって。
両端に小さい部屋がついている。
もちろんそこはベッドルーム。
『本当に』独りになれる空間。
共有スペースとプライベートスペースが、それぞれに確保されている。
案内の兵士は一礼して退がっていった。
「――――――――。」
『何か』を黒りんが言っている。
でも、『解らない』。
――――――――少し、困った。
(これからどうしよう?)
オレが言語を習得するのは容易い。
もしかしたら黒様も案外ちゃんとできるかもしれない。(何てったって『忍者』だから!!)
でも。
黒りんは、一番最初にオレ達の事を説明したらしき時に、指を口元に持っていった。
あれは、おそらく、『オレが口がきけない』というゼスチャーだったと思う。
だったら、たとえこの部屋の中とはいえ、『話す』のは避けたほうがいい。
何か他の、コミュニケーションを取る為の手段を考えなければ。
(・・・いい物、見――――――――っつけた・・・・・。)
小さなサイドテーブルのような台の上に置いてあった物。
紙と、筆。
確か、桜都国で似たような筆記用具を見た。
『日本国の風俗に似ている』と沙羅の国のこと、そして桜都国の事を黒りんは評していた。
だったら、『これ』も同じもののはず。
確か、『墨』といった。
インクに浸し、するり、と紙に筆を走らせる。
さら、さら、さらり。
(うん、我ながら良い出来。)
ピラリ、と黒たんに見せた。
その反応をうかがえば。
その眉間の皺が、クッと深くなった。
「――――――――。」
何となく。
理解してもらえたと思う。
オレが描いたのは――――――――。
『お城』に『黒い犬』と『黒い猫』。
離れた所に『首からゴーグルを提げた犬』と『白い猫』と『モコナ』。
そう、これは。
オレが『桜都国』で描いた『絵』。
黒りんは理解したようだ。
だったら。
オレは調子に乗って次々と描き始めた。
黒い犬がお酒を飲んでるところとか――――――――。
黒い猫がお腹をすかせているところとか―――――――。
黒い犬がお風呂に入っているところとか―――――――。
黒い猫が眠っているところとか――――――――。
黒い犬と黒い猫が戦場で戦っているところとか――――――――。
「――――――――。」
その声は、怒気を含んでいるようで、でも含んでいなくて。
黒りんは、伝達手段がこれしかない事をしぶしぶ了承したようだった。
オレは、『理解』できる。
黒りんが、オレに伝えるのに、無駄な事はしなくても大丈夫。
オレがオレの意思を伝える為に。
『必要な事』を黒りんと共有する為に。
オレは、『絵』と『身振り手振り』で表現しなければならない。
さあ、幕は上がった。
氷雪の魔術師は今、夜魔ノ国という舞台に立つ俳優となった。
ご覧じろ、その演技。
伊達に自分を取り繕ってきたわけではない。
その口から紡がれるはずの言の葉は。
この指が織りなす動きが紡ぎ出す。
それは、『動作』となり。
それはまた『絵』となって。
しのいでみせる、その日まで。
砂漠の姫と、運命の少年と、白き魔法生物に会う、その日まで。
|