予想に違わず、小狼はやってきた。
もちろん、阿修羅王の配下として。
半分以上嬉しそうに対峙した黒鋼に、ファイは思わず失笑を漏らす。
(ホントーに解りやすいなあ。)
表向きは、『敵同士』。
その実は『成長を見極め、鍛錬の時を与える』。
そしてその内面は、全力で立ち会えることへの歓喜と満足感。
それだけを見るならば、なんと好戦的なことよ、と思われるだろう。
実際、夜叉の国の者たちにも、黒鋼は好戦的な存在として認識されている。
(それだけじゃないのに。)
口が聞けない設定なこともあり、ファイがフォローをする事もないし、黒鋼もそうされる事を望んではいない。
「好戦的?上等だ。文句があるなら俺に勝ってから言えってんだ。」
そうやって嘯く。おそらく故郷でも似たようなものだったのだろう。
だが、小狼の成長を願って自ら叩き台になることを買って出ているなど、当の小狼が気づくかどうか。
いや、気づかない方がいい。
――――――――――『その時』が来るまでは。
―――――――――――――― * ―――――――――――――
月の城から強制的に引き戻され、やれやれと鎧を脱ぐ。
風呂で汗を流し、着替えて佇めば、廊下を吹きぬける風が心地よい。
「『在る』ことを望むのが、これほど罪深い事だとはな。」
暗がりから流れ出た声。もちろんそこにいるのは知っていた。
何よりもその気配が、『人間』ではなかったから。
「お前は、どうしたい?」
黒鋼は問うた。およそ主君に対する言葉遣いではない。
夜叉王はそんな些細な事には拘泥せぬようで、静かに目を閉じ、やがて天空を振り仰いだ。
「ずいぶんと遠い時間より、あの月の城を巡る戦いは繰り返されてきた。」
手に入れた者の願いは何でも叶うとあれば、当然のことだろう。
「お前たちは異世界から来た。お前たちには解るか?あの『月の城』の正体が。」
二人は顔を見合わせた。
「そのような伝説がある以上、遠い過去に『願いが叶った』ことが有ったのだろうな。」
実例があるからこそ、伝説は語り継がれた。
そして、人々はそれを信じ、戦い続けたのだと。
「それは一体どんな願いだったのだろうか・・・・。」
「まあ普通には叶わないような願いだったんだろうな。」
黒鋼の言葉に、夜叉王は頷いた。
人間の力をもってしても叶わないはずの願いが叶った、その場所があの月の城。
「『悲劇』はその瞬間に始まった・・・・・なんとも皮肉な事だな。」
『奇跡』がもたらした『夢』は、多くの命を奪っていった。
「何のために?」
王は再び問う。もとより二人に答えられるはずもない。王もまた、明確な答を望んではいなかった。
「・・・・夢を見ちゃいけねぇ、なんて法はどこにも無ぇ。」
王は静かに黒鋼を見遣った。
「だが俺には、あの『月の城』が巨大な負の産物を抱え込んでいる気がする。」
「負の産物?」
「何というかな・・・あそこで人の命を『奪って』溜め込んでいる、みたいな感じか?」
「物騒な考えだな。」
かすかに笑みを零し、夜叉王はしかし納得したかのようだった。
「人が死んで赴く所―――――――『冥界』への入り口か?いやそれは違うようだな。」
ふむ、と王は考え込んだ。ファイはつんつん、と黒鋼の袖を引く。
「・・・・・・・・・・。」
唇の動きを読み、黒鋼の眉間の皺が深くなった。
「・・・こいつが言うにはな、あそこで散った命は『贄』なんじゃねぇか、と。」
「ほう?」
「大きな願いを叶える為の材料って所か。焚き火にくべる薪みたいな。」
あの城には『魔力』がある。何か大きな意思によって動かされている。
ファイは伝えた。王は重ねて問うた。
「それは『誰』の意思であろう?あの城自体が持つものか?それとも?」
さすがにファイも首をひねった。城という無機質なものに意思が宿るものだろうか?
「まあ不可能じゃないわな。家自体が魔物でしたなんてのは、日本国の御伽噺にもあるくらいだ。」
黒鋼が御伽噺に詳しいかどうかはさておき、月の城が『命』を求めている物騒な存在であるという結論だけは出た。
「これからどうするんだ?」
黒鋼が問いかけると、王は寂しく笑った。
「私は消えねばならない。だが『ありえない存在』でしかない今の私は、己をどうする事も出来ないのだ。」
それは王の自らの意思によって『消える』ことが出来ないことを告げていた。
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