消えなければならない。
しかし、自分の力では消える事が出来ない。
誰かに『消して』もらわなければ。
そう、誰かに。
「私を『消す』事が出来るのは―――――――阿修羅王だけ、だ・・・・・。」
夢は。
終わらせなければ。
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ここ数日、黒鋼とファイ、そして夜叉王はよく会談の場を持っていた。
「異国の、つまり俺たちの国の話に今頃興味がわいたんだとよ。」
訊ねたり揶揄したりする者に、黒鋼はボソッとそう答えるに止めた。
その表情、その声音から、本当はとても面倒だと思っているらしい、と皆が推測する。
つまり、名誉栄達のために阿ているのではないらしい、と。
「俺がそんな面倒な事するかよ。」
噂を小耳に挟んで不満顔の黒鋼に、ファイも、そして夜叉王も笑みを零す。
黒鋼なら、その実力で全てを示そうとするだろう。
まどろっこしい手練手管などおよそ好みでなかろうし、なによりも『面倒くさい』という意識が先に立つ。
もとよりそういう駆け引きが苦手でもある。
そういった意味でも、黒鋼が今回の当事者であった事は少なからずよい方向であっただろう。
(これが小狼君だったら?)
もちろんあの真面目さ、素直さで皆には好かれただろう。
好感度的には比べ物になるまい。
だが、こういった駆け引き的な事になるとどうだろうか。
『真面目』という先入観で騙しきれるものとそうでないものとがある。
今回の事では、おそらく後者の方であっただろうとファイは結論付けた。
なんといっても今の自分たちの懸案事項は、『夜叉王の出来るだけ迷惑をかけない死に方』なのだから。
「問題は阿修羅王だな。こちらの思惑通り『殺しに来てくれる』だろうか?」
「どうだかなあ。追い込む事は可能だが、決定打になるかどうか。」
願ってしまった者と、
願いを受け止めてしまった者。
共に在りたい。
共に過ごしたい。
心通わせ、対の存在として在りたい。
願ってしまった夜叉王に、『羽』は力を与えた。
それは『叶ってはいけない』願いだった。
しかし今はそれをどうこうしている暇はない。『迷惑をかけない』方を最優先事項とした。
王亡き後の国政をどうするのか。
軍は。
民は。
そして修羅の国とのこれからは。
鳩首し、意見を出し合い、否定し合い、訂正し合い。
ようやくまとまったものを、王は遺言状の形で書き記した。
最後に王の花押をサインし、丁寧に箱に納め、さらに封印する。
封印の紙には、『我に万一の事あらば、これを開けよ』と書き記した。
きっと皆は思うだろう。
王は死期を悟っておられたのだ。
いや、万が一の事を思って悲壮な覚悟で挑まれたに違いない。
我らが負けると思っておられたのか?!
いやいや、王たるもの、常に様々な事に思い至らねばならぬ。さぞかしお辛かったことであろう。
王はただただ我らのことのみ慮っておられたのだ――――――――。
『死後の評判は大事だよ。まあ自分ではもう解らないんけどね。』
ファイの口パクに、黒鋼は眉を顰めた。
「・・・まあ死んでから墓を発いたりされねえのはいい事だわな。」
王はといえば、やり遂げた感で満たされているかのようにゆったりとくつろいでいる。
「もう思い残す事はない。」
満足げに目を閉じ、椅子の背にも垂れて大きく息を吐く。
疲れたか、と問えば、そうだな疲れたな、とだけ返した。
「身勝手かも知れぬが・・・・早く眠りたいな。」
「まあ身勝手だな。」
『願った』のは自分なのだから。
「ご苦労だった。出陣までまだ数刻はあろう。戻って休むがいい。」
「そうさせてもらおう。」
部屋を辞す時聞こえたため息は、どこか羽ばたきの音に似ていた。
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『次で、「最後」だよ。』
部屋に戻ったファイはそう告げた。
「最後・・・・?」
「そう、『最後』。」
この国に落ちて初めて、ファイは『言葉』を発した。闇の奥に蒼い炎を宿した目で。
「『夢』が、次の戦いで、『終わる』。」
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