解っている。
オレにだって、予見はできる。
『魔力』を遣うのを禁じている、と決めていても、『見えてしまう』物は止められない。
オレ達は、ここで長く『待たなければ』ならない。
その間、『生きて』いなければ。
『死んでしまう』事は許されない。
この旅の『目的』の為にも。
――――――――――オレの、ネガイの為にも。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
とりあえず、オレ自身は『口がきけない』ということで皆が納得している。
たとえ何か言っても、それは『音』であって『言葉』ではないのだと。
オレ自身の『意思』を伝える方法はいくらでもある。
ボディーランゲージ然り。
描画然り。
黒様が聡いせいもあって、ほぼ完璧に近くオレの意思は伝わるようだ。
だとしたら、問題は『オレ自身の側の理解』。
オレが、『相手が何を言っているか』が解らなければ。
黒様と、この夜魔ノ国の人々の『言語』を理解しなければ。
************************************************
つんつん。
袖を引っ張ったオレに、黒様は訝しげな目を向ける。
「―――――?――――――――――・・・。」
もちろん、理解できない。
オレは傍にあったテーブルをぽんぽん、と叩いた。
次に黒様に『どうぞ。』といった感じで手を差し伸べる。
同じように、『椅子』。
『弓』。
『矢』。
『蒼氷』。
きょとん、とした顔をしている。
誰の気配も周囲に無いのを確認して。
オレは、自分を指差した。
「ファイ。」
そして、どうぞ、と示す。
オレの仕草をじっと見ていた黒様の、眉間に皺がふっと増えた。
頭をボリボリとかく。
(理解してくれたね。)
だってそれは、『面倒くせぇなぁ・・・・。』という仕草だったから。
************************************************
未知の言語を習得する時、手っ取り早いのは『固有名詞』から入ることだ。
特に『名前』などは、若干の発音の相違はあれ、ほぼ万国共通。
「――――――――――。」
黒様は、自分を指差しながら、その『言葉』を繰り返した。
ゆっくり、1音ずつ区切ったりもする。
たとえ面倒でも、この作業の重要性は、黒様が一番よく解っているだろう。
そうでなければ、黒様もずっと身振りでオレに伝えなければならない。
ましてや『絵を描く』なんて事は、その性格から鑑みて、『絶対にやりたくない』だろう。
まどろっこしい、コミュニケーション。
だけど、ある日。
ぱちん!とジグソーパズルのピースが当てはまるように。
すりガラスが一瞬で透明なガラスに変じるかのように。
オレの中に『言葉』が流れ込んできた。
(?!)
黒様が、何かを言った――――――――――。
「あと1刻で出陣だぞ。」
解る。
理解できる。
モコナの翻訳機能に頼らなくても、黒様の言葉が翻訳できる。
オレの『セレス語』に変換できる。
(よし!!)
思わずガッツポーズをする。
何事か?といった顔でオレの方を訝しげに見ていた黒様は、オレの『行動』を見てにや、と笑った。
鎧を手にしたオレを見て。
「解るようになったんだな?」
オレは頷いてみせる。
「それは助かる。てめぇが理解してくれなきゃ、俺は迷惑だからな。」
なんて言いながら、その口元には、笑み。
ある意味、正直で、純粋なその反応に、オレも思わずニヤ、とする。
「行くぞ。今日も『勝たねぇ』とな。」
鎧を着けて、弓矢を取って。
オレは黒様と一緒に部屋を出た。
外は夕闇が迫ってきている。
真実の『羽』よ。
お前が見せる茶番に付き合おうか。
――――――――――哀しい、『夢』、に。
|